「ルカさん・・・」
「え、あの・・・えと・・・」
グモの瞳からは、今にも涙が零れてしまいそうだった。
「ごめんなさい・・・」
なんて言っていいのか分からず、とりあえず謝っておいた。
いや、どちらにせよ、謝らなければいけないのだけれど・・・
私が謝ると、グモは私の腕を離し、背を向けて言った。
「途中まで送るから、もう帰ってください・・・」
「・・・うん」
その後、グモは私を学校まで送ってから、自分の家へ帰っていった。
二人とも、ここに来るまで一言も言葉を交わさなかった。
私はグモの背中を見送り、俯きながら考える。
（何であんなことしちゃったんだろう・・・）
イタズラ心?それとも、この間の事があったから、復讐心?
でも、あそこまでしてしまう理由なんて、どこにも無かった。
私はあの日、グモから傷つけられた。
グモなんか大嫌い、そう思った。
何でこういう事をするんだろう、と、泣きじゃくった。
でも、私だって同じ。
グモよりはひどいことしてないけど、グモにとっては嫌だったはずだ。
なのに・・・
「あれー?ルカ?」
後ろから声が聞こえて、はっと振り向く。
「どうしたの?こんな所で」
「マナ・・・」
マナだった。
そういえば、もう下校時間だ。
マナは不思議そうに首をかしげている。
「いや、ちょっと、具合が悪くて・・・」
「そっか～大丈夫?」
「うん・・・」
マナの後ろに、誰か立っている。
「え・・・」
「お、ルカ」
クオだった。
え?何で?
「何で二人で帰ってんのよ?メイトは?」
クオを指差しながら私がマナに訪ねると、マナはああ、と
「もうすぐ学園祭だから、買出しに行くの。クオ君と部門会一緒だから」
と説明した。
学園祭か・・・そういえば、そんな事を聞いたような聞いてないような・・・
「マナちゃん、早く行ってさっさと済ましちゃおうよ」
「あ、うん!じゃあね、ルカ!」
そう言って、二人は買出しへ向かった。
そのすぐ後から、誰かが校門から出てきた。
「クオ!」
走って、私の横をすり抜ける。
（開音さん・・・?）
彼女の赤みを帯びた髪が、秋の風にさらさらと泳いだ。
開音さんは息を切らしながら、マナとクオの元へ駆け寄った。
「ルカ!」
すぐ横で声がした。
「レン」
レンはひらりと私の前に出て、にひひと笑った。
「一緒帰ろ?」
「うん」

「ルカ、学園祭の部門何?」
「私は・・・多分何もやらないと思う」
学園祭とか、他の人が盛り上がる行事は、基本昔から興味が無かった。
「そっかー。俺一番めんどくさいやつなっちゃったよ。あーぁ」
「めんどくさいやつ?」
って何?
私が聞くと、レンは黙ってしまった。
「・・・ルカ」
「?」
見ると、レンは神妙な面持ちをして私を見つめている。
「俺らのクラス、出し物何か知ってる?」
「え?えっと・・・」
確か・・・
「男女逆転メイド執事喫茶・・・?」
「・・・・」
「え?」
「・・・・」
「え!?嘘!!」
「そぉ～なんだよぉ～!!!」
レンはガクッと首を折った。
「あり得なくね!?まじありえねぇ!!ふざけてる!!」
「あははは!なんで?かわいーじゃない!!」
レンは涙ながらに語った。
「しかも生徒会のイベントでミス・男の子とミスター・女の子ってやつにも女装してでなきゃならないし・・・あぁもう最悪だ!!」
私は爆笑したままレンの話を聞いていた。
「ま、が、頑張って?」
腹を抱えながら、レンの肩をぽんぽんと叩いた。
「ホント最悪・・・」
レンは真顔で私を見つめた。
「これ出なかったら、ルカと学園祭回れたのにな」
「え・・・」
その直後、レンの顔がぼっと赤くなった。
「あ!ル、ルカの予定もあるもんな!何勝手に言ってんだろ俺・・・」
「そうだね」
へ?っと言うように、レンは顔を上げた。
「回れたら、よかったね」
「・・・っ!!」
再び、レンの顔が赤くなった。
「楽しみにしてるわ。・・・女装!!!」
思わずぶっ、と吹き出す。
「笑うなー!!」
「あははははは!!!頑張れー!!」
私はそのままレンに手を振って家に帰った。