「うわ…っ」

 弾け飛ぶ夏にカイトが目を見開く。マスターの笑みが深まる。

「レンくんの声…だ…。…リンちゃんも歌ってる…。すごいなあ…」
「とうとう花開いたね」

 幸せそうに呟くマスター。
 カイトも幸せそうに愛すべき弟妹の歌声に耳を傾けた。
 いつしか、その足がリズムを取り、小さく音を紡ぎ始める。

「カイト」
「は、はい?」
「歌いたいなら歌いなさい」

 ゆったりと促され、カイトが慌ててマスターを振り返る。

「良いんですか?」
「うずうずしているようだからね」
「…あはは。ばれました?」
「VOCALOIDが歌うことを遠慮するものじゃないよ」
「はいっ」

 満面の笑みになったカイトが姿勢を正し。
 穏やかな声を重ねる。




「あら…」

 弾け飛ぶ夏に、夏の庭の木漏れ日の中でまどろんでいたメイコが目を醒ます。
 鮮やかな黄金に、少し遅れて重なり来る穏やかな青。こぼれる笑みを隠せない。

「なるほど、ね」

 込み上げてくる欲求に任せて、メイコが唇を開いた。



「きゃ…っ」

 弾け飛ぶ夏に、夏を堪能し終えて台所に戻っていたミクが驚きの声を上げた。
 鮮やかな黄金に穏やかな青、華やかな赤。

「よし、私も負けませんよっ」

 跳ね始めた感情のままに、ミクが喉をふるわせる。



「そうだな…」

 弾け飛ぶ夏に、夏の歌を譜読みし直していたルカが満足げに頷く。
 鮮やかな黄金に穏やかな青、華やかな赤、そして軽やかな緑。

「それでこそ、レンだ」

 誘われるような感覚と共に、ルカが声を放ち始めた。



(聴こえるねっ)

 繋いだ手の向こうからリンの「声」がする。
 歌声を止めないままに弾む思いがレンに伝わってくる。

(みんなみんな歌ってるねっ)
(ああ)

 自分たちの歌声を支えるように、彩るように。
 …違うからこそ、その歌声は、響き合って輝きを増す。

(…さっきは、悪かったな)

 するりと浮かんだ謝罪の思いが届いたのか、リンの笑みが深まった。

(しょーがないなあ、レンはっ)
(…なんでんなに上から目線なんだよ…)
(今回はレンが悪いんだもん)
(あー…、悪かったって…)

 居心地が悪くていっそ手を離そうとするレン。リンはその手を逆に強く握り締め。

(だから、許したげる代わりに、ひとつ、約束して)
(ん?)
(何があっても、もう二度と、…あたしには関係ないなんて言わないで)

 歌声を響かせながらリンがレンを見つめる。

(…約束、な)

 レンがぎゅっと握り返すと、リンがぱあっと笑顔を弾けさせた。

 その笑顔のリンは、夏の歌にレンがイメージした向日葵そのもの。

(よおっし。そうとなれば、もっともっと一緒に歌おっ)
(うん、そうだなっ)

 強く繋いだ手は離さず、お互いに頷き合って、笑みを交わして。
 弾けるままに歌い続ける。




 マスターは瞳を閉じて聴き入っていた。
 家の中の様々な場所から紡がれてくる歌声。
 重なり合い、絡み合い、イメージを脳裏に刻んでくる。


 緑の茎葉に支えられ。

 赤い太陽の恵みを受けて。

 桃色の大地に根を広げ。

 高く青い空を目指して。


 花開くのは大輪の向日葵。


「待っていた甲斐があったね」

 予想以上に響き渡る歌声にマスターの心も弾み始めた。

「さて、どう飾ろうかな…」

 呟いて、…各々に対するアレンジメントを考えながら、開いた夏の花の鮮やかさを心に焼き付けていく。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

夏の花、開く時 9

以上で「夏の花、開く時」終了です。

少しでも色彩が伝わっていましたら嬉しいです。
お付き合い下さり有難う御座いましたっ。

―――――
9.3 ちょっとだけ修正しました。

閲覧数:320

投稿日:2009/09/03 22:46:49

文字数:1,461文字

カテゴリ:小説

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  • 西の風

    西の風

    ご意見・ご感想

    >つんばるさん
    コメント並びに完結祝い、有難う御座いますーっ。
    綺麗にまとまってますか! 嬉しいですっ。

    クリプトンのボカロのイメージカラーを並べると鮮やかな夏の風景が出来るんだなあ、と気付いて書き始めました。ボカロは本当に色とりどりで、それぞれに綺麗ですよね。
    ボカロはやっぱりそれを扱うマスターあってだと思うのですよ。裏方(黒幕?)みたいな感じで居れば良いなあと思います。
    全員動かすのは好きです! 均等には無理ですけれどねw

    素敵なお話と言って頂けて本当に嬉しいです、有難う御座いますっ。
    またひょこひょこ書き始めるかもしれませんので、その際はまた宜しくお願いしますね~。

    2009/09/03 23:06:39

  • つんばる

    つんばる

    ご意見・ご感想

    完結おめでとうございますー!

    毎回毎回、西の風さんの作品はきれいにまとまっててすごくいいなあ、と思います……!
    こうしてみると、ボカロって色とりどりできれいですよね、なんて再確認しました。
    最終話は、色に気をとられててマスターの存在を忘れかけてましたが、なんという良オチ。
    ちゃんと全員忘れないで動かしてるのがすごいです!(←たまに忘れる人(コラ

    それでは、連載お疲れさまでした~! 素敵なお話ありがとうございました!

    2009/09/03 17:20:53

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