「…怖がらせようとしたってダメですよ、羽鉦さん。」
「ん…?」
「羽鉦さんには私や奏先生が本気で傷付く事は出来ない、違いますか?」
両手首を押さえる力が、目の前にある顔が、怖くない訳じゃない。だけど同時に本気じゃないのも判ったから。笑顔でいるのに何処までも悲しそうな目が笑っても怒ってもいなかったから。
「参ったな…。」
少し笑って手を解くと、羽鉦さんはそのまま体を起こした。本気じゃないと判っていても流石に少しホッとしてしまう。
「羽鉦さんは奏先生を傷付けたくないんですよね?だから、私を遠ざけようと…。」
「うん…。事情はまぁ、言えないけどね。」
「私が奏先生を好きになれば、先生が傷付く事になるから?」
「騎士は何も言わないから。一人で傷も痛みも抱え込んで、誰にもそれを伝えない、
誰にも頼らない、それがもう見てられなくてね…。」
今判った。この悲しそうな笑顔の意味が。多分ずっと何も出来ないのが歯痒くて、悔しくて、悪足掻きでも構わない程何か出来ないかを探して、自分を追い詰めて…。だとしたら、二人は似てるのかも知れない。苦しみも寂しさも全部自分一人で抱え込んで、でも、それなら…。
「羽鉦さんは誰が救うの?」
「…え?」
「全部奏先生の為なら、羽鉦さんの苦しみは誰が取り除けるの?」
「―――そんなの考えた事無い。」
「だったら、やっぱり2人共間違ってます。どんなに悪い事をしたんだとしても、
苦しいなら誰かがそれを許してあげないと。」
「騎士は自分を許してくれなんて言わないよ、絶対に。」
「それでも許して味方になります。」
それでも誰かが言わないと。自分を責め続けて、苦しんで、許される事を拒むのなら何度でも何度でも、だってそんなの悲し過ぎる。笑顔を望んでくれる人が居るのにただ苦しみにだけ身を浸らせて、自分を追い詰めて、たった一人で戦うなんて悲し過ぎるから。だったら拒まれたって許してあげたい。たった一人で泣くよりずっと良いから。多分この人も…。
「だから羽鉦さんも役立たずなんかじゃないです。自分の事大好きで、自分の為に
一生懸命何かしようって思ってくれる人、役立たずなんて思ったりしません。
絶対に…絶対にです。」
「…………。」
「…それじゃダメですか…?」
「ああ、もう!…送って行くから自分の部屋戻れ。今直ぐ。」
「羽鉦さん!あの…!」
「それ反則だって言っただろ…。それ以上ベッド居たら本気で喰っちまうぞ。」
背中向けちゃったから顔は見えなかったけど…耳は真っ赤だった。
BeastSyndrome -17.気付いたら、負けですよ?-
負けですよ?( ̄ー ̄)†
※次ページはネタバレ用の為今は見ない事をオススメします。
『奏騎士嫌い!』と言う方は敢えて見て下さい。
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