見上げると、白い天井が広がっていた。
自分は、何を、していたのだろう。
そこには彼女、がいた。
目を、閉じている。
無機質な、機械に取り囲まれている。
声がした。
天使達、がいた。
僕を、笑っている。
“君たちは何で笑ってるんだい?”
「君は彼女を救うことができたのに、見殺しにしたからだよ」
“どういうことなの?”
「君のちょっとした行動から起きた事件に彼女は巻き込まれたんだ」
「君は自分の命か、彼女の命か選ばなくちゃいけなかった」
「君は最愛の人よりも自分を選んだんだ」
“そんなわけがないじゃないか!”
“僕は自分よりも彼女を選ぶさ!!”
「人間ってものは非常事態には自分を守る癖があるんだよ」
「普通の人間からすれば君は間違っちゃいない」
「……普通の人間ならね」
僕は、普通の人じゃない。
彼女への愛、を持った人間だ。
自分の行動を恥じた。後悔した。否定しようとした。
しかし白衣の人、コートを着た人、いろんな人の話を聞くほどそれは「真実」であると理解する。
白衣の人は言う。僕は間違ってないと。
コートを着た人は言う。僕は正しいと。
いろんな人は言う。僕はかわいそうだと。
……偽善、だ。
ただの客観的考え、だ。
誰が、そんなこと決めたんだ!
白衣の人の中でも、偉そうな人は言う。
「彼女は延命治療をほどこしているが、余命は1週間だ」
天使達は、ただ僕が何をしたのかを言い続けるだけで、救いはくれない。
僕が、ことのすべての引き金を引いた。
日常の、些細なことが、すべてを狂わせた。
でも僕には、選択することができた。
しかし、僕は正解を選ばなかった。
もう一度、あのときに戻れるなら僕はなんでもする!
……でも戻らない。あの時間は。
このままでは彼女がいない未来が訪れる。
だから、感じる……
私が、目を覚ますと、そこには一人の神様がいた。
「あなたは死にましたが、天国に来ました」
「あまたは善行を行ったうえに、最後は少々無惨な死に方をしました」
「だから、天国に来ました」
“私はどうして死んだの?覚えがないの。”
「あなたは、とある事件に彼と巻き込まれました」
「その事件は彼が原因のようなものです」
「しかし、彼はその事件の中であなたよりも自分の命を選択したのです」
「簡単にいえば、あなたは見殺しにされたんです」
「しかし、彼を責めないでください」
「彼は非常事態において、人間としての本能で自分の身を守ったのです」
そう、神様は言った。
でも私は、彼を愛した。
だから、彼の選択が許せなかった。怨んだ。責めた。
そんな思いもあって、私は天国での生活を楽しもうとした。
あんな彼のいる世界には帰りたくないと思った。
天使達は、そんな私を、祝福する。
天国の住人たちは、こんな私を、喜んで受け入れてくれた。
神様達も、できる最大のことをしてくれた。
私は僅か2日程で天国という場所になれた。
彼のいる世界よりも快適で、何でもできる。
いい人しかいないから、何にもストレスを感じなかった。
本当に天国はいい場所だ。
もう、あんな世界には戻りたくない。
……でも少しすると、彼を、感じてしまう。
ここには、彼がいない。
そう思っても、私は、すでに死んでいる。
彼は、生きていても、死んでいても、私とは会えないだろう。
元の世界に戻る。これは許されないことだ。
眼からポロリと、今まで彼を怨んで心が黒くなってしまったせいか、その色の染まった雫が落ちる。
でも、彼のいる世界に戻って、私たちは幸せになれるのか?
彼は紛れもなく、私を見捨てた。
私は紛れもなく、彼を恨んでる。
互いに和解したように見えても、これはいつか自分たちを滅ぼすものとなるだろう。
今度はまるで血のような、真っ赤な涙が一滴、落ちる。
こんな現実なら、いっそ砕いて欲しい!
でも誰に?
……神様は救いをくれない。
彼に会いたくても、誰もその手助けはしてくれない。
そして私は気がつく。
私は彼に会いたくないといっておきながら、本心では求めていたのだ。
だから感じてしまう……
ここにあなたがいないから、
喪失感を。
声で、目が覚めた。
白い天井が、見える。
声の方を見ると、悪魔が、いた。
悪魔は、言う。
「後悔にさいなまれているお前に一度だけチャンスをやる」
「俺と契約したら、彼女を助けてやろう」
「ただし、代価はお前の生きてたという存在すべてだ」
「命を奪って『死ぬ』のなら、地獄なり天国にはいける」
「でも、存在を失えばお前は何も感じることもできない虚無の世界に永遠に閉じ込められる」
「彼女が死んではもともこもないから、答えは明後日までに聞かせてくれ」
悪魔は、消えた。
そうか、自分を責め続けていたらいつの間にか3日も過ぎていたのか。
後悔に、さいなまれて、ただでさえそこまで好きでない病院食が、さらにまずい。
もう、責め続ける言葉も思い浮かばない。
僕は、過ちを犯した。
愛する人を、見殺しにした。
だから、彼女を救うことに何のためらいもない。
でも、僕は彼女に何か残せるのだろうか?
僕にとって、彼女の何が、幸せなんだろう?
そこからは、自問自答の繰り返しだ。
きっと彼女は、僕のことを、うらんでいるだろう。
そんな彼女を、この世界に戻して、彼女は幸せになるんだろうか?
いっそ、このまま殺してしまったほうが、幸せなんじゃないだろうか?
ここで僕が死ぬのは、罪に耐えられなくなって贖罪しようとしたように見えてしまうだろう。
僕は、贖罪しようとは思わない。それはただの自己満足だからだ。
じゃあ、僕は何をどうするべきだろう?
そんなことを三日間考えて、出てきた答えを悪魔に伝言として頼んだ。
“人間になんて生きる意味はない”
“だけど、僕は自分の「命の意味」を知った”
“君がただ笑ってる横顔が好きなんだ”
“僕は君の前からいなくなるけど、笑っていて”
“それだけでいいんだ”
“だから……「生きて」”
そして、僕は悪魔と契約して、この世から消えた。
見上げると、白い天井が広がっていた。
自分は、何を、していたのだろう。
横には空いたベッド、があった。
何もない。
そこに、誰かがいたような、気がする。
声がした。
悪魔、がいた。
「あんたに伝言だ」
そういって、誰からのものかも分からない伝言を、私は受けた。
悪魔は、どこか悲しそうな顔だったように思える。
白衣の人たちは、私が目覚めたのが、奇跡だと言った。
コートを着た人は、びっくりしていた。
いろんな人は、祝福をくれた。
でも、となりのベッドが空いてるように、心の中に何かが足りない気がする。
しばらくして、私は、普通の生活に戻った。
奇跡的に目覚めてから数年。
今では普通の人と変わらない生活をしている。
夢見ていた仕事をしているし、やりたいことはやれている。
いつも笑えている。
でも時々、何故か天国みたいな場所の景色を思い出したり、見たこともない男の人の顔を思い出したりする。
そして、その男の人はいつもあの時の悪魔からの伝言を言う。
誰かは知らない。
でも、彼の顔を思い出すときだけは何故か笑顔になれない。
そして、男の人の顔を思い出すたびに、私は感じる……
喪失感を。
病的な子供達 ~願いと未来~
ゆよゆっぺさんの作られた曲、
「for a dead girl+」(http://bit.ly/bpxjCF)
「for a sick boy」(ゆよゆっぺさんのCDのみ収録の曲→http://bit.ly/96KfkM)
「君の未来 僕の願い」(同じくCDのみ→http://bit.ly/dwcTT0)
……の3曲を元に書かせていただいた作品です。
原曲に興味のある方は是非本家へのアクセス or CDをお手に取ってみてください。
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