「あ……待ってルカさん!」





いざ戦いに出ようとしたところで―――――不意にネルがルカに駆け寄った。


「これを……!」

「ん? ……これは!」


ネルが手渡してきたのは、新品の鉄鞭。しかもその質感は、前回の改造鞭以上に柔軟かつ強靭であることが触れただけでわかってくるほどの代物だった。


「たった二本の鞭じゃ、心許ないでしょ?」

「ネル……」

「……そいつは前回の鞭を更にパワーアップさせた、あたしの研究の集大成よ。蛸足滅砕陣ではもう壊れやしないわ!! 思う存分戦ってきて!!」


ネルの満面の笑みとVサインを受けて、ルカも自然と微笑みを浮かべる。


「……ありがとね。……でも」



――――――しかし。

ルカは受け取った鉄鞭を瞬時に畳み、全身のホルダーへと収納してしまった。


「今はまだ、使わないでおくわ♪」

「へっ!!? じゃ……じゃあどうやって戦うわけ!?」

「ま、ちょっと見ててちょーだい」


慌てるネルや、目を見開いているメイコやカイトを尻目に、ルカは背筋を伸ばし、すっと左手を前に掲げた。

前方からは今にも襲い掛からんとしている、『Megpoid』や『がくっぽいど』の大群――――


『……『サイコ・サウンド』発動』


静かに呟いたルカの眼の色は―――――水色から鮮やかで透明感のある桃色に変わっていた。

伸ばした手の先で空気が歪んでいき――――――――――





『……………staccato!!』





ルカが叫んだ瞬間、ルカの手の先から大量の薄い桃色の光を帯びた空気弾が放たれた。

スタッカートのかかった単発的な音波弾。それが『Megpoid』の一人に着弾―――――



―――――とほぼ同時に、突然『Megpoid』の体が後方へと吹っ飛んだ!!



「えっ!!?」

「これは―――――」


余りにも小さな音波弾。単純な威力にすれば段ボールの空気砲にも満たないであろう空気の弾が―――――次々と『量産型』を吹き飛ばしていく。

それでもなお向かってくる『量産型』に対し、今度は腕を薙ぎ払うように振るったルカ。


『con fuoco!!』


腕から放たれた音の波は、『量産型』にあたると同時に発火。敵を呑み込んでいく。

その後もルカの猛攻は止まらない。


『delirante!!』


突き出した両手から放たれた音波。空気弾とは思えぬ挙動で乱れ飛び、敵の頭を、胴体を破壊していく。


『leggiero!!』


今度は自分に『サイコ・サウンド』をかけた。そのまま目のも泊まらぬ速さで敵陣へと突っ込み、凄まじい速度の打撃で敵を物言わぬ鉄くずへと変えていく。


『violenza!!』


更にその状態から両腕に『サイコ・サウンド』を纏わせ、メイコでも目を見張るような怪力を発揮し周りの敵を薙ぎ払う。

一通り敵を黙らせたところで―――――皆のところまで舞い戻り再び手を掲げた。

そして一瞬深く息を吸って―――――勢いよく手を打ち降ろした。



『pesante・fortissimo!!』



直後―――――『量産型』の軍勢に凄まじい重力がかかっていく。メリメリと音を立てながら―――――量産型の体はひしゃげていった。


『……………!!』


後ろのメイコ達は茫然としていた。

スタッカート(音を短くして)。コン・フォーコ(火のように)。デリランテ(乱れて)。レッジェーロ(軽く)。ビオレンツァ(激しく, 猛烈に)。ペザンテ(重々しく)。フォルテッシモ(極めて強く)―――――すべて音楽用語だ。

ルカは今、音楽用語のイメージを『サイコ・サウンド』に乗せて戦っている。


「『サイコ・サウンド』を完全に使いこなして……ホント、なんて子なの……!」


メイコも負けていられなかった。

『量産型』はまだまだ数がいるようだ―――――船から次々と降りてくる。新しいスタンドマイクの力を試すにはちょうどいい。

それに―――――先程のルカの猛攻で一つ気づいたことがあった。

敵はバイオメカにしては随分と脆いようだ。いくらルカの力が増大しているとはいえ、あれほどあっさりと壊れるなどと言うのはいくら何でも脆すぎる。

やはり熟成が短い分だけ、頑丈さも足りないのだろう。ならばいくら数が多かろうとも雑魚同然。


「次はあたしが行くわ」


皆に一声だけかけて―――――地面を蹴って一気に加速した!

ぐんぐん加速して、敵陣の中へと突っ込む。

嘗て自分たちを苦しめた武器の数々がメイコの首を狙う中―――――敵陣のど真ん中まで周りの敵を吹っ飛ばしながら突入。

そこで力強く足を叩き付けた。地面がひび割れ、足が固定される―――――砲台、設置完了―――――!!


『……メイコバースト……改っ!!!!』





《――――――――――――――――ドゥウ!!!!》





直後―――――『量産型』の軍団の中心部から、爆炎を纏った音波砲が撃ちあがった。

まるで熱線―――――音波砲はそのまま周囲の量産型を薙ぎ払っていく。


「ひゃっ!?」

「うわ、危……!」


周囲を全て焼き尽くすかのように舐めまわしていく『メイコバースト改』は、そのまま勢い余ってルカたちまでも薙ぎ払おうとする。


「ちょっとめ―――――ちゃ――――――ん!!!? 危ないでしょ―――――がっ!!」

『避けなさい!!』

『無茶言うなっ!!!!!!』


咄嗟に張られたカイトの『絶対バリア』がバチバチと熱線を弾く。


『やれやれ……ホント危ないな、めーちゃんは』

「カイトさん?」

「めーちゃん止めるついでにあいつら斃してくるよ。ルカちゃん達はここから遠距離支援を頼む」

「OK」


安全圏に入ったところで、バリアを解いて猛然と走り出したカイト。

敵が近づいてきたところで急ブレーキをかけ、地面を氷に変えた。


『来い!! エクスイカバーっ!!』


砕けた氷の中から、紅い刀身をぎらつかせた剣が出現。ネットワーク補正と冬の冷気を吸い上げたエクスイカバーはカイトの背丈すらも超える大剣と化していた。


『卑怯プログラム発動―――――!!』


咆えたカイトが冷気を纏ったエクスイカバーを高々と振りかぶり―――――





『タライ・アタックっっ!!!!!』


『剣使えよ!!!!』





皆のツッコミも空しく、虚空より巨大タライが出現、敵を押し潰した―――――メイコ諸共。


『よし! やった!』

『やったじゃねーわこの畜生アイスっ!!!!』


ガッツポーズをするカイトの顔にプラス遠心力の拳(byメイコ)がぶち込まれ、地面に頭から突き刺さる。


「おぐぅお!! ……何をする!?」

「あたしの台詞だバーローっ!!!」


やいのやいのと言い争う大人組を見て、苦笑いとため息を漏らすグミ。


「やれやれ……。……さて、あたしも元マスター様の後始末、させてもらおうかしらね……」


軽く骨を鳴らしながら戦線に加わろうとして―――――ふと違和感を感じ、足を止めて振り返った。


「……あんたたち、何やってんの?」


振り返ってからのグミの第一声はそれだった。

目線の先には―――――立ちすくんでいるミクとリン、レンの姿が。

その眼には困惑の色が浮かんでいる。歯をガチガチと鳴らし、三人そろって足を震わせている。


「ちょ……ちょっと3人とも、どーしたのよ!? まさかビビったとかいうわけじゃないでしょうね!? この期に及んで!!」


グミが声を荒げ、それにルカ達3人も反応して振り向いた。

皆の目線がミク達に集まる中―――――蚊の鳴くようなミクの声が零れた。


「……動かない」

「……は!?」










「動かないの……! 足が……体が動いてくれない……!」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

SOUND WARS!! Ⅲ~蘇る音色のハーモニー~

荒ぶる大人組。
こんにちはTurndogです。

サイコ・サウンドFoooooooooooooooooo--------------!!!
音楽用語のイメージから音波の効果考えるのすごい楽しいです。
個人的にスタッカートとコン・フォーコとペザンテがお気に入り。

そして蘇るめーちゃん。
怪力っ!! 爆音っ!! 最強の代名詞っ!!!
戦いはパワーだぜ。

無駄にカッコつける青いの。
かっこつけた結果めーちゃんに沈められてますが←
でも剣を振り上げたからと言って使うとは限りませんよね(まさに卑怯

そしてグミちゃんも戦おうとしたところで……
若いの3人組に異変……!?

閲覧数:214

投稿日:2014/12/12 22:20:09

文字数:3,258文字

カテゴリ:小説

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