『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:27


どうというわけではないのだけれど、何処もかしこもにわかに浮き足立っている様な雰囲気が漂う校舎。
本日2月14日。
『昨今友チョコとかあるから男も女も関係ないよね☆』みたいな素知らぬ顔をして、でも何処か心待ち顔しているそんな生徒達で溢れている。前に久美が告白されたスポットも今日ばかりは列を成さんばかりの勢いで、休み時間のたびに人の出入りが見て取れた。
「グミッちゃぁ~ん。どーすんのー? 」
気怠そうに窓枠に寄りかかりながら漣がその光景を何とはなしに眺めていた。
「ん~。いやぁ・・・何か凛にも聴かれたんだけど、今はどうっていうつもりもないしさー…」
その横で読書しながら久美は普通に答えた。
「でももうすぐで卒業だよ? そしたら部活や学校どころか接点とかほとんどないぜ。自分か何か用が無い限りメールとかで連絡取る様なタイプでもないでしょ」
「・・・なぁーんだよねぇ~~~」
目の前の本から目を放して机にとっぷした。漣から示唆された事は此処最近真剣に悩んだ事であったらしい。バレンタインという行事に乗っかってこれを機に櫂人に告白をしようかと考えていた久美であったが、どうにも結局思い切れずに部員全員分のチョコを用意してしまった。
「そういえば漣は凛から貰わなかったの? 」
「うちは逆。大体凛は買ったチョコは全部自分で食べるタイプだ」
「あー、ぽいねー」
「レェーンー! 見て見てーっ、此処に戻ってくるまでの間にこんなに貰ったのー♪ 」
話の途中で凛が教室に戻ってきた。その手には紙袋2つとそれに入りきらなかったチョコの山。
「漣の分もあるよー」
マスコット的な人気がある為か、双子はとにかく愛でられている。凛の話によると廊下を歩いていたら男女問わずチョコを手渡されたらしい。その中には何故かチョコとは全く関係のない猫耳なんぞも紛れ込んでいた。
「うわぁ、これ全部2人に? 」
「ボクはいーよ。どうせオマエがほとんど食べるだろ」
「うん。あ、漣のは今日家に戻ったら頂戴ね。約束してたガトーショコラ」
「はいはい。帰ったら作ってやるから」
「え、漣が作るの!? 」
「「そうだけど、何が? 」」
久美は漣の意外な特技をこの日初めて知った。

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「まぁ大盛況ね」
そう呟く芽衣子の前には大量のチョコに今にも埋もれそうな櫂人がいた。
「どうせならアイスがいんだけどなー」
「何贅沢言ってるのよ。大体時期じゃないし持ってこられたって今全部食べれないでしょ」
「解ってないなー。寒い中でアイスを食べるのもまた楽しんじゃないか」
「そういえばセンター終わった後も食べてたわね」
「大体おまえだって俺の事言えないだろう」
そう言って櫂人が眼を向けた先には櫂人程ではないにしても大量のチョコの入った紙袋が3つ程机の上に置かれていた。
「何でか毎年女の子に貰う率が高いのよね・・・。本当何でかしら」
櫂人へのチョコはそのほとんどが毎年女性からだが、芽衣子も負けず劣らず8割方女性から貰う事が多かった。残りの2割は告白込みの男性からのものだが、それらに関しては全てチョコと一緒に断り続けている。
「お姉様的な感じが受けてんじゃねぇの? 昔から面倒見いいからなー、女子校だったら多分祭り上げられてるぞ」
「そういうアンタは同性の後輩には慕われて先輩には可愛がられるタイプよね」
「同世代には何故か敵愾心を向けられる事の方が多いな」
結論的に言うならば、同じ羨望を向けられるにしても芽衣子は寛容される方で、櫂人はされないタイプと言っていい。
その時ポケットからのバイヴに気付いて芽衣子が携帯をチェックすると、
「あ、留佳から」
と同時に櫂人の方にもメールが来たらしく、確認すると、
『そこのバカイトより私の方が人徳があるようだぞ♪』
一緒に送られてきた添付画像には櫂人が貰った以上のチョコが紙袋10個では足りずに机を埋め尽くしていた。
「・・・あいつは何を競いたいんだ」
「さぁ、放っとけば? 」
取り敢えず、芽衣子は貰ったチョコを今年はどうしようかと考えていた。

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放課後の部室に一番乗りしたのは1年生達だった。続いて未来と拍がやって来る。
「うわぁ、2人とも凄い量ですね」
拍が双子の持つ紙袋を見て驚いていた。
「あれ、拍先輩はあげたり貰ったりしてないの? 」
「自分はクラスの友達とかと一緒に食べたり渡し合ったくらいで。未来ちゃんにもさっき渡したし。あ、これ3人にも」
鞄から小さな包みを3つ出すと、拍は1年生達に手渡した。
「「わぁーっい! 有難うー拍先ぱぁーい☆ 」」
「そんなに貰ってたらもう要らないかもだけど」
「そんなことないよ! 助かるし本当っ、凛が食べるから」
その横ではすでに拍から貰ったチョコに手を出している凛の姿があった。
「未来先輩はバレンタインしなかったんですか? 」
久美が尋ねると、
「私? したよ~、日頃のお礼とこれからのことを考えて本命に近い義理と安い愛を大量に♪ 」
どうにも関係各所を回り、今後の為の更なる根回しをしていたらしい。
「・・・先輩らしいですねぇ~」
さすがの久美もあまりのぶれなさに納得しか出来ない。
「未来先輩ーっ、アタシにはチョコないのー? 」
「うんっ、ないよ! 」
凛のおねだりを一刀両断した。ごねる凛に、
「あー、はいはい。これで我慢しとけ」
横から漣が鞄からクッキーの入った小さな包みを取り出して渡した。
「はい、グミッちゃんにも」
そう言って凛とは別にちゃんと包装された包みを久美に手渡した。続けて拍と未来にも渡す。
「へ、これ何? 」
「何って、バレンタイン」
「へっへー、グミッちゃぁーん。漣のクッキー美味しいよ~」
「え、これ漣君が作ったんですか?! 」
「そうだけど、何で? 」
「漣、マメすぎるよ」
「そう? 」
すでに凛には先にあげてあったが、今更漣にチョコを渡すのが何だか申し訳なくなる久美だった。それからしばらくして顔を出した3年生達にも後輩達からチョコのプレゼントがあったが、漣は櫂人の分だけは用意していなかった。

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3年は芽衣子から代表して後輩達にチョコが渡された。といってもお徳用パイの実の袋を2つにジャンボポッキー1箱と完全にお茶会を想定してのセレクトである。
「そういえばおまえ達、最近部活動ちゃんとしてるのか? 」
櫂人が尋ねると、未来の代わりに漣がそれに答えていた。留佳の時もそうだが、すでに部長が部長としての機能を果たすのは普段ではないという事が立証されていきつつある。
「櫂人先輩が一番詳しかったってぇのもあるけど、それぞれ楽器担当が違うからセッション以外は基本自主練みたいな感じになってますよ」
「おまえら1年や拍は楽器を元々やっていたから問題ないだろう。問題は現部長だな」
「私、私ですかぁ~? ちゃんとやってますよ~」
「おまえが活躍するのは大体行事あるごとに裏で根回しする事と盗撮だろうが」
「何言うんですか、櫂人先輩。私は部長として部活動記録をマメに付けているに過ぎませんよ~」
物は言い様だなぁと思う一同だった。拍が気を利かせて音楽を流し始める。バレンタインという事もあってそれらしい選曲で、Madnessで『It Must Be Love』 雰囲気的にキュートな感じのメロディーで可愛い恋愛を彷彿とさせる様なナンバーだ。結局部活動は櫂人が顔を出した事もあって久しぶりの座学スタイルで行なわれた。時折楽器を交えて解説したり、歌でリズムを取ったりと、ジャマ研らしいまったりとした時間がただ緩やかに過ぎていった
。そんな今年のバレンタインの締めは3年達が大量に貰ったチョコを活用して漣が牛乳をとレンジを利用して作った即席のホットチョコだった。未来と共謀してわざと熱めに作ったホットチョコを櫂人に渡し、その結果にしてやったり顔の漣を見て、留佳が便乗し久美と拍が止める中、芽衣子は呆れてただ見ていた。

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留佳はチョコを持って帰る為に兄を迎えに寄越したらしく、拍に手伝う様に声をかけた。留佳の兄に興味があったのか、未来がそれに喰いついて3人は先にその場を去って行った。
「メイ、行こうぜ」
「あ、ごめん櫂人。ワタシちょっと職員室に用があるから先行ってて」
「別にいいよ、暗くなるし待っとくけど」
「どれくらいかかるか解らないからいいわ、有難う」
「そ、じゃまた明日な。気を付けて帰れよ」
「えぇ、じゃぁまたね」
櫂人は1年達と一緒にその場を後にした。
―――・・・ま、これくらいは、いいわよねぇ。
久美の気持ちが解るだけに、少しだけ敵に塩を送った形に芽衣子は1人苦笑いを浮かべた。卒業してしまえばその後どう交流が続くかは当人達しか解らないもので、芽衣子の場合、櫂人とは付き合いが長いだけあって多分この先交流は続くだろうと思っている。しかし学校という限られた中で培われた関係はその外に出てしまえば解らないものである。そう思うことがあるからこそ芽衣子は気を利かせたのだ。
「ものわかりの良いフリしてるとその内に泣きを見るぞ」
「ふわぁ!? 」
突然後ろから声をかけられて振り返ると、今日は部活に顔を出さなかった岳歩の姿がそこにはあった。
「ちょっ・・もぅ、先生驚かさないでくださいよ」
「そんなつもりは全くねぇーよ。メイが勝手に驚いたんだろうが」
「結果同じでしょう」
その手には1つ紙袋が握られている。中にはチョコが入っていた。
「先生も相変わらずおモテになるようで」
「草薙と斉藤には負けるぞ」
「・・・あの2人はもう規格外でいいんじゃないかしら」
「そういうお前だって結構貰ってるじゃないか」
「ほとんど女の子からですよ、男子からのは断ってますから」
「何、まさかそっちの気があるとか衝撃の事実を言い出したりしないよな」
「なっ!? まっさかそんな事言うわけないでしょう! 頭大丈夫ですか! 」
「至ってまともなんだがな。オレ一応教師だし」
「その教師の発言とは思えません。はぁー・・・ただ単に告白込みでこられる事が多いから一緒に断ってるだけですよ」
「メイ、お前のその無駄にストイックな感じが同性に好かれる秘訣なんじゃないか? 」
そんな冗談を言い合いながら2人は職員室に向かって歩を進めた。職員室に着き、中に入って芽衣子が最初に見たのは岳歩のデスクに山と積まれたチョコの入った紙袋だった。その量にさすがに芽衣子も、
―――留佳と同じ人種が此処にも居たか。
と、つい思わずにはいられなかった。

to be continued...

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • オリジナルライセンス

『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:27

原案者:七指P 様
お預かりした設定を元に書かせて頂いております。
拙いながらではありますが、楽しんで頂けたなら幸いです

~~~っきしょおぉおぉぉおおぉぉぉ!!!
また6000字を超えて再編集
そんな訳で今回27.5のおまけを制作
明日あげれそうにないので今日急いで制作する
出だしは思い付いていたんだが、後が出てこず
でも書き始めたら何か・・・でけた

今回入れたのは、

『愛レゲェ2』
(http://www.neowing.co.jp/detailview.html?KEY=TKCA-73410

Madness『It Must Be Love』
http://www.youtube.com/watch?v=vmezIIrFQmY

《バレンタイン・曲・スカ(レゲェ)》で検索かけて調べて決めた
ちなみに岳歩が芽衣子に薦めた曲はタイトルで決めた
『陽のあたる場所』は完全に私情(同じタイトルのオリジ話を持っているため)
『ジェラシー』は岳歩から察してください(笑

他にも未来が振りまいた「安い愛」発言は実際にホワイトデーに営業やってる友人が言ってました
「見た目と中身が違う」というのは私がよく言われます
「まさかそっちの気があるとか衝撃の事実を言い出したりしないよな」も実際に親に私が大学時代疑われました(とんだ誤解だ
ネタになりそうなのが周りにあって良かったと心底思わないでもない回だったりする
あながち悪くないな、この性格(反省しろよ

ちなみに今回、コレ書きながら延々と96猫さんの『恋愛フィロソフィア』(黒うさP)をエンドリピートしながらやってた、何故か

此処だけの話
体育祭のおまけ話がまだあったりする
ついでに文化祭編を加筆修正したい
あと稀に暇潰しに読み直すと未だに誤字を発見する、どうにかしたい・・・

閲覧数:91

投稿日:2013/02/13 23:14:12

文字数:4,419文字

カテゴリ:小説

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