いつもとは違う騒々しい校内。

しかし、理科室で『科学+生徒会部』は異質で
物静かな雰囲気を漂わせていた。


「―――、そういうわけで例年通りに、科学生徒会は
全面的にクラス、各部活、同好会のイベントの
催し物をバックアップするという方向で活動します」

メイコが生徒会室の壇上に昇り司会をしていた。

生徒会室は10数各の役員と科学部の二人(カイト・レン)
で溢れて、なんだか緊迫した空気に
レンは何故かコチコチに緊張して
強ばった表情を浮かべていた。

「ただ、最終日のフォークダンスとキャンプファイヤーは
生徒会の単独イベントとして行うものとします。
みんな、忙しいとは思うけど……、がんばって
文化祭を盛り上げていきましょう!」

カイトとレン以外は威勢よく返事をした。

どうもこの二人はちょと浮いている存在のようである。

「さて、それでは各者、担当イベントの
進行状態を一人ずつ、報告してもらうわ」

役員達の表情が変わり、全員、背筋が伸びる。

その様子にカイトは「?」だったが
その理由は直ぐにわかった。

一年生の実行委員が恐る恐る立ち上がった。

「あ、あの……、私達のクラスのメイドカフェなんですが……」

「はいはい、どこまで進んだの?メニューや制服は
どんな感じなのかな」

「……ごにょごにょ」

「き・こ・え・な・い!」

メイコが強めの声で言った。
レンはアワアワと口を手で押さえてる。
この一年の実行委員はレンのクラスの生徒なのだ。


「す、すみませんっ!実は予算不足で制服が
作れなくって……」

「う~ん、でもね予算はもう出せないよ。
で、実際に何着作れるの?」

「あ、えっと……、ごにょごにょ」

「き~こ~え~なぁぁぁい!」

「うわぁ~ん!ゴメンナサイ!2着です~~……」

この一年生はもう半泣きである。

「ちょっとデザインの絵を見たけど、懲りすぎね。
レースいっぱいついてるし……。後先考えないと
こういう事になっちゃうの。来年から気をつけなさいね。
とりあえず、家庭部にメイド服が数着あるから
それを上手く使いなさい」

「え?!」

一年生はチョットびっくりしたようである。
メイコの思わぬ助け舟と
メイド服がそんなにこの学園にあるとは
思いもしなかったからだ。

「こういう事もあろうかと、用意しておいたのよ。
昨年のメイドカフェの制服も残しておいたし
違う学校からも借りてきてるの。もちろん
お返しにこちらのメイド服も貸し出す事になってるけどね。
だからあなたのクラスの服はとびきり可愛く仕上げてね。
きっと、あっちの学校もこの服なら気にってくれるだろうからさ」

「うわぁああ~~ん!会長!ありがとうございますぅ!」

この一年生も辛かったのだろう。
実際、クラスのイベントを進行しようにも
クラスみんなを余程うまく先導しないと
上手くいかない事のほうが多いはずなのだ。

クラスメイトと生徒会の間で
この一年生も余程、胃の痛むような思いをした筈。
一年生なのに中間管理職の苦しみだ。
メイコにはそれが分かっていて助け船をだしたのだろう。

厳しいだけでは無く、みんなをちゃんとフォローする
ところが、生徒会役員達の厚い信頼に繋がってるのだなと
カイトはうんうんと感心した。

レンもほっとして胸を撫で下ろしている。

しかし―――、一年生は頭をコリコリ掻きながら話を続けた。

「あ、あのぅ……、ついでになんですが……
そのメイド服、ちょっと……寸法間違えちゃって……
小さく作っちゃったんですぅ!ゴメンナサイ!」

ずっこけるメイコ。
体勢を速やかに立て直しメイコはこめかみを
人差し指でトントンと叩き、何かひらめいたようで
指をぱちんと鳴らした。

「うん、良いアイディアがあるわ!
その服、あなたのクラスのリン君とレン君に
着せなさいよ!二人とも体が小さいし服、着れるんじゃない?
インパクトあるわよ~。男子生徒のメイド服なんてさ!
可愛いじゃない?!うんうん!」


良案が浮かび、ご機嫌なメイコ。

一方、レンはその一連の流れが何故か不意に
自分に突然降りかかり
胸を撫で下ろし安心した表情のまま―――
石のように固まっていた。


――――――…☆


メイド服を着たリンを見たクラスメイト達は
一斉に歓声を上げた

黒の半袖ワンピースを改造したらしいが
スカートは膝上20cmほどのミニ。
しかも中にはフリルがごっそり貼り付けられて
フワリと膨らんでいた。
膝上の白いニーハイソックスも細い足によく映える。

「う~~~……」

生徒達の歓声とは裏腹に不本意なこの自分の格好に
唸り声を上げる。

腕に針刺しを付けた女生徒が言った。

「ほんとごめんね~。小さなサイズのワンピースに
調子にのってフリルを盛り込んだら小さくなっちゃって……。
でも良かった!リン君が多分、一番この服に合うよ!」

取り囲んでる生徒一同うんうん唸ってる。

リンにとって不本意だが
徹夜明けで作り、フラフラになってる女生徒の
喜んでる顔を見ると断る言葉も喉で留まってしまった。

「当日は、カフス……腕に白い袖がつくから」
笑顔だがボロボロに疲れた顔の女生徒は
満足げな顔を浮かべ、リンに言った。

「あ……、そうなんだ……」
引きつりながらも笑顔でリンは応えた。

(こりゃ、ますます断れないな……)
リンは諦めモードに突入する事にした。

「いてッ」
首の襟の部分がチクリと何かが刺した。
手で首元に触れるとマチ針が生地に刺さっている。

「うわ!ごめん!仮縫いで刺したままだったんだ!
リン君大丈夫?!怪我しちゃった?」

仕立てた女子生徒が慌ててマチ針を抜いて
リンの首元を覗いた。

リンは笑って「大丈夫だよコレくらい」と
いって胸元を抑えた。


その時
ガラっと教室の扉が開く。

「きゃ☆」と
クラスメイト達が黄色い声を上げる。

そこには顔を赤らめ困った顔した
メイド服姿のレンが立っていた。

リンと全く同じデザインのメイド服。
むしろ、スカートはレンのほうが短いようだ。

「ちょっと……はずかちぃ……わん」

その言葉にみんな再び黄色い声を上げる。

クラスメイトの女子がクシをカバンから取り出し
レンのゴムで結わえた後ろ髪を解き髪を梳かした。
チョットだけ毛先に癖がありクリンと後ろ髪が
ロールしてとても可愛らしくなった。

「ちょっと、レン君て実は超可愛いんじゃない?」
女子達が騒ぎ出と
その声がどうやらリンには面白く無いらしく
不機嫌な顔をさらに仏長面にさせた。

(そもそも、レンが会長の言いなりになって
こんな有り体になっちまったんじゃないか)

リンは心の中で呟いたが口には出さなかった。

たしかに、レンのメイド姿は可愛いなと
素直に思ったし、クラスのこの盛り上がりを
ぶち壊すのも気が引けたからだ。

レンはつかつかとリンの側により
キョロキョロとスカートの裾を眺めると
突然、リンの短いスカートをめくった。

「にゃ!!」
突然だったので変な声が漏れたが
リンはすかさずスカートの裾を両手で守った。

「なななな!おまえ!何を!」

「わお?スカートの中のパンツ、どうしてるのかな~って
気になったわん!なんかゴワゴワしてパンツ変なんだわん」

「な、な……」

リンは顔を恥ずかしさで頬を赤くさせたが
直ぐに怒りで顔全体がぐつぐつと煮え立つ
ミネストローネのように赤く染めた。

ポコポコポコとレンの頭を連打で叩くと
レンはたまらず逃げ出す。

「わお!ごめんだわん!いたぁ~いわん!」

「シャァァァー!!このダメ犬!まてぇーぃ!」

「うわぁあ~~んだわぁん~~」

レンは教室の扉を勢いよく開け飛び出し
リンもそれを追いかけた。

ぽか~~んとするクラスメイト。

「……あの二人、メイド服で飛び出しちゃった……」

「それにしても……、あの二人。よく似てたね……」
子ネコの双子みたい」

クラスメイト達はドッと笑い出した。




学園内を追いかけっこするリンとレン。
メイド服を着て走り去るその様子は
すぐに生徒達の噂になった。
あちこちで写メや動画で撮影され
生徒達のツイッターやブログとかにすぐ書き込まれる。

「うあぁぁ~~ん!リン君!許してだわん!」

「うっさい!待ぁちやがれぇ~~!」

メイド服を着て半泣きで逃げ回るレン。
メイド服を着て鬼の顔で迫り来るリン。

傍目で見てると可愛らしいのだが
当人達にとっては必死である。

「きゃ☆」
「きゃん☆」

後を見て走っていたレンはメガネの女生徒とぶつかった。

「あわわ!ごめんだわん」

「いたた……、いや、大丈夫です……あれ?あなたは
レン君?」

「……、あ、グミ先輩だわん」


偶然にもぶつかった相手は先日、生徒会長の
メイコに紹介された一学年上のグミだった。

レンは次期生徒会会長候補であるグミの推薦人
を請け負っている。

「推薦人」とは、生徒会会長の候補者がどういう人物であるか
生徒達に紹介する役割で、実質、一人で選挙活動するのは
大変なため、「推薦人」が「候補者」をサポートし
選挙ポスターや公約、スピーチ原稿のチェックなどの
雑用をサポートするのである。

かなり重要な仕事なのだが
メイコはレンにこの仕事を託したのだ。

本格的な選挙活動は文化祭が終わってから始まるのだが
グミとレンはまだ、一回しか顔を合わせていなかった。


「あ……、あのレン君。実はお話があって―――」

グミはたどたどしくレンに話を仕掛けてる最中に
レンは「グエっ」とカエルのような声を上げた。

レンの後にはレンの首を羽交い絞めにしてる
鬼の形相のリンの姿があった。

「つ~~…か~~…ま~~……え―――たっ!」

「く、くるひぃ~わぉん……」

じたばたするレン。

「さ~~て。どうしてくれようか?ん?」

リンは目の前にいる人物に気がつき
手を緩めた。

「あなたは―――、グミ先輩ですね」

「あ、はい!そういうあなたはミクさんの推薦人の
リン君ですね」

お互いに無言でペコリと頭をさげた。

「あの……、ちょうど良かったです。
あなたたち二人にお話したいことがあります。
すぐそこに新聞部の部室があるのでそこでお話しませんか?」

リンとレンは顔を見合わる。

どうやら選挙に関わりある話であるのは
レンの頭でも理解できた。

気がつけば窓の外はオレンジ色に染まりつつあり

夕焼けの斜がグミの顔を隠していた。



――――――――…★

【つづく】

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

青い草 9話②

続きです~~。9話の2番目!

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投稿日:2018/05/09 04:58:34

文字数:4,378文字

カテゴリ:小説

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