真っ赤に焼けた椛。夕焼けと相俟って、世界が赤く染まっている。
自分にとっては一年ぶり、二人にとっては初めての紅葉を見に来た。
夕焼けで街が赤く変わっていくのはよく見るが、木が紅いとまた別の景色だ。どこまでも、あかい。

「……………真っ赤…ですね……」

肩に乗っているモカが呟く。
言う通り真っ赤としか表現出来ない景色だ。それでも夕陽の赤は朱に近いし、椛は紅に近い。赤だけの世界はむしろ絵画のようだ。
圧倒される風景のせいか、いつになくコウが大人しい。
見ると、目をきらきらと輝かせて椛を見ていた。輝き過ぎている瞳が逆に怖い。
コウが溜めていたものを爆発させるように一気に騒ぎ始めた。ぶんぶん手を振って、みーみー叫ぶ。
…五月蝿い。落ち着け。

「……………あれが…欲しい……みたい、です………」

あれ、とは椛の事だろうか。
尋ねるとモカが頷く前にコウが返事をした。

「みみーみ!!」

耳元で騒がれ、耳が痛い。落としてやろうかコイツは。
反応からしてモカが代弁してくれたあれとは椛の事でいいらしい。
欲しいのか、椛。
野生に生えているから取ってもいいだろうと己に言い聞かせ、一枚葉を取る。取ってから、落ちているやつを拾えばよかったと思い、少し後悔。
紅のそれをコウに渡してやると、全身で受け取った。…椛のと余りサイズが変わらない。椛がでかいのかコウがちまいのか。

「みみみーみみみみみみみみみみー」

椛を持って歌う。雰囲気満点で、美しく格好よい。…コウがもう少し大きければ、そう思ったりするのかもしれない。椛と五分な大きさのせいでなんとも面白い事になっている。うん、まあ、コウが楽しいならいいんだが。
BGMを聞きながらもう一枚葉を取る。それをモカに渡してやると不思議そうに見上げられた。

「………………これ……」

コウだけ、は不公平だと思ったから渡したのだが。
いらなかったか?
モカはそのまま黙り込む。…やはり、いらなかったのだろうか。
そう考える前に、思う。そうして口に出す。
モカは、茶色いから紅葉が似合うな。
その言葉にモカが顔を上げて、こっちを見た。

「………………そう……です、か………?」

うん。秋らしくて、いいんじゃないのか。

「……………………」

モカは何か言おうとして、顔を伏せた。顔と体を隠す様に椛を上げた。僅かに上がる椛はしっかりと掴まれていた。
とりあえず、気に入ってくれたらしい。
と、不意にコウが歌うのを止めた。

「み…」

嬉しいサプライズを受けたような表情。ただ、思わず絶句してしまうような、そういうのは初めて見た。
その視線の先に、何があるのか。
コウの向く方に視線を滑らす。
………これは…。
背中の方で日が沈み、少し顔を上げると、空は紫。今丁度、グラデーションになっている。ぽつぽつと星も現れ始めた。そして、手前の紅。暮れなずむ中で色の濃さを増し、闇に溶け込もうとしていた。
それは、一瞬の、この時間だけの景色だった。
思わずため息をつくような光景。瞬きする間に変わっていく。一時も目を離せない。
感嘆の息が出た。

「…みみーみ」
「……………………すごい……です………」

…あぁ、すごいな。
綺麗とか美しいとか、そういう言葉は逆に出てこなかった。ただ、すごいとだけ口から漏れた。横目で見る二人の表情からも、自分と同じ状況だとわかる。
椛を見に来て、よかったと思う。
ちょっとした思いつきだった。テレビを見ていて、それも天気予報で、紅葉が綺麗だと言っていたのを聞いていた。モカが紅葉が何かと問うてきた。説明するとコウが見てみたいと騒ぐので、ならばと椛を見に来たのだ。
百聞は一見にしかず、と言う。しかしこんな光景、百どころか一も説明出来る気がしない。己の目で見るとはそういう事なのだと、しみじみと思う。
モカ、コウ。
二人の名前を呼ぶ。返事は無かったが、聞いているだろうと話し始める。
こういうものはよく見ておいた方がいい。もう二度と、同じ景色は見れないから。
似たような景色ならその気になれば見ることは出来る。でも、この目線この空気、同じ気持ちで見ることなんて出来ない。
全てはこの瞬間だけの特別なものなのだ。
それが伝わったのかどうかわからない。上手く説明出来なかった気がする。それでも、モカとコウは黙ったまま頷いた。
陽が完全に沈むまで、三人でその景色を見ていた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

KAITOの種27(亜種注意)

数日前に書き終わってたのに投稿する暇が無かった話し。お陰で紅葉も終わりかけです。
椛(もみじ)です。始めは紅葉って書いてたけど紅葉(こうよう)と混ざったのでこっちにしました。

てかせっかくサビトロタグいただいたのに今回サビじゃないや。Aメロだ。

来月は一杯書きたいのあるけど書けるかなぁ…。



モモイト君は紅葉狩り行ったのかな?
http://piapro.jp/content/?id=aa6z5yee9omge6m2&piapro=f87dbd4232bb0160e0ecdc6345bbf786&guid=on

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投稿日:2009/11/23 00:57:15

文字数:1,821文字

カテゴリ:小説

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  • 桜宮 小春

    桜宮 小春

    ご意見・ご感想

    はじめまして。今さらすぎますが、1話から一気読みさせていただいてますw

    みーみー言ってるコウ君が可愛いですね~、癒されます(*´∇`*)
    歌は……番凩、でしょうか。違ってたらすみません。

    では、続きもこのまま読ませていただきますね~、これからも頑張って下さい^^

    2010/02/12 10:22:11

    • 霜降り五葉

      霜降り五葉

      桜宮 小春様
      初めまして。作者の霜降り五葉です。
      今更なんて事はありませんよ!読んで下さって嬉しいです。
      氷菓イトが可愛いとな。桜宮 小春様もですか!
      …氷菓イトファン多いんですよねー。そんなにみーが可愛いのだろうか。
      こんなんでよろしければ存分に癒されて下さいw
      曲はその通りです。番凩でございます。皆さんよくわかりますねー。凄いです。
      応援ありがとうございます。頑張りますのでまたコメント下さいね(マテ

      閲覧&コメントありがとうございました!

      2010/02/12 23:53:46

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