(ボーカロイドと未来とツチノコの歌3【2011年編パート3】の続きです)
【ボーカロイド年表】(※想像です)
2012年
・初音ミク、バーチャルシンガーとして初の有名音楽番組に登場。サングラスの司会者に「髪、長いねぇ~」と言われる。
・ボーカロイド標準搭載の専用パソコン「ボカロブック」が発売。
2013年
・歌番組に多数登場。
・車、家電などとあらゆる商品とコラボレーションを果たす。
・秋葉原にボカロ専門店オープン。
・ボーカロイドマスター(同人即売会)が大阪でも開催。
2014年
・ボーカロイドのライヴ、初の東京・大阪2都市公演。
・ボーカロイドマスター福岡でも開催。初の九州進出。
・海外でも大活躍。
・有名音楽番組の常連に。司会者「あれ?髪切った?」
・初の夏フェス出場。
・有名音楽賞、受賞。
2015年
・「僕らは音楽」「プロの流儀」など、多数民放番組出演。バーチャルシンガーとしては全て地上初。
・同人即売会とライヴを併せた5大ドームツアー開催。
・秋葉原に続き、大阪日本橋にも専門店オープン。
・「世界で最も有名なバーチャルシンガー」としてギ〇スブック登録。
・北海道観光大使に任命。
・年末有名歌番組に初登場(紅組)
そのころ日本は、低迷し続ける経済、伸び悩む就職率など、成長に限界が見え始めていた。
そんな中でのボーカロイドの人気は、未来への希望と現実逃避的な意味合いを含んでいた。
同時期、日本において3つの発明が話題をさらっていた。
1つは『ボーカロイド』。2つ目はエネルギー事情を一新した、燃料を作り出す藻『オーラ〇チオキトリウム』。そして、3つ目は新薬『Tyu‐U2』だった。
『Tyu‐U2』は、元々は鬱病の薬として石原大学グループが開発を進めていた物だ。脳内のホルモンに作用する薬で、投与された患者は憂鬱な気分が消え仕事に専念する様になった。その効果は絶大で、開発されて以来日本での自殺者は激減した。
さらに、就職難でやる気を失ったニートやフリーターに投与したところ、どんな仕事でも嫌な顔をせずにこなす真面目人間になった。これは『思考力』に作用することにより鬱病を和らげる薬のため、ニートやフリーターの偏った思考にも効果を示したと発表された。これによって、数年ぶりに日本の就職率は上昇した。
『ボーカロイドと未来とツチノコの歌【2016年編】』
「和也君、ツチノコって本当にいるのかねぇ?」
「黒石教授、またその話ですか?」
「いや、本当に前向きで良い曲なんだよ。ただ最後のフレーズの『ツチノコが言ってたんだけどね~♪』だけが理解できないんだよ」
「作者がふざけたかっただけじゃないんですか?それより教授、そこ、配線繋いでくれましたか?」
「ははは、和也君はつれないなぁ。よし、出来た!」
ここは、石原大学の黒石研究室。
僕は斎藤和也。ここ石原大学工学部ロボット学科の卒業生で、今は黒石教授の助手をしている。
「おぉ、動いた!和也君!見ろ!動いたぞ!」
この、子供みたいにはしゃいでいるオジサンが黒石教授。こう見えても、日本のロボット開発の第一人者で天才。ただ、その性格からか本人にはあまり自覚がないようだ。
その時、突然ドアが開いた。
「おじゃまするよ!順調かね?」
そこに立っていたのは、理事長の石原慎之助と、その息子、薬学部教授の石原純一だ。
薬学部の石原純一と黒石教授は同い年。この2人は石原大学の2大天才で、通称「ツーストーンズ」と呼ばれていて有名だ。両者、研究熱心なのは同じだが、その性格は正反対で、石原純一はとにかく頭が硬い。
そして、理事長の石原慎之助。こいつは本当に性格が悪い。金の為なら何でもするような男だ。噂では、この大学は校門で札束を持って立っていれば入学出来る制度まであるらしい。
「まだ完成しないのか?黒石くん、どうなっているのかね?」
そう言うと、石原慎之助は部屋に入って来て、さっきまで僕らが作っていたロボットをいじり始めた。
「石原理事長、もう少し待ってください。全ての原型となるロボットが完成すれば、実用化はすぐですから・・・」
「そう言って何年経ったと思っているんだ!今年度中に完成出来なかったら出ていって貰うからな!ちょうど、次に伸びそうなバイオ燃料の専門家を雇おうかと考えている所だからな・・・」
あーあー、そんなにロボットの腕、引張ったら取れるぞ・・・。
「お願いします!もう少し、もう少しだけ待ってください!」
「お前を置いておくのもタダじゃないんだ!あっ・・・」
ロボットの腕がとれた。
石原慎之助はその腕をそっと床に置くと、そそくさとドアの方へ歩いていった。
「いいか!とにかく!3月までに例のアレを完成させるんだぞ!」
そう言うと、石原慎之助と純一は出ていった。
「ははは、みっとも無い所を見られてしまったね」
黒石教授が苦笑いをしながら、取れたロボットの腕をひろう。
「さぁ、これを直したら、今日はもう終わりにしよう」
「教授、例のアレってなんなんですか?」
「あぁ・・・まぁ何かしらの成果を出せって事だよ」
「でも、教授は十分、学会で評価を・・・」
「理事長の言う成果ってのは、評価じゃないんだよ」
困ったように笑いながら、ロボットの腕を修理する。
翌日、研究室に行くと、中から話し声が聞こえてきた。
「黒石、本当はもう出来てるんだろ?早く、素直に差し出した方が良い・・・」
この声、純一だ。
中に入る事もできず、結局ドアの前で盗み聞きをする形になってしまった。
「純一、俺はどうしたらいいんだろうな・・・」
「何を迷う事があるんだ。我々研究者の幸せは、自分のしたい研究が思い切り出来る環境なんじゃないのか?そして、それをこの大学以上に叶えられる所があると思うか?」
「・・・確かにな。でも・・・」
黒石教授、どうするんだろ?
「これを置いていく」
「これは?」
「俺が開発した『Tyu-U2』だ。これを飲めば余計なことを考えないで済む」
「・・・」
「研究者というのは技術を開発するのが仕事だ。その使い方は世間が決めることだ。研究者がそこにこだわりを持ってしまえば、何もできなくなるぞ」
「そうかも知れないが・・・」
「オヤジは恐ろしい人間だ。目的のためなら手段は選ばん。例え逃げたとしても、どこまでも追いかけてくるぞ」
「・・・・」
「・・・よく考えて行動する事だ」
近づいてくる足音。
あ、やべ。咄嗟に掃除箱の影に隠れる。
ドアが開き、純一が出てくる。
良かった。気づかれてはいないみたいだ。
純一が去った後、僕は研究室に入った。
「黒石教授、おはようございます!」
「あ、ああ、おはよう・・・」
「さ!早くこのロボット仕上げちゃいましょ!」
「あ、ああ、そうだな」
「今日は腕の動作パターンの入力ですよね!」
僕たちは作業を始めた。このロボットは僕が実習として作っているロボットだ。このロボットで黒石教授に基礎を教えてもらっている。人の形を模してはいるが、剥き出しの配線や骨格は、ロボットと言うより機械に近い。
僕がコンピューターでデータを入力する。教授が動作をチェックする。数百あるパターンデータを入力し、ひたすらこの作業を繰り返す。正直、辛い作業だ。
唯一の救いが教授がスピーカーで流している赤いア〇ポッドだ。この単調な作業を無音で続けていると、自分が今どこにいるのか分からなくなりそうだからだ。
「あ!」
教授の顔が輝く。
「和也君、これだよ!この曲!」
流れてきたのは、昨日教授が言っていた『ツチノコ~♪』の曲だった。
「どう?いい曲だろ?」
「確かに最後に『ツチノコが言ってたんだけどね~♪』は不思議ですね」
「だろ?真面目な曲なのに何で最後だけ?」
「これ、歌は誰ですか?」
「あれ?知らないの和也君?今大活躍で話題の音声合成ソフト『初音ミク』だよ」
「へ~、人間じゃないんですね?」
「そうなんだよ!でも、不思議と生身の人間以上に気持ちが伝わってくるだろ?これは製作者の愛がなせる業なんだよ!ロボットってのは本来こうあるべきなんだよ!」
言い終わった教授はハッとした顔をして、うつむいてしまった。
「・・・・教授?」
「いや、何でもない。作業を続けようか」
その日の夜、大学の事務室から電話があった。
黒石教授が自宅で自殺をはかり、昏睡状態で病院に運ばれたらしい。
「教授!!」
僕は急いで病院に駆けつけた。病室には医者、警察が2人、石原純一、そして、延命装置に繋がれた黒石教授がいた。
「応急処置は施しましたが、目を覚ますかどうかは・・・」
医者の先生からの説明が終わると、刑事が近づいてきた。
「斎藤和也さんですね。少しお話をお聞かせ願えませんか?」
そう言われると、病院のロビーに連れて行かれた。
「遺書も出てるんで自殺でほぼ間違えないんですが、念のため昨日の様子などをお聞かせください」
僕は昨日あったことの一部始終を話した。刑事も特に食いつくことなく淡々とメモを取っている。
「わかりました。ご協力ありがとうございます」
「あの、遺書には何が書いてあったんですか?」
「メモ用紙にただ一言『疲れた』とだけ書いてありました。まぁ、研究に行き詰まった事による自殺で間違いないですね」
刑事が帰った後、僕はもう一度、黒石教授に会いに病室に戻った。
ドアを開けようとすると、中から声が聞こえてきた。
「黒石・・・結局お前、俺の薬飲まなかったみたいだな・・・」
この声は石原純一だ。僕はまたドアの前で盗み聞きする形になってしまった。
「せっかく、俺があれだけ忠告してやったのに・・・馬鹿野郎」
その声はいつも通りの冷静な声だった。
「お前の事は大っ嫌いだったが、お前が居なくなるとつまらん。だから絶対に戻って来い」
そう言うと、足音がこっちに近づいて来た。
あ、やば!僕は廊下のベンチで寝たふりをした。
純一が病室から出てくる。
そして、僕の前を通り過ぎる。
よし、気づかれなかった。
そう思っていると通り過ぎ狭間。
「斎藤、盗み聞きもほどほどにしろよ」
あ、バレてた・・・。
病室に入ると、そこに居たのは静かに眠る教授一人だけだった。教授の身の上話はあんまり聞いたことが無いが、どうやらこの歳で未だに独身で、天涯孤独に近い状態の人みたいだ。
僕は一度だけ「どうしてロボットを作るんですか?」と聞いたことがあった。その時は「さぁ・・・?ロボットが好きだからかな?」と笑っていた。
「教授・・・どうして・・・」
大好きなロボットが石原に利用されるのが許せなかったとしても、もうちょっと他の方法があったんじゃないですか・・・?
(ボーカロイドと未来とツチノコの歌5【2016年編パート2】へ続く)
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