「すみません、そこのお方」
美紅が通行人に話しかける。
「なんでござんしょ」
「金の髪をした姫を見ませんでしたか」
「金の髪?異人さんかね」
「いえ。我が国には珍しい、産まれながらの金の髪にございまして」
「そんな異人様の様な娘は知らぬ」
鎖国が終わった直後で、皆異人が嫌いだった。
通行人はそっぽを向いてすたすたと行ってしまった。
「これで三十人目・・・・」
「手がかりは掴めないままね・・・」
皆答えは一緒。
誰も、凛を見た者は居ない。
「あの・・・」
「はい?」
一人の女が美紅に話しかけた。
「その姫様はまさか、金の髪で海の目をした・・・・」
「その姫です!!」
「やはり・・・・」
女は少し俯いてから言った。
「姫様とよく似た男が、西の遊郭の常連と・・・・」
「遊郭?」
『女遊びをしていると・・・』
凛の言葉を思い出した。
きっとその男は・・・
「おそらく、凛の弟・・・・」
「そうね・・・」
「西の遊郭に行けば、男に会えると思いますが」
「有難う御座いました」
美紅が女に深々と頭を下げた。
「14歳なのに、遊郭なんて・・・・」
「なんて奴だ・・・姉の心配をよそに、遊郭で女遊びなんて・・・・」
「なんて奴?」
美紅が、ピクッと動いた。
「美紅?」
「気づかぬか?」
低い声になって、美紅は俺を睨んでくる。
見たこともないような、恐ろしい目で・・・・
「美紅?どうし・・・」
「貴様は自分の起こした過ちにも気づかずに、よくそんな事が言える!!男の・・・・蓮の事も知らずに・・・！凛の事も、自分の事も知らずじまいではないか!!あの時、なぜ貴様は産まれてきた!!お前さえ産まれなければ、あの惨劇は起こらなかったというのに!!」
惨劇・・・?
蓮?
過ち?
知らずじまい?
産まれなければ?
美紅の言葉が、頭を駆け巡る。
美紅は我に返ったように、乱れた呼吸を整えて
「失礼しました・・・・」
ようやくそう言った。
「美紅、さっきのどういうことよ!」
「なんでもないです・・・行きましょう、遊郭へ」
何事も無かったかのように、美紅はふらふらと歩き始めた。
さっきの美紅の言葉は、なんだったんだろう。
それに、あの時凛を愛おしく感じたのは・・・・
さっきの言葉と、関係があるのだろうか。
「海斗?」
「あ・・・」
芽衣子が俺を呼ぶ。
「さっきの事は気にしないほうがいいわ。美紅も疲れてるから、きっと訳の分からない事を口走っちゃったのよ」
芽衣子は俺の背中をさすった。
「ああ・・・」
「さ、行きましょ」
芽衣子に手を引かれながら、遊郭へ向かった。