――そうだ…。あれは、この世界に来る前の、あの出来事は…。

  嫌、思い出したくない!でも思い出してしまった。

  あの…出来事と…そして、この‘セカイ’に来てしまったことと、

  何かカンケイがあるの?



‘あの出来事’とは、このセカイに来る前の―――





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がくぽさんは、私の同級生だ。

誕生日は私の方が先なのだが、彼は大人っぽい雰囲気を持つので、私は「がくぽさん」と呼んでいる。

そして、家が少しばかり近い。

だから、よく登下校を共にする。


がくぽさんには、少し気があった。

でも、友達としての好きのキモチのほうが高いかな?

がくぽさんは、少し余計なことを言ったり、驚かしてきたりと嫌な性格かと思いきや、

意外に優しい。

勉強も教えてくれたしね。


ずっとずっと、こんな幸せな日々が続くと思っていた。

だけど、それは突然崩れてしまった。



今日の4時間目が終わったころだった。

その日、4時間目は化学だった。

化学は私の、「超☆」がつくほどの苦手分野。

私は机の上に、突っ伏していた。

きっと頭から煙が出ている。


「えー、今日の授業はここまで。次の時間にはミニテストをやるので、ちゃんと勉強しておけよー」

先生の声が響きわたる。えー…、ミニテストかよぉー…。

「あーそうそう。赤点を取ったヤツは、補習がありますのでね。おい緑川 、机に突っ伏してないで勉強しておけよー。」

先生がでていく。オ…オニめ。赤点決定じゃん。


授業終了を告げる鐘が鳴る。

ついでに私のお腹も鳴る。

お腹すいたわー。


鞄から、近くのコンビニで買った牛乳とジャムパンを取り出す。

化学教師がミニテストとか言ったから、勉強しながら食べるか。

さらに化学の問題集とシャープペンシルも取り出す。うん、めんどくさい。


左手で食事をしながら、右手で問題を解く。

ジャムパンと牛乳の組み合わせは最強だと思う。

さてさて、一問目。


{アンモニアを生成する場合、用いられる材料は塩化アンモニウムと(     )である。}



………

………塩化吸収剤か何かか?

よくわからなかったからパス。


改めまして二問目…


{電流が流れている導線が磁界から受ける力をなんというでしょう。}

…うん、コレは。

パス。


はい三問目いきまーす。


{調理の為に火にかける鍋を制作する際、重量が軽いのでマグネシウムを材料に選んだのだが、調理を始めると問題が発生した。

この時の問題点とマグネシウムの代わりに用いられるべき金属合金の例を一つ上げなさい。 }



……

……よくマグネシウムなんか材料に選んだなぁ。

危険でしょ。

マグネシウムって、火がついたら鍋が消えるどころじゃないし。

これなら解ける。

問題点… 家が消えてなくなる点。
合金の例…

…ジュラルミン?

でもジュラルミン製の鍋なんて見たことないしな。

じゃよく見るし、ステンレス?

ま、いっか。ステンレスで。

問題点… 家が消えてなくなる点。
合金の例…ステンレス


ここまでがテスト範囲だけど、ほとんどわからないね。うん。

さてさて、困った困った。


「緑川 、どうした?さっきからうんぬん言ってるけど」

「あ、がくぽさん。テスト範囲のこの問題がわからなくて」

「え、一問目と二問目?一問目はわかるけど、二問目は俺もわからない」

「そっかぁ…」

「ごめん、俺呼ばれてるから行くね」

「あ、うん」

呼ばれてる?誰にだろう。

ま、いっか。


あ、図書室まで化学の資料を借りに行ってこよ。

教科書だと意味不明だし。

図書室の資料ならわかりやすく書いてあるだろうし。

そう思い教室を出た。














[図書室]


えーっと今回の化学のテストの参考資料はーっと。

あ、あったあった。

貸し出しカードは…

ってアレ?

がくぽさんと…誰かの声がする。

え、ここ?呼び出されたところ。

ま、気にしない気にしない。

貸し出しカードを記入しようとしたところだった。









「私、神威さんのことが好きなんです」









え…?





「巡音…俺は…」






対してがくぽさんの声。



巡音さんは、となりのクラスの人。

たしか、帰国子女だったっけ…

頭いいらしいし…


つまり、がくぽさんを呼び出したのは巡音さん…

巡音さんはがくぽさんが好き。

がくぽさんは…?


耳を澄ましたが、よく聞こえない。


…なんで私、巡音さんががくぽさんに告白していることに、ショックを受けてるわけ?

私はがくぽさんのこと、異性としては好きじゃないんでしょ…?

なんでこんなに気にしているの…?

なんでこんなにモヤモヤするの?


まさか…嫉妬?

まさか。

でもなんでこんなに…


私は図書室を飛び出した。



私はなぜか泣いていた。





















その後、あまり授業は耳に入ってこなかった。




「…さん、緑川さん、どうしたの?もう下校の時間だよ?」

「え?あ、ごめん。ちょっと考え事してて…」


クラスメイトの初音さんが声をかけてくれた。

もうそんな時間になってたの?


「授業中も、なんか魂が抜けたみたいな顔してたけど大丈夫?」

「…うん、大丈夫。ごめんね」





がくぽさんが校門で待っていた。


二人で歩き出した。


「緑川 、どうした?遅かったけど」

「なんでもないよ…」


あのことが、ずっと頭の中でグルグルしている。


「本当にどうした?午後の授業なんか灰みたいになってたし」

「…本当に、なんでもないから」


「お前…何かあった?変だぞ」

「…本当に、なにもないからっ!」

あ。

「ご、ごめん…」

「こっちこそごめん…」




「がくぽさん…巡音さんに、告白されてたよね」


気がつけば、口からそんな言葉が出ていた。


「お前…見てたのか」


え…私、何を言おうとしているの?

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

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