次の日の教室は異様な雰囲気だった。
なぜかは私が一番知っている。
「大して可愛くもないくせに何様ってカンジ」
「どんだけ自分に自信あるんですかぁ?」
ひそひそと、でも、私に聞こえるように話す。
その中心となっているのは―
「あたし、あんなこと言われるなんて思ってもいなかった・・・」
初音さん達だ。
「あんたは全然悪くないわよ。泣く必要なんか無いわ」
「しかし気強い女だな!」
秋音さんや風音が私を睨む。
いつもの私なら睨み返してやるところだけど、今回はそうもいかない。
だって、これは私の望んだ結果だから。
嫌われてしまえば、レンやクオ、メイトや他の人を傷つけなくて済む。
私自身も、傷つかなくて済む。
いじめや陰口なんて慣れっこ。痛くもかゆくも無い。
大丈夫―
「みんなおはよー!!」
重い空気に不似合いな、あまりにも明るい声。
鏡音さんとレンだ。
「何?なんかあったの?」
鏡音さんが重い空気に気づいたらしく、こそこそと秋音さんに訊ねる。
「あんた達は何も聞いてなかったわね。実はミクが―」
レンと目が合った。
原因は、昨日の様子からして私だろうと勘付いたらしい。
私は目を逸らした。
鏡音さんは事情を聞いて「うそ!」と私を見た。
私は自分の膝あたりに視点をおいた。
「つーかまじあいつムカつく。きも」
「しょーがないくない?女王様ですから～?」
「うるさい!!」
バン!
思い切り机を叩く音と同時に、椅子からガタッと立ち上がるような音もした。
「あたし人の悪口とかちょー嫌いなんですけど!マジお前らのほうムカツクし!言いたいことあんならはっきり言えば!?」
開音さんだった。
気がつかなかったけど、今日は仕事が休みらしい。
「つーか巡音さん普通に美人だし!ひがんでんじゃないわよブス!!」
クラスメイトは皆ポカンとしている。
そりゃ、音楽業界やテレビで活躍している人間から言われたら何も言えないだろう。
実際私も唖然とした。
「はーい静かにしろー・・・って、何だお前ら、今日は静かじゃねぇか。気味悪いなぁ」
担任が来ると、開音さんはフンッと鼻を鳴らして座った。
（もしかして・・・）
助けてくれた?

「開音さん」
次の休み時間、私は開音さんを呼び止めた。
「何?」
「さっきは、ありがとう」
私が言うと、開音さんははぁ?と言って
「別にあんたのために言ったわけじゃないんですけど?」
「でも、助かったわ」
開音さんは顔を真っ赤にして
「だからあんたのためじゃないって言ってんでしょ!!悪口が嫌いなだけ!それとクオと仲良くするのやめてくれる!?週刊誌載ったらどうしてくれるの!!」
早口で言った。
「うん。分かった」
開音さん・・・
「ツンデレ?」
「はぁ!?バッカじゃないの!」
心の声がうっかり漏れてしまった。
開音さんは呼吸を整えると
「あんた性格悪いし、どうせ友達いないんでしょ?」
「え」
「おまけにこんなことになっちゃったし」
「・・・・」
何も言えない。
「だから・・・」
「?」
すぅっと息を吸った。
「あたしが一緒にいてあげる」
「へ・・・・」
予想外の言葉に驚いた。
「だから、あんたは何にも怖がんなくてもいいから!」
「え、あの、開音さん・・・?」
状況が把握できない。
「開音、じゃなくて」
開音さんは私に顔を近づけた。
「ミ・キ」
そして不敵な笑みを浮かべた。