時は16世紀初頭。
 スペインがイベリア半島にあるイスラム教徒の最終砦・グラナダを落としてレコンキスタを完了させてから数十年。
 依然巨大勢力を保持しているオスマン帝国がシルクロードを塞き止め、地中海を通る場合も高い通行税を取られた。
 ポルトガルを筆頭にヨーロッパ諸国は新たに海の道を開こうとした。そして、現代にも名高い探究家たちは新天地目指して海に繰り出した。
 バルトロメウがアフリカ南端の迂回を成し遂げ、コロンブスが新大陸アメリカを見つけると、商人や船乗りは挙ってアメリカやインド、アジアを目指して航海の旅に出た。
 黒人奴隷貿易が始まり、マゼランは三年がかりの世界周航を終えると、その勢いをさらに増して行った。
 香辛料、茶、シルク。西洋にない東洋の富を求めて男どもは海を渡る。
 人々はその時代を大航海時代と呼んだ。
 商船が富を積み、海賊船が宝を略奪し、各国が海賊退治をする。
 まさに船が最盛期を迎えて時代である。

 時同じくして、ある海賊がヨーロッパに名を轟かしていた。
 しかし彼らは後世に名を馳せたウィリアム・キッドやバーソロミュー・ロバーツなど他の海賊とは明らかに違う者たちであった。
 いや、あの時代に彼らと同じような者はいただろうか。もしかしたら今すらいないかもしれない。
 彼らの特徴は三つ。
 旗、
 髪の色、
 襲う対象、
 である。


 ポルトガルの港町は活気に溢れていた。
 商店街には商船のもたらした東洋の珍しい食材や装飾品が並び、店主は声を上げて客寄せをする。
 そこに緑を基調としたロングスカートを着た一人の若い女性が、可愛げに編んだ白い籠を肘に提げていた。
 八百屋をのんびり見て回る彼女の顔は可愛いの一言。
 しかし、通りを行きかう人々は彼女を見て、皆驚いた顔をして通り過ぎていった。
 頭から生えていたのは少し淡い緑の髪。染めた感はないが、かといって地毛にそのような色があるだろうか。
 それに長さは優に腰を超えている。
 さらに顔を見ると色は肌色。
 白人でも黒人でもないそれはむしろ黒人よりも驚かれる。
 耳にはふさぐようについたカチューシャ。半分を髪に埋め、残りは普段なかなか目立つことのないその黒を目立たせている。
「ネギ、カボチャ、砂糖大根にキャベツ」
 選んだ食材を女性はひとつひとつ数え直す。
 かごにはすでに支払い済みの食材がところせましと入っていた。
「肉も買ったし……お酒はまだあるし……あ! バナナ!」
 ハッと気づいて、髪を揺らしながら、店先の果物コーナーに走る。
(……あれ?)
 しかし、バナナは並んでいない。
「すいません、バナナありませんか?」
「え!? あ、その、えっと……果物は日持ちが短いのですが、バナナは熱帯の食べ物ゆえになかなか輸送に時間がかかるものでして、こちらには置いてないのでございます…………」
 店主はその髪に驚いて戸惑い、おどおどと答える。
 女性は少し困ったような顔をして、それから諦め顔でため息をついた。
「分かった。じゃあ、これらをお願い」
 言って女性は選んでいた野菜を差し出す。
「は……はい…………レイス銅貨6枚とセイティル銅貨3枚になります……」
 言われた通りお金を払うと、女性は商店街を後にした。


 大きくない港には数多の船がマストを畳み、身を寄せ合って穏やかに停泊している。あるところでは大航海への出港に歓声を上げ、あるところでは帰港に喜びの涙を流す。
 いろいろな声が響き渡る中を女性はツインテールを振りながら走る。
 その姿を見た者は皆、東洋やインドに行き慣れた商人でさえもギョッとし、人々は彼女に釘付けになった。
 そんな彼らを余所目に、女性が向かったのは3本マストのキャラック船。
 彼女が船に飛び乗ると、群衆は再び驚きの声を上げる。
 船乗りたちは、船は女性であると考えていた。
 ゆえに船の名前は「サンタ・マリア号」など、女性的な名前が多く、また船首には女神像などがつけられる。
 そして、性別が女性であるために、女性を乗せると嫉妬して難破すると考えられていて、船乗りは皆男性である。
 しかし、その船に、まさに今乗っていったのは、髪はどうあれ、女性。
 人々は呆気にとられた。
 緑髪は常設の階段を駆け登る。
「お帰りぃ~~!」
 看板に上がるなり真っ先に飛びついて来たのは頭に大きな白いリボンを巻いた肩にかかるぐらいの黄髪の少女。
 服は黄色を基調とし、耳にはツインテールの女性と形の似た白いカチューシャ。
 身長は150㎝ほどで、女性の中でも小さい。
「飛びつかない。迷惑になるだろ?」
 言って出てきたのは、少女と顔の似た少年。
 服装も少女と似て黄色。少女より少し短い黄髪を後ろで小さくまとめていて、耳には少女と同じ白いカッチューシャ。
 身長も少女より数㎝高いほどで他の男性より頭一つ以上低い。
「遅かったわね」
 上からした声に見上げると、マストを支える柱に、ピンクの髪の女性が座っていた。
 風に揺れるそれの長さは優に腰を越え、同じように黒いカッチューシャをつけている。
 肩でバッサリと切れた黒服に身を包んでその細い腕と足を組んだ姿は、妖艶の二文字で説明がつくだろう。
「うん、ちょっと品選びに時間がかかって」
 言ってツインテールは船長室に向かった。
 大きな船長室には立派な金属の扉。
 開けるとすぐそこには短い青髪の男性…………がしばき倒されていた。
「やぁ、返ってきたのね~~」
 声を発したのは椅子に座った茶髪の酔った女性。
 買い物帰りの女性は苦笑い。
「また飲んだの? それに……」
 言いかけて、女性は床に倒れている男性を見る。
 泡を吹いている姿は容易にやられ具合を想像させる。
「ああ、これ~? いつものことだから~、だいじょ~ぶ~」
 ワインの瓶を片手に女性は乱れた髪も気にせずにへらへらと笑う。
 ツインテールは再び苦笑い。
 部屋を出ようとすると、ちょうど扉が開いた。
「そろそろ出港しないとまずいと思う」
 言葉と共に先ほどの少年が入ってくる。
 続いて少女も。
「そろそろ政府が嗅ぎつけるかもぉ」
「わかった~」
 酒臭い息を吐きながら女性は答える。
 それから、ふらふら立ち上がって、
「しゅっぱ~つ」
 と言うと、ドンと椅子に落ちていびきをかき始めた。
 その姿を見てその場にいた全員が顔を見合わせて苦笑いする。
 一人、青髪だけはピクリとも動かない。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

ボカロパイレーツ 1 「始まり」

こんにちは
皆さん、お久しゅうございます
ヘルにございまする

さてさて
4カ月ぶりのアップOTL
ごめんなさいです><
これからはこの「ボカロパイレーツ」を連載しようと思ってます
アップは遅いと思いますが、読んでくれると嬉しいです>∇<!

見ての通り、大航海時代の話です。
一応アクションファンタジー的な感じですが、やはり中世的に作ったので空想ファンタジーに比べると戦いの派手さは減ってしまうかもしれません><

漢字わざと多めにしました
なので、辞書が必要になったかも><
ごめんなさいです^^;
それでは、また次回作楽しみにお願いします><!
タグはお好きにいじってください(荒れたものはこっちで消します)


読んでくれた皆様にワルキューレが微笑むことを

閲覧数:201

投稿日:2010/04/23 23:57:27

文字数:2,676文字

カテゴリ:小説

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  • d4043

    d4043

    ご意見・ご感想

    おぉ!
    ハンターズも読ませていただいたのですが、新しい分こちらの方がずっと洗練されている感じです。書いた分だけ文章技術も上がっていくのかもしれません。
    時代考証もキチンとしていてリアリティが感じられます。

    珍しい設定だけに先が読めず、旅行に出掛ける前のようにドキドキしました。これからどうなるのか楽しみですね。

    「黒い羽」もありますが、ゆっくりでいいので頑張って下さい。続き楽しみにしております。

    2010/04/25 22:54:19

    • ヘルケロ

      ヘルケロ

      コメントありがとうございます!
      私としてもどうなっていくのか楽しみです(=まだまだ無計画w)

      わくわくするような作品にしたいのですが、
      リアルの世界なので、ファンタジーに比べて無理が出来ず、さらにしっかりと当時を調べなきゃいけないのは結構大変です^^;

      黒い羽根、がんばります!

      2010/04/26 07:17:49

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