『小匣心中』

狂らり歩く湖畔の淵
蓮に抱かれ君　嗚呼


月に舞い散る百夜の残照
翳り帯びた双眸に
籠女の乞う声
哭く鳥の怨みて

小匣に詰めた指の数かぞえ
悟り　果たされぬ約束が胸を胸を突いた
いつかの笑顔も今はもう　ねぇ、
暗闇に貼り付くだけ


「いつか迎えに来る」と云った
あなたの嘘が追い立てた
籠女は笑うだけ
鶏を裂く夜に

右手に握るナイフが酔を裂く
ぽとり落ちて咲く紅葵　見送った
重ねた両手を溢れる温もりが　ねぇ、
暗闇に溶け出すまで

焔よ風よ巻け
灰よ洗え

揺らり歩く涅槃の淵
蓮に抱かれて今　嗚呼

「また来世で　逢いましょう」




ふらり　あるく　こはん　の　ふち
はすに　だかれ　きみ　ああ

つきに　まいちる　ひゃくやの　ざんしょう
かげり　おびた　そうぼう　に
かごめ　の　こう　こえ
なく　とりの　うらみて

こばこに　つめた　ゆびの　かず　かぞえ
さとり　はたされぬ　やくそくが　むねを　ついた
いつかの　えがおも　いまは　もう　ねぇ
くらやみ　に　はりつく　だけ


いつか　むかえに　くると　いった
あなたの　うそが　おいたてた
かごめは　わらうだけ
とりを　さく　よるに

みぎてに　にぎる　ないふが　よいに　ふるえ
ぽとり　おちて　さく　べにあおい　みおくった
かさねた　りょうてを　こぼれる　ぬくもりが　ねぇ
くらやみに　とけだす　まで

ほむらよ　かぜよ　まけ
はいよ　あらえ

ゆらり　あるく　ねはんの　ふち
はすに　だかれて　いま　ああ

「また　らいせで　あいましょう」