灯が消えて、カミサマがやってきた。
 社から灯が消えて、町の真上にカミサマが居座ると、理が乱れて言葉が狂いだす。人は異形のモノへと変化し言葉は通じなくなる。右も左も、奇声を発する化物ばかり。姿の変わってしまった人は、自分自身も化物なってしまっているという事にも気がつかないほど恐れ怯えて、家に閉じこもり一歩も外へ出なくなる。
 気配に怯えて変わってゆく世界を恐れて。人は家の中でじっと息を潜めて新しい灯が点されるのを待っていた。

 この先、ふしぎの国。
 そう描かれた看板を頼りに羊に乗った子供が先に進むと、荒れた田畑が周囲に広がり始め、そして、その中を抜けて更に先へと進むと、ぐるりと周囲を垣に囲まれた小さな町が姿を現した。
 灯の消えた町は常に静かだ。
 羊に乗って町に辿りついた子供は、周囲を見合しながらそう思った。
 町は、人がいないのではないか。というくらい静かだった。けれどよくよく意識を凝らしてみれば、家の奥に縮こまるようにして蹲る、人の気配を感じられる。町に侵入してきた子供と羊の気配を、向こうも感づいてはいるのだろう。けれど怯えた人たちは家から出てくることはなく、ただただ小さくなって様子を伺うばかり。
―歓迎して欲しいわけじゃないけど、せめて長旅を労るくらいは欲しいんだけどな―
子供を乗せた羊がそうむっつりと言った。
「ま、そういうものだよ。」
そう子供はからりと笑って応えた。
「今回は辿りつくのに時間がかかったからな。早く灯を点しに行こう。」
そう言って、子供は羊のふくふくとした毛でおおわれた腹を探った。ごそりとどこにそんなものが収納されていたのか、大きなカンテラを取り出してひょいと掲げる。
「行くぞ。早く社を見つけるんだ。」
―ちょっとは休みたいんだけど―
「そう言うなって。これがおれらの役目なんだからさ。」
不満を口にした羊の頭を子供はそう言って、たしたし。と叩いた。
 そのもふもふの感触を楽しむかのごとく遠慮なく頭を叩いてくる子供に、羊は嫌そうに顔をしかめた。が、これもまたいつもの事だったので、全く気にする事もなく子供は、行くぞ。と先を指さした。

ライセンス

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ワンダーランド・1~ワンダーランドと羊の歌~

ハチさんのワンダーランドと羊の歌の二次創作です。
PVを元に、好き勝手に書いてしまいました。
(というか、好き勝手に解釈してしまいました)
こんなの違う。こんなのイメージじゃない。という方、ごめんなさい。

※後に続く羊の歌と対になっていますが、特に、一緒に読まなくても大丈夫です。


閲覧数:302

投稿日:2010/07/29 12:20:15

文字数:897文字

カテゴリ:小説

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