私は今、親友の女の子と付き合っている。
彼女との出会いは、幼稚園だった。
幼稚園の時の私は、男の子とよく一緒にいた。
一緒に走り回りながら、キャーキャー言っていたことから、完璧に男の子認定されていたのだ。
また、女の子とも一緒にいることがあった。
1番仲が良かった『あおい』ちゃんと、よくプリキュアごっこをして遊んでいた。
2人で廊下を走り回ってはいろんな人を助けて(倒して?)いた。
周りからの人気はまぁまぁあったし、人付き合いは今でも上手い方だ。
あの時の周りとの友情の深さは、広く浅く、昔から知っている子は、まぁまぁ深く、のような、ある程度距離感の取れた交友関係だった。
しかし、彼女が初めて訪れた日。
昔から男勝りな性格の私は、幼稚園の時に初めて会った彼女に、まっすぐに惹かれてしまっていた。
色々な人に好かれそうな、人懐っこい笑顔。
それでいて、どこか大人っぽい容姿。
大人っぽくて可愛い、そんな漫画のような彼女が初めて見た時は、子供ながらに綺麗だ、とか可愛いとかと思っていた。
まだそれだけなら、良かったかもしれない。綺麗だな、と思っているだけなら、相手にも私にもなんの影響もないのだ。だが、私の親譲りの行動力は凄まじく、紹介されてから速攻で話しかけた。彼女は目を丸くして、少しだけ笑った。足速いんだね、と。
初めて見た彼女の笑顔に、くじら組のみんなは一瞬で虜になった。
そこからは、みんながワーワーと彼女を取り囲んで来たので、「逃げよう」と言って、私だけが知っている秘密基地に逃げ込んだ。誰も知らない秘密基地。これまでも、これからもずーっと私だけの場所だと思っていたのに、他の子を連れ込んでしまった。そこからの戸惑いと、なぜこんなことをしてしまったのかという疑問に頭がいっぱいになり、すぐに黙り込んでしまった。「…………ここ、どこ?」
彼女が問いかけてきた。
頭が真っ白になっていた私は、戸惑いながらも、こう答えた。
「ひ、秘密基地?」
「秘密基地?秘密基地ってなに?」
「え、えーっとね……」
そこから、私も覚えたてホヤホヤの知識『秘密基地』を一生懸命説明した。
のちに、彼女はこう言った。
「あの時、一生懸命説明してくれる未來を見てて、この子悪い子じゃないんだなぁって思ったんだよねー」
と、ふわふわ笑いながら。
彼女がそんなことを思っているなんてつゆ知らず、私は、覚えたてホヤホヤの『秘密基地』をどうしよう、どうしよう、と思いながらひたすら説明していた。
「………っていうものなんだ」
「へー……すごいね、頭いいんだね」
「え、なんで?」
「だってー、そんな難しそうなこと知ってるんだもん。未來ちゃんって頭いんだよ、きっと」
ニコニコしながら近くの落ち葉で遊び始めた彼女は、今思えば物凄い神経だったと思う。
私がひたすらに首を傾げていると、どこからか大好きな恵子先生の声が聞こえた。
「未來ちゃーん、紅葉ちゃーん!どこにいるのー?出ておいでー」
その声が聞こえると、彼女ーー紅葉はすっと立ち上がり、くるっとこちらを向いた。
「ねぇ、未來ちゃん。ちょっとだけ、いたずらしない?」
うっすらとした記憶だったが、その時の紅葉は完璧にいたずらっ子の顔をしていた。いたずら大好きの私は、すぐさま立ち上がり、
「ちょっとじゃなくて、いっぱいやろうよ!」
と言った。
紅葉は、ちょっとだけ微笑んでから、「こっち」と言って私の手を引いた。
なんで隠れ場所知ってるの、とかなんで私の名前知ってたの、とか聞けば良かったんだろうけど聞かなかった。
ちなみに、しばらくしてから怒ると怖い加奈先生に見つかって、たっぷりと怒られた。それからは、いたずらをあんまりしなくなった。
そんな私たちは、今年の春に中学生になった。ピッカピカの中学一年生だ。私がいるこの街は、小学校が二つに分かれていた。名前はそのまま、西小学校と東小学校。そして中学校は一つだけの、中央中学校。西小学校の全校生徒は、百人と少し。東小学校の全校生徒は、八十人ぐらいだった気がする。その二つの小学校の生徒は、必然的に一つしかない中央中学校に集まる。つまり、紅葉を好きになる輩が増えていくわけで。いや、別に紅葉が好きになっているのならそれで良いのだ。紅葉をちゃんと大切にしてくれて、ちゃんとしている人なら全然オーケーだ。
だが、だ。
紅葉の、あの綺麗な容姿を好んでやって来る輩が大勢いることは明らかだ。
だから私は、ボディーガードという名目でストーカーじみたことをする事を宣言した。
「早速、明日から実行だよ!」
紅葉をギューっと抱きしめながら胸を張って言った。
「……2人とも、付き合ってるんじゃないんだから、そんなくっつきながら変な宣言しなくても……」
私たちの親友ーー瑞樹が、呆れながら言った。
私は、残念ながらもう付き合ってまーす、と言いたい気持ちを抑え、付き合ってないもーんと返す。
「ばーか、この2人が付き合ったらレズになっちゃうじゃん!」
と、東小出身の菜津が言う。
ピクッと動いた紅葉の肩をポンポンと軽く叩き、安心させる。
「つっても、この2人の場合付き合っててもわかんなくね?」
「あー、それはわかるかも」
もう付き合ってるようなもんだしねーと、物静かに見えて結構うるさい図書委員、田原佐奈が言った。
「ちょっとー、付き合ってないって」
あはは、と笑いながら声をかける。
「そーそー、ただの親友だもんねー」
ちょっと声のトーンが下がった自称親友が、ニコニコしながら言った。
「おー?親友って思ってもらえてるんですねー!」
柔らかいほっぺたをツンツンしながら紅葉に言う。
「くぉらー!もう1人の親友を忘れるなぁー!」
「「ぎゃー!」」
背後から抱きつこうとしてきた瑞樹に、わざとらしい悲鳴を上げながら2人で逃げ回る。
「まーてー!!」
「ダレカタスケテー!!」
「棒読みやめい!!!」
ギャーギャーと走りまわる私たちを見て、みんな大笑い。海外からの転校生で、おちゃらけ者のタイガが一つネタを言ってまたまた大笑い。
私たちの所属するクラス、1年D組は、そんな楽しいクラスだった。
ホームルームの時間。
少し太めの男性体育教師、郁美先生が担任の1D。
郁美先生は朝から元気が有り余っている人だから、朝の会の出席確認は、みんな元気よく挨拶をするのだ。
だけど、その出席確認がものすごく特徴的で……。
「えーと……男子、安室風磨!」
「はい!」
「どうだ、母ちゃんの様子は?」
「え、別にいつも通りですけど」
「でも、芸能界引退しただろ?」
「いや、うちの母さんは普通のパートですよ!」
みたいな感じで、いっつも一人一人に少しだけコントが含まれる。
「小野浩介!」
「はーい!」
「こないだ西小に行ってきたよ」
「あ、そうなんすか」
「んで、元6Bの担任、丸岡先生に会ってきてさ、小野の6B時代どうでしたか?って聞いたんだけど、なんて答えたと思う?」
「いやー優秀でしたよー!俺は!なんで、もっかい帰ってきて欲しいほどの優秀さでしたね、でしょ!」
「いや、小野のことはもう忘れたいです、だったよ」
「えー!!!なんでー!!!?」
クラス1番の変人、小野浩介がナルシストじみたことを言い、教室内が笑いに包まれる。
そりゃそうだろー、やら、当たり前、なんて言葉が飛び交う。
そんな感じでどんどん出席確認が進んでいき、1時間目の時間が迫る。
「はい、お休みいません」
先生のその合図で、日直は次に移る。
「次、先生の話、先生お願いします」
「はい!」
教室の端っこにある先生の机から立ち上がり、教卓に立つ。
「えーと、今日も寒いねー。昨日なんて雪降っちゃったからねー!」
そう、昨日は関東にしては珍しく、雪が降ったのだ。
「昨日めっちゃやばかったよな!」
「めっちゃ雪だるま作ったー!」
雪に飢えた私たちは、やっぱり雪が降ると嬉しいもので。昨日は、クラスの女子ほとんどの人が唯一の広場に集まって雪合戦やらかまくら作りやらを楽しんだ。私たち(私、紅葉、瑞樹)は三人で一つの雪だるまを作ったり、自分のパーツを作り終わった私が作ったかまくらのなかにぎゅうぎゅう詰めで入ったりしていた。瑞樹がみんなと遊びに行った時は、かまくらの中で隠れてキスしたりしていた。そのことを思い出して、顔が熱くなった気がするがほっておく。
ひとしきりみんなの雪の日話を聞いたところで、先生が切り出した。
「遊ぶのもいいですが、冬休みのワークは配られましたよね?」
みんなの顔が固まるのがわかる。あー、これはみんなやってないな?
「竹内さん以外の全員の顔が固まってるんですが」
え、嘘。
振り返ると、固まるみんなの顔。
いや、まぁ、この人たちが終わってないのは理解できてるんだよ、うん。だって、終わらせてるわけないし。
チラッと横を見ると、これまた固まっている方々が。まさか、と思いつつ、紅葉の方を見ると…………案の定。
変な顔をしながら固まっている紅葉。
「…………竹内さんはちゃんと計画的にやってるようですね。チラッとワークを見せてもらいましたが、あと2ページで全て終わるそうです」
はー?神かよー!という男子の声が聞こえてくる。
「っつーか、未來が早すぎるだけっすよー!俺らそんな早くできないもん」
柔道部所属、山口空が大声で言う。
「そうそう!だって未來って大体学年10位以内じゃんか、それについていくのは無理だよー!
バトミンドン部、福田櫂が空に乗る。
「くっそー!負けた!俺あと5ページだったのにー!」
タイガがグリコのポーズをしながら叫ぶ。
「なんでそんなポーズしてんだよ!」
と、野球部管野からツッコミが入り、みんな爆笑。
「はいはい、うるさいよー」
郁美先生がみんなを宥めて、静かになる教室。
「まぁ、そういうことで、わからないところ等があれば先生に聞いたり、もうすぐ終わりそうな竹内さんと矢部君の妨害をしながら質問してください」
ドッと笑いが起きる。
任しといてくださいー!という圭太にやめろー!というタイガ。
隣の席の男子、石川貫太が、
「じゃ、お前に聞きまくるから覚悟しとけよ?」
と言って私の背中を叩いた。
「へいへい、それでも私は進めるけどねー」
とニヤッと笑いながら返す。
おおっ、宣戦布告に答えたぞ!と言う声が後ろから聞こえてくる。
1番前のど真ん中だと先生に1番近いので、まるっきり郁美先生に聞かれていたらしく、ニヤッと笑った先生を見て嫌な予感を感じながらも愛想笑いを浮かべた。
「よし、じゃあ竹内さんは余裕らしいって、全クラスに広めとくぞ」
「やめてください」
という、可愛い生徒のお願いは受け入れられず、次の日の朝には自分のクラスのみならず、後の3クラスの生徒からの質問ぜめにあったのだった。
お前ら、先生に聞けよ!
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