3月17日
翌日はクリプトン学園中等部・初等部の卒業式で、朝のうちからその準備に全職員が慌ただしく奔走していたが、それもやがて静かになった。
日没。
職員たちは銘々、ライトアップされているキャンパス中央の桜に集まってきた。
「いよいよ明日ですね」
「あの子たちとも明日限りなんですね」
膨らんだ桜の蕾を見やりながら、職員たちは3年間の、そして6年間の、子供たちと一緒に歩んできた心境を語り合っている。もちろん、入職してから1年未満の職員もいるが、それはそれなりに多くの想い出を胸にため込んでいるから、学年最後のイベントを前に感慨も一入(ひとしお)だ。
その、入職1年未満の職員の一人が、ベテランの職員に尋ねる。つまり、カイト先生がめいこ先生に。
「あの、どうしてうちの学園は初等部と中等部の卒業式を一緒にやるんですか?同日挙行だなんて、準備も式進行も大変だと思うんですけど」
「それはね、…」
めいこ先生が説明を始めようとしたその瞬間、
「あっ…」
何かに気づいたハク先生が小さく声を上げる。枝の一部を指さしている。
「始まった…!」
「始まりましたね」
園長が頷きながら言った。
「不思議だ…」
「毎年見ているけど、本当に不思議だ」
皆驚きを口に出す。カイト先生は声も出せず口をあんぐり開けたまま。
「綺麗…」
「どうして解っているんだろう、この桜は」
今の今まで全て蕾だったはずなのに、日没とともに一枝ずつ花開き始めたのだ、しかも人が見ていて解るほどの速さで。
「私の祖父からこの桜について聞かされていますけれど、本当に不思議としか言いようがない。必ずこの17日の日没後に咲くんです。雨でも風でも、たとえ閏年があったとしても」
「だから卒業式を18日にするんですよね」
誰かが日取りの理由を言う。園長は微笑んで
「はい、そうです。ここを巣立ってゆく彼らへの、言わば餞(はなむけ)ですね」
「この辺の桜は、平年ですと下旬が開花日なんですよね」
理科担当の先生の一人が話を繋ぐ。
「そうなんです。それなのにこいつは必ず17日。そして明日の朝には満開。なんとも不思議な桜です」
園長を始め、職員皆「不思議」以外の言葉が見つからないようだ。
「…ってこと。解った?」
めいこ先生が口を開けっ放しのカイト先生に確認する。
「は、はい…」
「もー、ほんとに解ってるのかしら。その閉まらない口に突っ込んでやろうかしら、ア・イ・ス」
「えっ、えっ、何ですか何ですか」
思わず挙動不審に陥るカイト先生。
「解ったの?」
「えっ…あっ、…ああ、解りました、同日挙行のこと」
「よろしい」
ややあきれ顔で、目をつぶりながら首を縦に振るめいこ先生。カイト先生は桜に眼を戻し
「でも、本当に不思議です。目の前で、次々に花開いてゆくとは…。ミステリーです」
ハク先生が会話に入り込んでくる。
「ミステリーはちょっと夢がないコトバかもです。ファンタジーの方が」
「あ、ああ、ファンタジー。いいですね」
カイト先生が頷く。
「アタシは声楽家だから、イタリア語を使うよ」
と、めいこ先生。
「イタリア語ではなんて言うんですか?」
ハク先生とカイト先生の同時の質問に、めいこ先生はウィンクして答える。
「ファンタジア。これはさしずめ、桜ファンタジア、ね」
【小説 桜ファンタジア】 桜ファンタジア
桜ファンタジア製作委員会というコラボがありまして。。。
http://piapro.jp/a/collabo/?view=collabo&id=10013
そちらで活動しているんですけど、この小説はその活動の派生物です。
一応、続き物というか、前提があるので、ご笑読いただく前に設定資料などお読みいただけると欣喜雀躍します(^^)
http://piapro.jp/a/content/?id=h3yv7v4kqyo0w4zl
小説は、他に、
http://piapro.jp/a/content/?id=psy4l7int2vczb3o
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http://piapro.jp/a/content/?id=vyk2aoxjsrbwln5p
http://piapro.jp/a/content/?id=cm9tlqhh4qnraus3
があります。
どれも日記形式のショートショート。
よろしくご笑読くださいませ <(_ _)>
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