タグ:ワンダーランドと羊の歌
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ざん、ざっざっざっ。
道を、わざと足音を立てて少年は進んだ。ざん、ざっざっざっ。蹴散らすように蹴飛ばすように、前へと進むために。
不安で揺れる人には笑い声を浴びせかけ、泣き出しそうな奴には顰め面。座り込んでいるやつのまわりを囃し立てるよう、くるくると回って。ハイネリィランラ。と歌って騒いでそう...羊の歌・9~ワンダーランドと羊の歌~
sunny_m
ざん、ざっざっざっ。
相変わらずの調子で少年は大通りを歩く。降り続く雨の中、人に成ってしまった部分を隠すように面を被り布を巻いたモノたちがゆっくりと進んでいく。布の隙間からきょろりと真円の目玉が少年を覗いてきたので、あいさつ代わりに顰め面をしてやった。
ざん、ざっざっざっ。ざん、ざっざっざっ。...羊の歌・8~ワンダーランドと羊の歌~
sunny_m
どこかで、青い球状の模型がくるくると回るのを、夢の中で見た。
淡い柔らかな色の灯をあびてくるくると回るその模型を、綺麗だな。と思った。
どこで回っているのか、どこにそんなものがあるのかは知らないけれど。
そのどこかにいるモノたちが、それを大切にすると良いな。
そんなことを夢の中で思った。羊の歌・誰かの夢~ワンダーランドと羊の歌~
sunny_m
一服する男につきあうべく、少年は傍らの自動販売機でソーダ水を買って、煙草を吸う男の横に座った。かつん。と栓をベンチの縁を使って開けると、しゅわわ。と泡が溢れかえってくる。ぼたぼたと、しばらく泡をこぼしてから少年はそれを飲み始めた。
一息に飲むと炭酸が沁みて涙が出てくるから、少年はソーダ水は苦手だ...羊の歌・7~ワンダーランドと羊の歌~
sunny_m
ざん、ざっざっざっ。
はしゃぎ疲れてほんの少し疲れてはいたけれど。それでも少年はわざと大きな足音を立てて道を歩いた。そろそろ一日の活動を終えて休息を取る時間帯で、すうすうくうくうと、眠りについているモノたちの気配があちらこちらのねぐらから漂ってくる。
ざん、ざっざっざっ。騒ぎすぎてふわふわとし...羊の歌・6~ワンダーランドと羊の歌~
sunny_m
ハイネリィランラ。
叫ぶように怒鳴りつけるように、少年は歌った。
「なんだよ。」
突然歌いだした少年に、モノが驚いた声を上げた。
「なんだ、って、歌だよ。」
あんただって知っているだろう?羊の歌だよ。そう大きな目玉をぎょろつかせて言い返す少年に、それは知っているけどなんだよ突然。とモノたちも戸惑...羊の歌・5~ワンダーランドと羊の歌~
sunny_m
ざん、ざっざっざっ。ざん、ざっざっざっ。
少年はわざと大きな足音を立てて町の中を歩いた。気がつくとあちらこちらに転がる不安を蹴飛ばして。憂鬱や苛立ちをを蹴散らし水たまりを蹴り上げて。
そうやって少年が大きな足音立てて歩き回るこの町に、雨は相変わらず止むことがなく。
柔らかな霧雨が降りしきる中...羊の歌・4~ワンダーランドと羊の歌~
sunny_m
ほろほろと流れ落ちる涙を拭おうとした少女の手から、食べかけのりんご飴がころりと転がり落ちた。
もったいない。と少年は立ち上がり、屋根の上をころころと転がるりんご飴を追いかけて拾い上げた。しかし屋根の上を転がってしまった飴は塵がついて食べられたものではない。べっとりとその赤い表面に枯葉がへばりつい...羊の歌・3~ワンダーランドと羊の歌~
sunny_m
少年の言葉に少女はじろりと、とがった視線を向ける。その釣り上がり気味の目は赤く滲み、鼻の頭もふくふくとした頬も涙の名残で赤く染まっていた。
「泣き虫は毛虫と一緒に挟んで捨てられるぞ。」
そう揶揄するような少年の言葉に少女は、うるさいだまれ。と悪態をついてくる。
「目が赤いのは生まれつきだ。からかう...羊の歌・2~ワンダーランドと羊の歌~
sunny_m
さあさあしとしと細かな雨粒が絶え間なく降り続いていた。鈍色の空気が町をしんみりと覆いつくす。時に強く時に弱く。濡れることにも慣れてしまって、傘をさすことも面倒になってしまったほどに絶え間なく雨は降り続いていた。長雨をうんざりするような諦めてしまったような。そんな面持ちで往来を異形のモノたちが歩いて...
羊の歌・1~ワンダーランドと羊の歌~
sunny_m
「さてと次はどこだ。」
町から抜け出して、トンネルの中。てくてくと歩きながら子供がそう問い掛けると、並んで歩いていた羊が、とりあえず一休みだな。と返事をした。
―つぎのよてい、は無しだ。ヨミ、慰労をしろ―
「慰労慰労。って煩いよ君。」
そう鼻の頭に皺を寄せて、子供は大声で笑った。
うわんわんわん。...ワンダーランド・7~ワンダーランドと羊の歌~
sunny_m
皆、畑に出てしまって誰の姿もない全く誰の気配もない町の片隅。駄菓子屋の軒下で、子供はぼんやりと座っていた。
ふと見上げた空の上、カミサマが去る支度をしていた。
「遅くなってごめん。」
そう子供が言うと、全くだ。というようにカミサマはのんびりと笑った。
待っているやつがいるからもう行くよ。じゃあ...ワンダーランド・6~ワンダーランドと羊の歌~
sunny_m
社はひかりにさらされて、淡く穏やかな太陽の下、のんびりとした面持ちで子供と羊を待っていた。
既に灯の気配は欠片もないその社へ歩を進めた。ちりちりと焦げ付くようなひかりが、鳥居をくぐった瞬間消えた。冷たい昏い、影が周囲を塗り替える。
‥すげえなんだこれ‥
:まっくらだね:
ついてきた子たちがそう不...ワンダーランド・5~ワンダーランドと羊の歌~
sunny_m
ひょん、と視界の端っこから黒い人影が飛び出してきた。おや、と子供が人影の飛び出してきた方へ視線を向けると、建物の脇、面を被った子が立っていた。白地に黒い文様が描かれた簡素な面をつけているその子の表情は分からない。けれど興味津々と言った様子でこちらを見つめている。
ひょん、ともうひとつ。先ほどの子...ワンダーランド・4~ワンダーランドと羊の歌~
sunny_m
強い日差しは濃い影を落とす。建物に両側を挟まれて伸びている階段は暗い。かたんことんことん、と羊の蹄が踏み板で音を奏でる。ゆらりゆらりとその背中でリズムを刻みながら子供は階段の切れ目、しろいひかりで満ちている先を見上げた。
かたことん。と長い階段を上った先、見晴らしの良い場所に出た。羊が疲れた様子...ワンダーランド・3~ワンダーランドと羊の歌~
sunny_m
ちりちりと、光が細かく砕けた針のように鋭く皮膚を焼く。熱された大気は水分が蒸発してからからと干からびていた。古びて錆の浮いた、狂った文字が描かれたトタンの看板は、凶器になりそうなほど熱を帯び、ささくれ立った柱に刻まれたふるいまじないは、強いひかりの下、色あせていた。
灯が消えてしまってけっこう時...ワンダーランド・2~ワンダーランドと羊の歌~
sunny_m
灯が消えて、カミサマがやってきた。
社から灯が消えて、町の真上にカミサマが居座ると、理が乱れて言葉が狂いだす。人は異形のモノへと変化し言葉は通じなくなる。右も左も、奇声を発する化物ばかり。姿の変わってしまった人は、自分自身も化物なってしまっているという事にも気がつかないほど恐れ怯えて、家に閉じこ...ワンダーランド・1~ワンダーランドと羊の歌~
sunny_m