yanagiPの「PASSIONAIRE」が好きすぎて、ティンときて書いた。
「PASSIONAIRE」をモチーフにしていますが、yanagiP本人とは
まったく関係ございません。
ぼんやりとカイメイです! 該当カップリングが苦手な方は
ご注意ください。

******

【カイメイ支援】 PASSIONAIRE 【ver.text】



1.

「マスター、この曲、すっごくたのしい!」
 ホイッスルからはじまるその曲は、ボーカロイドの楽曲にはなかなか珍しいラテンポップ。最近耽美的な曲やロック・メタルなどへヴィーな曲ばかり歌っていた私をも開放的にさせる魔力を秘めていた。歌い終わってから、おもわずマスターに向かって言うと、マスターはにっこり笑って満足そうに頷いた。
「よかった。めーこさんには最近エロいのばっかり歌わせていたからねー。気分転換になる?」
「新鮮です、すごく。踊りたくなる」
「めーこさん、汗だくだね」
 言われるまで気付かなかった。相当はじけて歌ったからだろうか。ちょっぴり恥ずかしい。
「休憩いれようか?」
「いえ、大丈夫です。むしろもっと歌いたいです」
「さすがめーこさん。じゃ、ちょおっと調声しようかね。えっと……」
 マスターが私に付きっきりになるのはひさしぶりのこと。最近(というか、ルカがきてから)は、こうして一日中構ってくれることも少なかったのだが、マスターは私のことを見捨てていなかったらしい。……まあ、モノを捨てることのできないマスターが、誰かを見捨てるなんてありえないのは、もうすでに証明されていることなのだけれど。それでも、こんな素敵な曲までくれるなんて、今日はなんていい日だろう。
 日が暮れるのが早く感じ、一日が終わるのがもったいなかった。

「ただいまー」
「あっ、おかえりメイコ姉!」
 マスターのところから家に帰ってくる音を聞きつけたのか、ソファに座っていたリンがテレビから顔をそらして私の方を向いた。
「おかえりなさい、ねえさま! 今日は遅かったですのね。わたくし、さみしかったですわー!」
 次いで、ソファから立ち上がって飛びついてきたのは、ルカだった。最近家に迎え入れられたばかりだが、もう家族の一員として溶け込んでいる。
「あっルカ姉ずるい! メイコ姉、リンもぎゅーしてー!」
「はいはい、もう……ふたりともいくつよ?」
「愛に年齢は関係ありませんわ!」
 こうしてスキンシップをするのは、すこし気恥ずかしかったりくすぐったかったりもするが、決してきらいな訳じゃない。本当に、私はあったかい家族に恵まれているとおもう。
「晩御飯はなにかしらね?」
「今日のお当番は初音と鏡音のリトルブラザーですわー」
「なんかミク姉がすんごい勢い込んで食材買ってきてたから、ちょっとわくわくしてるんだよねー」
「甘いわ、鏡音。初音がお当番の時に、マトモなディナーができたことがあって?」
「でも、今日はレンが一緒だから大丈夫だとおもうね」
 ふたりで夕食談義をしている妹たちを尻目に台所を覗くと、ミクとレンが流しとコンロを往復しながら奮闘していた。それまでフライパンに一心していたのだろうミクは、足音で気づいたらしく笑顔で私の方に振り返った。
「お姉ちゃんお帰り!」
「メイコ姉おかえり、ほら、ミク姉よそ見すんな!」
「今日はねー、あんかけチャーハンなんだよー。ルカちゃんの曲でかわいいチャーハンのPVがあって――」
「だからミク姉手止まってるって! 焦げるから!」
 レンから叱責一喝、ミクはあたふたとフライパンに向き直った。男の子は料理にこだわるというけれど、うちも例外ではないみたいだ。
「期待してるわよー」
「まかせてっ!」
「だからよそ見しているとこぼすってば!」
 ふたりの背中に激励を送って、私は、ソファに座る妹たちの隣に腰かけた。
「……そういえば」
 いつも視界の端っこにいる、青い髪と白いコートが見当たらない。私が帰れば一番に出迎えてくるのはいつもなら奴のはずなのに。私の言葉を遮るように、ルカが憮然とした声で、しかしなぜか勝ち誇ったような顔で言う。
「あの青いのは、当分帰ってこないそうですわー」
「へっ? なにそれ。きいてないわよ?」
「なんか、マスターの友達に調声してもらうんだってー」
 しゅっちょーってやつだね、カイト兄オトナだねー、なんて言って、リンはまたテレビに向き直った。……なんだそれ、きいてないぞ。そりゃ、今日は私の方が家を出るのが早かったけれど。
「ご飯できたよー!」
 台所からミクが叫んで、ちょうどよくリンのおなかが鳴った。
 ……とりあえず、腹を満たすことにして、私は、ルカとリンを引き連れてソファを立った。

 ミクとレン(というか、ほとんどレン)が制作したあんかけチャーハンは予想以上の出来だった。もちろんいい意味で。
「あんたにも食べさせてあげたかったわー。ミクがネギ関係以外でまともにモノ作ったの久しぶりだし」
『えーっ、いいなあ。おれのぶんは? 残しといてくれた?』
 食後、弟妹たちがそれぞれテレビを見たり、楽譜を読んだり、マスターに呼ばれたりしているあいだ、私は自分の部屋のベランダに凭れながら、ワンカップ片手に通信を繋いでいた。通信の相手は、いまここにはいないカイトだ。彼は現在、マスターの友人だというプロデューサーのもとにいる。マスターがネット回線を開けっ放しにしているのをいいことに、勝手に通信しているが、きっと許してくれるだろう(というか、気付かない気がする。いま、マスターはリンとレンの調声にかかりきりなはずだから)。
 マスターの友人だという人のところにはMEIKOとKAITOしかいないらしい。その人はうちのマスターと違って作曲はできないといっていたが、調声力はマスターを凌ぐP(プロデューサー)かもしれない、とカイトがいった。なるほど武者修行のようなものなのか。それにしても、当分帰ってこないとかきいてないわよ、と糾弾すると、あれ、いってなかったっけ? と能天気な返事をされた。わかっている、そんなことで幻滅したりはしないわ。こいつはこういう奴。
「そんな、いつ帰ってくるかわかんない奴の分なんてとっとくわけないでしょ」
『ですよねー……あ、でも、お弁当とかにして届けてくれるとか』
「残念でした。余った分はリンとレンが平らげたわよ」
『ちぇー……』
 心底残念そうな声だ。食べざかりだもの、といえば、そうだよねー、と返ってくる。……なんだか所帯じみた会話な気がする。もしここで勝手に回線を開いてこんな風に会話しているのがマスターにばれたら、マスターなら「単身赴任中の夫と電話する妻のようだ」と揶揄するだろう。……別に、私がそう思ったわけじゃなくて、マスターなら、だ。ところで、と回線の向こうから話しかけられる。
『ところでめーちゃん、マスターから新曲もらった?』
「あら、なんで知ってるの」
『こ、こっちのPにきいたんだ』
 あまり、未公開の曲について語ることを好まないマスターだから、こうして(友人とはいえ)他人にまで曲の話をしているということは、よっぽど自信があるか、会心の出来だということに違いない。マスターもよっぽどあの曲を気に入っているらしい。
「そうよ。今日初めて歌ったけれど、すごくたのしかったの。PVはライヴ仕様になるみたい。踊りたいっていったら、踊ることになっちゃったわ」
 私は私で、今日まで決まっていることを一気にまくし立ててしまった。私もあの曲を気に入っているのだ。音源は何度リピートしても飽きることがない。練習はとてもたのしい。こんなにアツくなれるのも、あの曲のおかげだ、とおもう。
『めーちゃん、たのしそう』
「実際とてもたのしいもの」
『ききたいなあ、その歌』
 耳元でささやかれて(通信なのだからインカム越しの耳に直接声が届くのは当たり前だが)、不覚にも心臓が縮んだようにおもった。いつも聞いているいつものカイトの声。なのに、すこしだけ混じったノイズに距離を感じた。
 不意に、ここにカイトはいないのだと実感して、すっと熱が冷めた。手にしたワンカップの中には、不安そうなわたしの顔が映っている。顔を上げたら、目の端に青がちらついた――気がして、周りを見回したが、当然そこに白いコートがはためいていることもなく。
『……めーちゃん?』
「あっ、えっと、ぴ、PV、ちゃんと見せてあげるから、我慢しなさいよね」
 掛けられた声に、無駄に動揺してしまって、言葉が不自然に途切れた。こころなしか顔があつい。なんだ、これは。なんで私、動揺しているのよ。
『うん。たのしみにしてる。じゃあ、がんばって早く帰れるようにするね』
「う、うん……」
 屈託のない声に、またしても顔が赤らむ。カイトと話をするのに、こんなに緊張する理由なんかない。ただ、目の前にカイトがいないだけ、それなのにいつもより声が近くから聞こえる、それだけのことで。それだけのことなのに、こんなにモヤモヤする。モヤモヤする、なんて、漠然とした表現でしか表せない。どこか具合が悪いというわけでもないし、でも万全ともいいがたいこの感じ。エラーとは違うむずむず感。
 それからすこしだけ話をして、適当な頃合いで、明日も早いからじゃあね、と通信を切った。通信を切る直前かすかに、おやすみ、と、きこえた。
 通信を切ってから、モヤモヤとむずむずの正体に心当たりが出てきた。でも――今更、さみしいとかおもうなんて、私らしくないから、きっとこのモヤモヤとむずむずは、それとはなにか別のもの。

 私とマスターの熱意の賜物か、新曲の調声は数日ですみ、いよいよPV撮影の段となった。相変わらずカイトは家に不在だったが、毎日歌とダンスステップの練習をしていると、さみしさはすこしだけ薄れていた。
 PVはライヴ仕様だと前から決まっていたのだが、妹たちもモブで出演(という名のPV見学)するときいたときはさすがに驚いた。おおかたミク辺りがわがままをねじ込んだのだろう。どうせなのでスタジオへは全員で行くことにしたが、やはり、ひとりたりないとすこし違和感があった。おりしもその日の天気は快晴。雲ひとつない青空は、不在の彼の存在を色濃く反映しているようで――いやいや、感傷に浸っていてどうする。
「リン、何やってんだよ置いてくぞー?」
「リボンがうまく直らなくって……レン、直してえ」
「ねえさま、鏡音は初音に任せて、わたくしと先にいきませんことー?」
「もうっ、ルカちゃんはいっつもそうやって、メイコお姉ちゃんを独り占めしようとするー!」
「はいはい騒がない! 騒ぐ子はみんな置いていくわよ!」
 必要以上にはしゃぎぎみの弟妹たちをたしなめながら、スタジオへ向かった。
 余計なことを考えずに、たのしくうたえばいいのだ。それで、あとでPVを見せて、うんと羨ましがらせてやればいい。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【カイメイ支援】 PASSIONAIRE 【ver.text 01】

yanagiPの「PASSIONAIRE」が好きすぎて、ティンときて書いた。
今度こそ本当に 怒 ら れ た ら ど う し よ う … … !

******

今更支援するまでもないカイメイかも知れませんが、作者の萌えと滾りを込めました。
……1ページに収めるつもりが、予想以上に長くなったので、3ページくらいにわたって
お送りする事になりました。まただらだらと長いですがお付き合いください。

うん、とりあえずみんなで叫ぼうか。めーちゃああああああああああ(ry

閲覧数:781

投稿日:2009/05/15 06:36:56

文字数:4,485文字

カテゴリ:小説

オススメ作品

クリップボードにコピーしました