「あ」などという間抜けな言葉と共に目の前にいる男が私のお気に入りのカップを落としました。9歳のときから使っているカップ。可愛いキャラクターがにっこりと微笑んでいる姿が印刷されているそのカップ。このカップで紅茶を飲むとすごく落ち着く、私のお気に入り。それが今、私の目の前でこの男によって、中に入っていた赤い赤い紅茶共にがっしゃーんという悲しい音を立てて割れたのです。


「あ、りん。ごめん、落としちゃった」

にへらぁとたるんだ笑顔を浮かべながら男、レンが、そう言った。私は残骸を見つめがら答えた。

「いいよ、レンだし」

嘘。たぶん一生根に持つ。あなが、したこと全部。

「ありがと、りん」

「どうってことないよ。・・・テレビ、砂嵐だね」

ざーざーと無機質で不気味な音が部屋を支配する。

「だね」

「つまらない」

「消せばいいじゃん」

私は夢見てる。あってはならぬ、悲しいことを夢見ている。

「突然画面が切り替わってさ、井戸から髪のながーい女の人が出てきて画面から手をぐっ、て出してあなたを殺してくれないかな、って期待してるんだよ」

ざーざー、ざーざー。白黒の画面。突如、切り替わる画面。井戸から這い出る不気味な女。画面の中から、にゅるりと、手を出して、彼の首を絞めてくれればいいのに。

「お前、怖い」

「あなたのせいだよ」

「そう、ごめん」

ざーざー、どんなに待っても女は出てこない。私は、ふと自分の手に視線を落とした。私は、この手を汚したくはない、と思ってはいる。あぁ、だが想像してしまう。月に照らされた私の青白いお化けの様な手が、あなたの首元へのろり、と近づき針の様に細い指であなたの首をぎゅっと、絞める。この蒸し暑い夜
に、私の手で、あなたを奪う。たくさんの女たちからあなたを奪う。私、たくさん汗を掻くだろうな。あなたと初めて繋がったあの夜みたいに。

「なんか今日は、あの夜みたいだね」

「そう?」

むずむずするの、あなたを殺したくて堪らない。

「蒸し暑くて」

「あぁ」

「蚊取り線香の匂い」

「あぁ」

「汗いっぱい掻いたね」

「やめろ」

レンが胎児の様な格好でがたがたと震え始めた。可哀相に。

「れん、れん、赤ちゃんみたいね」

彼は何も言わず、震えている。

「私はお母さんかな、私子供嫌いなんだよねぇ」

「おんぎゃあ、おんぎゃあ」

レンが泣き真似をする。

「あはは、レン似てる、似てるよ」

蚊が、ぽとりと落ちる。



夏の夜。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

夏だ!蚊取り線香だーーー!!!!

夏だし!!!!!蚊取り線香の匂い好きなんだ!!!!!

リンとの営みを怖がるレンと、レンを憎むリンをやってみたかった・・・いつもと変わらない!!!!!!!!!


(今気づいたけどカップ空気や・・・)

閲覧数:156

投稿日:2012/07/02 21:41:12

文字数:1,050文字

カテゴリ:小説

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