十六枚目:
俺には価値がない。
両親も兄弟も俺も周りも、
みんな俺には期待しない。
凡人にもなれない糞ニート。
俺の居場所は画面の向こう。
今日も、働かない言い訳を探しながら、
キーボードをカタカタと鳴らす。
産んでくれなんて頼んでない。
病気なんだから仕方がないじゃないか。
こうして、誰かのせいにしながら生きている。
薄暗い部屋の中、独りぼっち。
部屋には、美少女フィギュアとか、
漫画とか、アニメの円盤とか、そんなんばっか。
俺はまだ大人になれないでいる。
いや、なりたくないんだ。
ずっと子供のままがいい。
あの頃に戻りたい。
あの頃の方が幸せだった。
いや、いっその事消えてしまいたい。
この世界からいなくなりたい。
罪悪感はある。
劣等感もある。
それでも地を這って生きている。
リア充してる周りが羨ましい。
俺はいつも不幸な目に遭う。
くそったれな人生だ。
良い事なんてひとつもない。
社会が俺を否定する。
負け惜しみじゃない。
俺は悪くない。
俺は悪くない。
俺は悪くない。
俺は悪くない。
そうだ…俺は悪くない。
…………………………………………
勇気をだして外へ出てみる。
有り金全部持って、知ってる街をほっつき歩く。
無計画に外出したから、何処へ行けばいいのか分からない。
コンビニ寄って、ゲーセン行って、
俯きながら、重い足取りで歩み続ける。
周りの視線が凄く痛い。
でも、気にしない。
「ママ〜、あの人変〜」
「こら!あんなモノ見てはいけません!」
気にしない。
気にしない。
気に…しない。
そんな時、彼女と出会った。
色白の肌、細くて綺麗な手足、
微かに靡く黒髪…
呆然と佇む俺に、彼女は心配そうに尋ねた。
「君、大丈夫?」
「大丈夫だと思うか?」
「大丈夫じゃなさそうだから声をかけた」
「何の用だ?」
「よかったら、相談に乗るよ」
俺は、今までの愚かな日々を彼女に語った。
「普通に生きたつもりだったんだけどな。
気づけばこのザマだ。
もう、自分の事すらわからなくなってんだ。
こんな事なら生まれてこなければよかった。
周りにそう言うと、世界には〜とか、
薄っぺらい綺麗事が返ってくるだけ。
違うのにな、そういう事じゃないんだよ…」
思春期の子供みたいな情けない発言だと自分で思う。
それでも彼女は、
笑うでもなく、呆れるでもなく、
親身になって、励ましてくれた。
「君はきっと、特別なんだと思う」
「俺が、特別?」
「そう、唯一無二のモノがきっとある」
「そう…なのか?」
特別だなんて、人生で初めて言われた。
ましてや、異性と話すなんて何十年だろう?
俺は、話す度に少しづつ心を開いていった。
それから俺たちは、友達になった。
毎日、同じ公園のベンチで色んな話をした。
どうでもいい事や、人生相談など、
日によって話題は違うから飽きなかった。
彼女といる時間が一番幸せだった。
軈て俺らは付き合い始めた。
ゆくゆくは結婚したいと思っていた。
彼女も同じ気持ちだったようで嬉しかった。
俺は、真面目に働き始めた。
彼女のすすめで、実力にあった場所で働いた。
肉体労働だったが、彼女の支えもあって、
どうにか頑張れた。
周りの視線も全く気にならないし、
職場でいじめられても、上司からいびられても、
動じない程の強いメンタルを手に入れた。
とある秋の夕暮れ時に、初めて彼女の過去を知った。
彼女は、幼少期に母親から虐待を受けていた。
父親は無関心だったそうで、
泣いても喚いても助けてくれない。
いじめも受け、不登校気味だったが、
それでも頑張って登校した。
本当に、俺以上の辛い経験を味わったのだ。
味方が自分以外にいなくても、
俺みたいに逃げなかった。
彼女の言葉を聞いて、貰ってばかりじゃなく、
俺も彼女を支えなければという気持ちになった。
そして俺は……
目を開けると、自室の天井があった。
そして、いつも見慣れた風景が広がっている。
俺は一人で発狂した。
巫山戯るな、巫山戯るな、巫山戯るな…
違う、違う、違う、違う…
俺は…俺は…俺は…俺は…
なんだ、結局夢なんか。
そりゃそうか。
だって俺、コミュ障だから。
……………………………………
俺は、幼い頃から内向的だった。
容姿も普通だったし、学力も平均点以上だった。
休み時間に、一人で本を読むのが好きだった。
自分だけの世界に浸れるからだ。
それでも、話しかけられれば普通に返すし、
体育の授業や運動会でも、積極的に皆と参加した。
傍から見ても、ごく普通の少年だ。
そんな俺に、奴らは言った。
「お前、キモい」
その一言で、全身が凍りついた。
信じられなかった。
信じたくなかった。
“なんで俺が?”
その一言で頭がいっぱいになった。
それから、クラス総出で俺への虐めが始まった。
本当に、本当に辛かった。
何度も死にたいと思った。
何度も消えたいと思った。
何度も自殺を考えた。
色々試してみたが、全部失敗に終わった。
今日も学校へ行けば、
アイツ(いじめっ子)らがいる。
今日は違う子を面白がって貶している。
虐められている女子の名は、月宮葉子。
俺の右隣の席で、物静かな性格をしている。
彼女が何かやらかした訳ではないが、
虐めっ子達に色々と難癖つけられているそうだ。
もちろん、俺も例外ではない。
時折、俺の元にやって来て、態とらしくぶつかってきたり、陰口を言ってケラケラ笑われたり、
物を隠されたり、黒板に悪口を書かれたり、
足をかけて転ばしてきたり、尾行されたり、
大人の前では良い子ぶっているのに、
割と犯罪レベルの事をしてくる。
何も言い返さないのは、強がりではなく面倒臭いから。
奴らには罪悪感がなく、汚れを知らない幼い子供のように目をキラキラさせ、口元をニチャニチャさせている。
人を人として見ようとしないからこそ、
どんな酷い事も平気で実行する。
まるで、悪意無く蟻の行列を踏みつけるかのよう。
本当に、吐き気がするほど醜くて汚い。
もちろん俺も、虐めの現場を見て可哀想だとは思う。
だからといって、月宮さんと仲良くするつもりはない。
虐めは、いじめられる方が悪いと世間は言う。
自分が弱いせいで舐められる。
無能だから怒られて、
弱音を吐いたらバカにされる。
笑っただけでキモいと言われ、
みんな自分から距離を置く。
嫌われないように取り繕っても、
簡単に裏切られる。
被害者ぶるなと言われるが、
結局どうすりゃいいんだよ。
虐める側は、自分達が何をしているのか客観視できず、事の重大さに気づいていない。
虐める側は、無自覚な事が多く、
その大半は、集団で行われる。
物を隠されたり、陰口を叩かれたり、
ノートや机や黒板に悪口を書かれたり、
暴力だってあるし、教師が虐める側に加担している事例も決して少なくない。
‘’気持ち悪い”
‘’臭い”
‘’ウザい”
‘’近づかないでよ”
‘’汚れる”
‘’死ねばいいのに”
‘’なんで来んの?”
‘’お前が悪い”
そんな言葉を当たり前の様に言ってくる。
親に言っても答えは同じだ。
そして、そういう奴らが常識や世界を語る。
自分は真面であると信じている。
毎日風呂に入ろうが、毎日手を洗おうが、
まるで人をバイ菌かのように言ってくる奴もいる。
触った物を擦り付け合ったり、
すれ違い様に、態とらしく鼻をつまんだりしてくる。
虐めがバレると、手のひらを返したり、責任を別の奴に擦り付けたり、自分は無実だと主張する。
もちろん、いじめられる側に問題がある場合も無くはない。
それでも、全部俺が悪いらしい。
そもそもの話、
“やられる方が悪い”
“自分に起こる不幸は全部自分のせい”
こういう奴に限って、他人のせいにする。
自分の罪を他人に擦り付ける。
自分は悪くないってね。
いじめられる側の自覚がないだけなのか。
そう簡単に変えられたらどれほど良いか。
原因と対処法が分かったところで、
理想通りに生きられれば苦労はない。
そんな完璧人間は一体何処にいるというのだ?
普通にしてても嫌われるというのに…
そんな、言い訳ばかりが思いつく。
体を鍛えようが、気にしないようにしようが、
自分の欠点を改善させようが、
奴らはありとあらゆる手を使って攻撃してくる。
自分を変えようが相手は変わらない。
結局虐めは、逃げるが勝ちだ。
いや、虐めに限らず逃げた方が身のためだ。
俺はその日から、外部との関わりを拒絶した。
それでも彼らは、俺の事なんか忘れて悠々自適に生きているのだろう。
結局、“ごめんなさい”の一言すら聞けなかった。
向こうは、悪気なんて微塵もないのだから当然だ。
そんな奴らですら、立派に生きているのに、
俺はこんな所で何をしているんだ?
なんで、成功して見返したいとか、
変わりたいとは思わないんだ?
自問自答を繰り返すうちに、意識が朦朧とし、
軈て、眠りについた。
機械の音で目を覚ます。
ここは病院だ。
しばらくすると、医師が入って来た。
医師は冷めた声で言った。
「安心して下さい、ただの貧血です」
軽い脳貧血と自律神経の乱れが原因だと、
医師は端的に説明した。
本当にそれだけか?と思ったが、
素人の俺に反論の余地はなかった。
両親は見舞いに来なかった。
音信不通の友人も来ていない。
俺は、このまま誰にも悲しまれることも無く
孤独死するのか?
それも悪くない…かもな。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

名無しの手紙(十六枚目)

閲覧数:136

投稿日:2023/02/09 14:18:25

文字数:3,877文字

カテゴリ:小説

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