何から話せば良いかな…そうね、まず置かれていた環境について話そう。
 ぼくは『神の子』として、大きな屋敷で生活していた。皆がぼくを崇めてた。
 いつも多くの人間と一緒にいたけど、ぼくから話しかけられることは禁止されてた。
 『神の子』を汚しちゃいけないんだって。神聖なものだから。汚いものに触れてしまうと、駄目になってしまうんだって。
 でも、知ってたよ。
 本当は皆ぼくを『鬼の子』って言って怖がってた。
 この姿が恐ろしいって言ってた。
 角がはえていて気持ち悪いって言ってた。
 世話をしてくれる人間もちゃんといたよ。でも、顔を上げて、ぼくを見てくれはしなかった。
 ぼくは『神の子』として、毎日お祓いとか、祈祷とか、皆のために頑張ってたよ。
 本当はそんな力ないのに。
 毎日毎日、たくさんの人が屋敷に来たよ。
 毎日毎日、たくさんの願い事を置いていった。
 ぼくは、それが叶う日が来ますように、って願うしかなかった。
 みんなに期待されてる姿をとり続けてた。
 言われたように、村の平和を神様に祈ったし、お家の安泰もいっぱいお祈りした。
 『神の子』なんて本当はお飾りにしか過ぎなかったの。
 屋敷の人たちは、村人からの願いと共に送られてくる供物と、信仰心が欲しかっただけで、本当は『神の子』でもなんでも関係なかった。
 村人の信仰心が恐れからくるものでも構わなかったみたい。
 ただ『神の子』の強い地位を利用して、より強力な権力と富を得たいだけだったの。
 だから、ぼくじゃなくても良かった。
 『鬼の子』として『神の子』として、『人間』の脅威になる存在が必要だったのね。
 その象徴として置かれた立場だった。
 『鬼の子』は、ぼくの前にもいたんだ。
 前代も、昔はぼくと同じように『神の子』としての役割を果たしていたみたい。
 その子、今は『緑の鬼』って呼ばれてる。
 もっと前には『青の鬼』と『赤の鬼』もいたんだって。
 ……え?その子達はどうしたか?
 それがね、それ以外は前の『鬼の子』の情報が残ってないの。
 呼び方からしてその子達の見た目の色はわかるんだけど、それ以外のものは全部消されてた。
 着てたもの、暮らした場所、書物、家具、言葉。何も残されてなかった。
 その存在を知っていても、その子達を知っている人間はいなかった。
 きっと、ぼくも『黄の鬼』としては、あの空間に残っていくんだろうね。
 …ねえ…知ってる?
 皆、名前を持ってるんだって。
 ぼくっていうのは自分を呼ぶときに使うもので、名前じゃないんだよ。
 ……今まで知らなかった?
 だったら、知らないだけで誰かが覚えてくれてるんだね。
 …ぼくの名前?うん。ぼくは知ってるよ。
 ぼくを逃がしてくれた女の人がそっと教えてくれたんだ。
 神の加護から離れてしまう歳を過ぎれば、鬼は災厄をもたらすんだって。
 最期の役目は、生贄になって、神様のところに帰る事だって言ってた。
 それが皆の願いだって。
 でも、その前の晩に、顔も知らない女の人がぼくを連れて逃げた。
 山の中を走りながら、いろんなことを話してくれた。
 ぼくの名前。その人の願い。
 ぼくは願いを叶えることが役目だから、それも叶えたよ。
 それから、たくさん走って、ここまでたどり着いたの。
 たぶん、もうその女の人は生きてないと思う。
 ぼくは、いつまで、ぼくとして、残っていられるかなあ…?
 すぐに消えてしまうのかな?
 …え?ぼくの名前を教えてって?覚えていれば消えない?
 そうだね…そうだと良いんだけどね。
 確かに、ぼくを覚えてくれる限り、ぼくらは消えないだろうけど…消えて、しまうの。
 人間が、ぼくの名前を忘れたら、ぼくは消えてしまうみたい。
 ぼくが消えて『黄の鬼』が残っていく。
 わかるの…段々ぼくがなくなっていくのが。
 こうやって、昔いた鬼達は消えていってしまったのね。
 …それでも、ぼくの名前を覚えていてくれる?

 そしたら、今は泣かないでいてあげるから。

「りん」

 それが本当のぼく。
 『神の子』でも『鬼の子』でも『黄の鬼』でもない。


 それが彼女の真実。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

鬼の子-その5-

いきなりですが、リンちゃん視点です。
漢字変換をどうするかいろいろ悩んだ挙句に、平仮名になりました。
今回は、昔話なのでひたすら喋ってます。
長話です。そこはまあ女の子ですから(笑
そして、いきなりの展開過ぎて設定がいけてないですorz
追々説明いたします
リンちゃんの一人称は、そういう立場の人は性別をあやふやにしとかないと、と言う理由で「ぼく」なんです。
レン君とかぶって大変分かり辛いですが、ご了承のほどをお願いいたします。
あと、リンちゃんの昔の衣装は巫女服でご想像下さいませ。

では、また次のお話でお会いいたしましょう。

ご意見、感想、指摘などはご遠慮なくどうぞ!!
出来る限りの善処はいたします。

閲覧数:350

投稿日:2009/01/19 02:13:01

文字数:1,733文字

カテゴリ:小説

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  • 痛覚

    痛覚

    ご意見・ご感想

    +KK様、こんなつたない小説読んでくださってありがとうございます!!

    私の場合は、自分で設定を決めるのが苦手なだけで、そんな大層なものじゃないんですorz
    頼りっぱなしなんです(笑

    最近は忙しく、PCから作品を投稿できない日々ですが、なんとか早く次の作品をあげたいと思います!!
    ちゃんとした作品になってるのかも怪しいですが、どうぞこれからもよろしくお願いしますm(__)m

    2009/01/26 23:35:48

  • +KK

    +KK

    その他

    はじめまして、+KKです。
    メッセージいただいたので、ご挨拶がてら覗きに(笑
    しかし、曲から小説を作るなんてすごいですね。
    自分にはとてもできないことだったので、何だか自分も頑張らないとなぁと・・・。
    鈍痛様のようにちゃんとしたものをあげたいと思います。できるか不安ですが。
    続きを楽しみにしております。ではでは。

    2009/01/26 20:38:57

  • 痛覚

    痛覚

    ご意見・ご感想

    逆さ蝶様、早速読んでくださってありがとうございます(>_<)
    反応の早さにビックリです(笑
    そして、その早さに対抗したい鈍痛です。
    予想通りにリンちゃんです。
    深く考え込んだ結果を出しきれず、ちょこちょこ説明をしていきたいと思います。
    分かりづらい文章で本当に申し訳ないです;;
    ダブルレン君も考えはしましたが、ややこしすぎてやめましたorz
    次も、逆さ蝶様の早さを見習い、近い内にあげたいと思います!!

    2009/01/14 21:49:48

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