オリジナルのマスターに力を入れすぎた結果、なんとコラボで書けることになった。
オリジナルマスターがメイン、というか、マスター(♂)×マスター(♀)です、新ジャンル!
そして、ところによりカイメイ風味です、苦手な方は注意!

コラボ相手は、かの純情物語師(つんばる命名)、桜宮小春さんです!
(つ´ω`)<ゆっくりしていってね!>(・ω・春)



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 昼に起床することにも、ずいぶん慣れてしまった。学生身分の一人暮らしは、こういうことが普通にできてしまうからよくない(いや、その現状に甘んじている私がいちばんよくない)。どこぞの社会人のお姉さんは、今日も仕事だというのに、昨日はよく飲んでよく酔っていたなあ、なんて思いながら寝間着代わりのTシャツを脱ぎ捨て、顔を洗うついでにシャワーを浴びて、タオルを身体に巻いたままパソコンの電源を入れた。



―Grasp―
アキラ編 第一話



 パソコン、といっても、前までの大型デスクトップではない。買ったばかりのノートパソコンだ。薄くて軽くてすぐに壊しそうだ、なんて思いながら買ったのだが、意外と使い勝手もいい。なにより、

「おはよう、めーこさん」
「おはようって……もうお昼ですよ、マスター」

 めーこさんとかいとくんが、前のパソコンより住みやすそうにしているのが、喜ばしいことだと思う。エディターを立ち上げるまでの時間が短くなって、めーこさんもかいとくんも快適だと言っていた。いわく、「緊急回避がしやすくなった」――まだこのパソコンはウイルスにもワームにも感染させたことがないというのに、どういう言い草だろう。
 あくびをしながら、もうひとつのエディターを立ち上げる。

「おはよう、かいとく」
「ま、まままマスター! なんてカッコしてるんですか!」
「朝からうるさいよ、かいとくん」
「朝じゃないですよ、今何時だと……じゃなくて、はしたないです、だらしないです、マスター! とりあえず何か着て下さいッ」
「キミ、おかあさんみたいなこと言うねえ」
「マスター……流石にその格好は……おかあさんじゃなくてもひとこと言いたくなりますよ。いいから服着てください、カイトが泣きそうです」

 マスター、おれらに対して恥じらいとかないですよね――なんて涙声が聞こえてきた気がするが、キミらに恥じらってもねえ、なんてココロの中だけで反論しながら、しぶしぶ服を着た。
 立ったついでにコーヒーを淹れて、改めてパソコンの前に座りなおす。

「さて、めーこさん、かいとくん。新曲の話だけれど」
「新曲? めーちゃんメインの曲作ってるんじゃないでしたっけ?」
「うん。でもね、それいったん置いておくことにしたよ」

 え、と、めーこさんが不安げな声を出した。
 いま作りかけの曲は、めーこさんに歌ってもらう予定の、ちょっと重めのロックだった。とくに制作に難をきたしているわけでも、めーこさんの調声に問題があるわけでもないのに、突然の保留宣言に、めーこさんは不安になったのだろう。なんだかんだいって、正直なところがめーこさんの可愛いところだと思う。

「マスター、私なにか……」
「ああ、違う違う。めーこさんに問題がとかじゃなくてね。ちょっと別件で、よそ様と一緒に曲やることになったから」
「よそ様?」
「うん。悠サンと」
「白瀬さんと?」「ハルカさんと……?」

 めーこさんは、先ほどの表情から一転して、ぱあっと顔を明るくした。反面、隣に立つかいとくんは、頬をひきつらせ、ついでに眉まで顰めていた。

「ハルカさんって、あの……なんで一緒に曲とかいう話になってるんですか」
「? いやなのかい?」
「そういうわけじゃなくて……」

 そういえば、前に悠サンに会って以来、かいとくんは、あまり悠サンの話題を出すことを好まない。美憂先輩と飲んでくる、といえば、笑顔でいってらっしゃいと送りだすくせに、悠サンも一緒だというと、その笑みがすこし引き攣る。そういえば、悠サンに一度めーこさんの調声をお願いしたことがある、という話をしたときも、露骨に嫌そうな顔をした。かいとくんは悠サンがきらいなのだろうか。

「いいんだよ? 別に、きらいならきらいといえばいい」
「だから、そうじゃないですってば」

 むうと口をとんがらせたかいとくんは、なにごとか思案しはじめたようだ。……よくわからない。
 そんなかいとくんの様子に呆れながらも、めーこさんは嬉しそうな声音で質問を続けた。

「ということは、VOCALOIDオリジナル曲ですか?」
「察しがいいね。ボーカルは誰にするか決めてないけれど、たぶん向こうはMEIKOとKAITOがいちばん使い慣れているだろうからね、きっとキミたちにも手伝ってもらうことになると思う」
「こういうの、初めてですね」
「そうだねえ。割と付き合い長いけど、むしろ今までそういう話が出なかったのが不思議だと思ったよ」

 思えば、美憂先輩にもいろいろ手伝ってもらってはいるが、美憂先輩とも一緒に曲作りをしたことがない。ああ、できるなら先に美憂先輩と一緒にやりたかったなあ、なんて、もう遅い話だろうなあ。

「それで、どんな曲になるんですか?」
「まだぜんぜん、なにもきまっていないよ。でも、とりあえず、次の週末は悠サンちに行くからね、キミたちも連れて」
「おれたちも?」
「当然だろう。とりあえずパソコンは持っていかなきゃならないんだから、必然的にキミたちにもついて来てもらうよ。ついでに向こうの筐体さんたちに挨拶するといい」

 めーこさんもかいとくんも、筐体にあこがれている。筐体にデータを保存しておけば、PCがいくらウイルスに感染しようとも、筐体まで感染させなければデータは保持されるから――なんて、ふたりとも私を最大限ばかにした(としか思えない)論を展開してきたけれど、本音はきっとふたりとも一緒だ。なんといっても、実体があるもののうたとないもののうたでは、うたにのる圧力というか、実感がちがう。ライヴで聴く音と、録音で聴く音がちがうのと同じような理屈だろうと思うが、とにかくなにか重みがあるのだ。それには私も同意するけれど、いかんせん筐体を買って維持するだけの甲斐性はない。だから、アプリで最大限できる調声をこころみているのだ、と、ふたりにはいいきかせている。
 しかしながら、じつは、ウチのめーこさんとかいとくんは、筐体型のVOCALOIDと顔をあわせたことがない。美憂先輩のところの筐体型とは、ネットで「会った」りしたそうだが、所詮それもデータ上の話だ。そういえば、いつだか悠サンちのれんくんが来た時も、結局顔を合わせてやれなかった。
 めーこさんは、あこがれてやまない筐体型との企画だというのを聞いて、満面の笑みを浮かべた。

「白瀬さんの家って、初音ミクや鏡音リン・レンもいるんですよね」
「そうだね。巡音……と、それはいないんだっけか」

 めーこさんの笑いじわが深くなった。おおかた、私のPCの中にはいないじぶんの「きょうだいたち」を思っているのだろう。MEIKOにとっては、KAITOもきょうだいのうちにはいると思うのだが、ウチのめーこさんにとってかいとくんは、きょうだいなんて生易しいものではないようだから、余計にそういった年下のきょうだいへのあこがれが強いのだろう。

「……向こうはKAITOも筐体なんですよね」
「とうぜんだろう」

 今まで沈黙を守っていたかいとくんが、神妙な面持ちで問いを発した。

「筐体のKAITOって、その」
「なんだい? はっきり言いなよ」
「……かっこいいですか?」

 は?

「だって、おれよりその筐体KAITOの方がかっこよかったら、まかりまちがってめーちゃん取られちゃうかも知れないじゃないですか!」
「ば、バカ、何言ってんのよ! どう間違えばそういう話になるのよ!」
「だってめーちゃん、もし、もしだよ? おれより筐体の方がかっこよかったら、そっちに“きゅーん”ってなんない? おれに内緒で筐体の方に会いに行ったりとか……!」
「できるわけないでしょ! こっちは筐体がないんだから!」
「きょ、筐体があったらありうるってこと……!?」
「なんでそう深読みする! カラダがあってもしないわよ、そんなこと!」

 ……ばかにつける薬はないという。
 ウチのかいとくんは、どうしてこうなったのか、めーこさんのことが大好きだ(いや、思い当たる節はあるけれど、個人的にはあまりに面倒で思い出したくない)。その過保護っぷりと言ったら、過保護という言葉ではたりないように思う。そしてときどき、このように妄言まがいのことを口にする。頼むから、よそではそんな恥ずかしい会話をしてくれるなよ、と思うのだが、なんだかんだでめーこさんもかいとくんのことを憎からず思っているようなので、そのやりとりにも拍車がかかるのだろう。
 しかし、いい加減、見ている方の身にもなっていただきたい。

「はいはい、夫婦喧嘩はフォルダに帰ってからやってくれるかな」
「で、マスター、どうなんですか!」
「あー、うるさいねえ。筐体の容姿は基本的にアプリ状態のキミたちとおんなじだよ、ネットで見たことくらいあるだろうに」
「でも実物はわかんないじゃないですか! 筐体の方がすこし髪長いとか!」
「そこまで気にして見ているわけないだろう、キミは私にどんな視点で筐体を見ろと言っているんだ!」

 呆れてものも言いたくなくなる。これ見よがしに額に手を添えると、PC内でめーこさんの鉄拳が唸る音がした。次いで、かいとくんが地に沈む音。……うん、今日もいい音だ。

「とにかく、週末の予定はそういうことだから」
「わかりました、マスター!」

 元気よく返事をしたのはめーこさんだけだったが、かいとくんからも同意は得たものとして判断して(まあ、同意がなくてもやらせるけれど。なにせ私は彼のマスターなのだ)、エディターを閉じる。
 最後にめーこさんのエディターを閉じるとき、たのしみですね、と、ひとことめーこさんに言われた。
 たのしみ、ねえ。
 正直、美憂先輩からもちかけられた話でなければ、断っていたかもしれない話だ。私はあまり他人の曲を聴いたり、発表前に意見を求めたりしない。私のオリジナリティというか、らしさが薄まる気がするから。自分のオリジナルに、他人の手が入るのは、あまり好きじゃない。アレンジしてもらうのは嬉しいが、どうせやるなら原形をとどめないくらいやってもらった方が嬉しいたちだ。
 そうしてぼんやりと思考を巡らせていたら、ぽーん、と、そっけない(けれど割と気にいっている)メール着信音がきこえてきた。慌ててディスプレイを覗くと、メールの送り主は、昨日飲み屋で別れたコラボ相手だ。おおかた打ち合わせの用件だろう。
 たのしみ、ねえ。
 もういちど心の中で、その言葉を反芻する。
 うん、たしかにたのしみだなあ。
 たとえ、美憂先輩からもちかけられた話でなければ、断っていたかもしれない話だとしても、こうして準備しているのはたのしいものだ、と、思えた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

【オリジナルマスター】 ―Grasp― 第一話 【アキラ編】

マスターの設定で異様に盛り上がり、自作マスターの人気に作者が嫉妬し出す頃、
なんとコラボで書きませんかとお誘いが。コラボ相手の大物っぷりにぷるぷるしてます。

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アキラ、すこしだけテンションが高くなるの巻。

ちなみにアキラの昼起床、大学生ならふつうだと信じて疑いません(全国の大学生に謝れ
それにしても、恋するアプリ以来のかいとくんの変貌っぷりに、読者のみなさんは
驚いたのではないかと。うん、書いてる私も驚いた(ぇ
かいとくんはめーこさんが大好きすぎます。過保護すぎます。そしてめーこさんも
かいとくんに対して甘いです。これはもうなんていうか、万年新婚熟年夫婦のノリ。

悠編では、なにやら先輩がいろいろ気付いたようなので、こちらも是非!

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白瀬悠さんの生みの親で、悠編を担当している桜宮小春さんのページはこちら
http://piapro.jp/haru_nemu_202

閲覧数:221

投稿日:2009/09/08 20:10:12

文字数:4,578文字

カテゴリ:小説

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