[名の無い村に住む名の無い家族は、
名の無い双子を持っていた。
名の無い双子は名の無い親に、
名の無い森に捨てられた。
名の無い兄と名の無い妹は、
名の無い道を作り、
名の無い家に帰って行った。]
第二章
森の中に二人の子供が歩いていた。
二人は小さく唄を口ずさみながら歩いていた。
「へんぜる」
少女が少年を呼んだ。
「何?グレーテル」
少年は少女のほうを向いた。少女は眼をこすりながら言った。
「眠い・・・・」
少年は、少し笑うと少女をおぶった。
「へんぜる?」
「きっともう少しだから。大丈夫」
少女は少年の首に手を回すと眼を閉じた。
少年は足を進めた。
少年が森の外れにつくと、双子の家が見えた。
家には明かりがついていて、中には人影が見えた。
「着いた・・」
少年は家の扉をたたいた。扉は十秒とたたずに開かれた。中からは眼を充血させ、涙あとがはっきりと表れた男性が出てきた。
「パパ・・・!」
少年が言うと、男は少年と背中にいる少女に抱きついて泣き崩れた。男は少年と少女に謝り続けた。女はあり得ないという顔で少年と少女を見ていた。
少年と少女は温かい布団の中で身を寄せ合いながら眠りに就いた。
男と女は部屋の中でうなだれていた。
「もうやめよう。こんなこと」
男はうなだれて言った。
「だめよ!そんなの絶対にダメよ!」
女は怒鳴った。
「もうあの子たちを失うなんて耐えられない」
男は泣きそうな顔で言った。女は唇を噛んで言った。
「私だってそうよ!でも・・・あの子たちは・・・」
女は黙ってしまった。
それから数日後、家族は別の森へ行った。
そして、両親はまた、二人を置き去りにした。
今度は二人を寝かしつけてから。
少年が眼を覚ますとそこはキンセンカの花畑だった。
「どこ?ここ?」
少年は少女を起こすと周りを見回した。
「グレーテル、ここ知ってる?」
[知らない]
少女は首を振った。
「だよね。どうしよう」
少年が頭を抱えていると、少女が急に走り出した。
「グレーテル!どこ行くの!」
少女は振り向いて言った。
「あっちに人がいたの!」
「人?」
少年は少女を追いかけて行った。
二人の前には、ヒト型の何かが走っていた。
ヒト型の何かはどんどん森の奥に入って行った。二人は息を切らしていたが、走り続けた。
そして、急にヒト型の何かが消えたと思ったら開けた場所に出た。
「わぁ!すごいよへんぜる!」
少女は眼を輝かせて言った。
「ほんとにすごい!」
少年も眼を輝かせて言った。
二人が景色に見とれていると、二人の視界に一軒の家が現れた。
「へんぜる。あれ」
「うん。行ってみよ」
二人は家の扉を叩いた。すると、中から人のよさそうな御ばあ団が出てきた。
「あら?こんなところに人が来るなんて珍しいねぇ」
少年はおばあさんに言った。
「僕たち、家に帰る道がわからなくなっちゃったの」
おばあさんは笑って言った。
「そうかい。じゃあ、今日はうちで休んで行きなさい。夜には怖いものが出るからね」
少年は微笑んで言った。
「ありがと」
「いいんだよ、さ、おはいり」
少年と少女はおばあさんの家に入って行った。
第三章に続く。
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