その、未熟な果実は、自分が先に食べるものだと思っていた。いや、もういっそ食べるものだと信じていた、と言った方が正しい。
その柔らかな果肉もその実から発せられる妖艶な香りもそのつややかな肌も、全て、全て、全部を、
自分が食べられるのだと信じていた。信じきっていた。
しかしその果実を己の手に取る前に、その果実はもう既に、誰かに食べられていたのだ。
そう、誰かに。
その果肉はさらにやわらかみを増し、その香りは更に妖艶なものとなり、己を誘う。誘う。
その前に、誰も食していない、その果実を、食べておきたかった。己の物にしてしまいたかった。
その果肉に、その果実に最初に手を付けた者を殺そうと思うのは、単なる自分のエゴだろうか。
でも、出来るのなら、出来るなら、殺してしまいたい。そう思う自分が居る。出来るのなら、今すぐにでも。何処の誰か知れたのなら、直ぐにでも。殺してしまいたい。
己は、この果実に歯を立てながら、この果実を最初に食べたのが自分だったなら、と言う思考に堕ちていった。
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