「弱音さんちの留学生」
第一話 天使の元へ仙女が来た
PART1「変わらない風景」
この小説は、2012年12月15日、
ボカマスにて無料配布した小説本のWEB向け版です。
起承転結 4章構成になっています。
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「あぁ、もう! うちのミクは可愛いなぁ、本当に!」
リビングから片肘ついて覗き込む、キッチンには私のボーカロイドがいる。
エプロンの似合うその後ろ姿、野菜を刻むリズムもボカロゆえか、
心地よいグルーブ感を感じる。
絶対領域のまぶしい彼女の衣装、エプロンで前からはそれが見えない。
そこを後ろから見る、普段に倍するこの劣情!
あぁ、私が女じゃなかったら、絶対にほおっておかないわ~♪
「もう… ハク姉! いったいどこを見てるんですか!」
ミクがちらりと目線をよこし、さっとおしりを隠した。
見返り美人の風情と、恥ずかしげな仕草が愛らしさを加速させる。
こ、殺す気ですか、ミクさん。
私、鼻血で失血死しちゃいますよ!
「み、みてないみてない! 大丈夫よ! 」
キッチンからは見えないはずだが、私の顔は真っ赤だろう。
ついていた肘を外し、まっすぐに座りなおす。
もう、何年もこんなことを繰り返しているのだ。
そう思うと、嬉しさ、気恥ずかしさとともに、後悔の念も湧き上がる。
私の名は弱音ハク。
このボロアパートで、もう何年も、美しいボーカロイドの少女と暮らしている。
『キャラクターボーカルシリーズ01:初音ミク』
幼少から慣れ親しんだバンドの曲を、
彼女にカバーさせている動画を見た。
希望に満ちた新社会人だった私は、感動の余り、
初年の給料をすべてをつぎ込んで自分も彼女をお迎えした。
しかし… 私にはDTMの才能がなかった。
いや、幼少の頃から音楽を聴き続けて来た為、
耳だけ肥えてしまった私は、どうしてもすぐに諦めてしまうのだ。
『高すぎる理想が己を滅ぼす…』
私を慕ってくれるこの子に、歌を歌わせてあげることもできず、
もう5年が経過してしまった。
いまや、演奏技術だけは増したが、
相変わらず彼女を歌わせてやることができない。
私の身の回りの世話をし始めた彼女に、私は、
満たされきった幸せとともに、拭えない悔恨も抱えてきた。
いまや「彼女の心配顔を見たくない」と、
演奏の練習さえしなくなってしまった。
ゆえに、最近は罪悪感に押しつぶされまいと、
パソコンはもっぱらメッセンジャー専用となっている。
「あ、そうだ!」
己のPCの枯れた用途に思いが行くと、
ミクに伝えるべき大事な要件を思い出した。
「ミク~?」
「はい なんです? ハク姉。」
エプロンを解きながら、彼女がリビングに入ってくる。
そんな一つ一つの動作さえ、本当に天使のように愛らしい。
彼女の後ろには、お盆の端と湯気が見える。
どうやら朝食の準備ができたようだ。
「前に話した子たち、やっとビザが通って、
いまさっき日本についたって。」
驚いた顔でエプロンをソファーの背に掛けつ、
彼女は私の正面に座って聞き返す。
「え? あの、上手くビザが下りなかったっていう、
中国のお嬢様ですか?」
この話をミクにしたのは随分と前になる。
7月にライブを成功させたその少女は、8月にネットで私と知り合い、
話の流れでホームステイが決まったのだ。
しかし、香港で両替やビザ取得にしくじった。
彼女はこの年末になって、やっと日本へたどり着いたのだ。
「えぇ、そうよ。今日からホームステイに来るわ。
彼女たちの指導、よろしくね、ミク♪」
余計なことを思い出そうとしていた頭を振り、
トンっと人差し指でミクのおでこを突いた。
悩ませてくれる私の天使に、ちょっとしたいぢわるを言ってやる。
たちまち頬を桜色に染め、驚きに満ちた表情で彼女は言う。
「し、指導だなんて…
私なんかが海外のボーカロイドさんに、そんな……」
お嬢様とそのボカロの世話を言いつかり、
いささか不安らしい彼女が、視線を逸らして頬を染める。
くぅ! 天使、天使です。
ここに天使が居ますよ、神様!
滾る思いを隠しながら、反応を楽しむ為にも続ける。
「大丈夫、ミクならできるわよ。
なんでも、彼女の連れてるその中国のボカロちゃんは特別なんだって。」
「特別、ですか?」
きょとんとして聴き返す、私の天使。 あぁ、もう本当に愛らしい。
「えぇ、人間の言葉に慣れてなくて、歌で気持ちを伝えたり、
サポートロボと一緒にボディランゲージしたりするらしいの。」
しかも、そのサポートさんは、経由地の香港を出れなかったらしい。
「えっ! それでどうやって歌っているんですか?」
「さぁ?わからないのよ・・・。
なんかそういったことも含めて、いろいろ聞きたいらしいわ。」
「せ、責任重大じゃないですか~」
眉根がハ字に下がった困り顔も、やはり天使の愛らしさ。
本人は、それどころではないようだが。
『ピンポーン!』
不承知と頭を振る天使を余所に、噂に影と二人が到着したようだ。
「ついたみたい、出迎えて来るわね。」
「はい、でわ私は奥で飲み物を用意して来ます。」
せっかくの朝食は後で温め直すことになるか。
そんなことを考えながら玄関に向かう私とは逆に、
ミクは再びキッチンに姿を消す。
またその後ろ姿を、ぼっと立ちつくし、目が追ってしまった…。
「やっぱり、かわいいなぁ…
私には過ぎた、本当の天使だわ…」
『ピン…ポーン…』
「はいはい! ただいま~!」
しまった、待たせすぎてしまった。
心配げに弱く押された二度目のチャイムに急かされ、
私はドアホンの元へと急いだ。
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ミクをリアルタイムに買い、リアルタイムに弱音を吐いていた僕です。
ハク姉は好きでしたが、時期に他ジャンルでの売り子手伝いに奔走することになりました。
5年が経ち、oliverや中国ボカロがボカロの世界へ僕を連れ戻しました。
そして、サークルCSさんのミクハク本に多大な影響を受け、
今回このような小説を書くに至りました。
ハク姉のキャラ設定は、5年の歳月を活かす為、
現在のニコニコ動画でのMMDモデルの立ち位置を盛り込んで居ます。
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