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あれから【MEM】研究所は霊薬の開発全面中止と、その破棄を公表した。【Yggdrasil】の元完成された治療薬は、瞬く間にBSを消して行った。勿論直ぐにはこの事態は収束しないだろう。霊薬を使う人も、治療薬を待つ人も大勢居る。調べていて判った事だが、治療薬は霊薬に対して免疫を作り、霊薬を再び使う事は出...
BeastSyndrome -最終話.君と歩く未来-
安酉鵺
真っ暗な闇の中に居た。何も見えない、何も聴こえない、手を伸ばしても感覚が無い、落ちている様な、浮いている様な、何も感じない場所。
『…スズミ…?』
返事は無かった。此処は何処だ…?自分の声すらも飲み込まれた。声になっているのかすら、もう判らなかった。
『騎士…。』
『スズミ?!』
『…ごめんね…騎士...BeastSyndrome -109.伝えたい言葉-
安酉鵺
世界中の音が消えてる…自分の声すら凄く遠くから響いてる…私は歌ってるの?それとも…もう声は擦れて聴こえないの?喉が焼ける様に痛い…口の中に何度も鉄の味が満ちては吐き出して、だけどまだ歌える…。
「…早く!こっちです!」
「彼女の歌で皆正気に戻ったんです、だけど歌がまだ…!」
「もう6時間以上ずっと…...BeastSyndrome -108.愛しい声-
安酉鵺
目の前が赤く見える。多分流れた血が目に入ったんだろう。全身の感覚がぼやけて何も判らなくなって来る。
「相楽博士!大変です!外に凄い数のBSが…!」
「うるさい!あんた達で何とかして頂戴!」
「な…何をしてるんですか?!そんな物で殴ったら…!彼は大事な献体ですよ!!」
「うるさい!うるさい!こんな奴殺...BeastSyndrome -107.林檎のお礼と小さな約束-
安酉鵺
目の前の人を全て傷付けていた事があった。悲しくて、苦しくて、衝動と欲望のままに、ただ血を求めていた。だけどある時ふと気が付いた。愛する人を失った事に甘えていた事、何時の間にか俺自身が悲しみを生み出していた事、瑠璃を撃った奴等と同じだと言う事。
「全ては奇跡の名の下に…。」
「全ては奇跡の名の下に…。...BeastSyndrome -106.貴女を愛したい-
安酉鵺
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…はぁっ…!」
「お嬢ちゃん大丈夫か!」
「へーきへーき!コンサートに比べたらぜーんぜん!」
嘘を吐いた。喉はカラカラに乾いて、腕はガクガクしてもう感覚が遠くなって、足も今にも膝からカクンって折れちゃいそうだった。でも動かなきゃ…こんな奴等が施設に入ったらネムリがまた怪我しち...BeastSyndrome -105.心配させないで-
安酉鵺
全速で飛び続けてどの位経っただろうか、ようやく施設に辿り着いた。
――――Pipipipipipipi…Pipipipipipipi…
「どうした?」
「第7班、現地到着しました。突入しますか?」
「いや、一度合流する。場所は?」
「施設の南東です。」
「おいっ…!何だお前!!」
「?!どうした?!...BeastSyndrome -104.待ってる-
安酉鵺
リヌちゃんが歌い始めてからもう2時間近く経っていた。休む事無くずっとずっと歌い続けて、止めても聞こえているのかすら判らなかった。ただ一心に、祈る様に、高い声が施設に響き渡っていた。
「救護班!急げ!」
「危ないから外に出ないで!」
ノアくんは画面の前で動画が差し止められない様にピアノを弾くかの如くキ...BeastSyndrome -103.恐怖なんて無視!-
安酉鵺
背中に歌声が聞こえている。扉も、壁も、窓も、木も、空気すら震わせて、響く。
「全ては奇跡の名の下に。」
「全ては奇跡の名の下に。」
「全ては奇跡の名の下に。」
「全ては奇跡の名の下に。」
「全ては奇跡の名の下に。」
声など聞こえない、恐怖など感じない、迷いなど断ち切った。
「全員配置完了しました。」...BeastSyndrome -102.結界とマリオネット-
安酉鵺
啓輔さんを始めとする【TABOO】の部隊が離れたのを見計らったかの様に、【MEM】と思われるBSがこの施設付近で発見された。連絡があってから数分、捕獲班が忙しなく動いている。
「菖蒲さん、ですね。私は捕獲班班長の安曇野です。羽鉦様より貴方の指示を仰ぐ
様にと通達が降りています。」
「判りました。」...BeastSyndrome -101.我が身盾とならん-
安酉鵺
「場所が判った?!本当か!!」
「何処?!2人は無事なの?!」
「ああ、判った。直ぐそちらに向かう、それ迄何とか持ち堪えてくれ、ああ…。」
詩羽さんは電話を切ると直ぐに来たメールで地図を確認していた。
「2人の居場所が判ったの?!」
「ああ…此処からなら遠くない筈だ。」
「だったら直ぐに…!」
「い...BeastSyndrome -100.兄弟ですねぇ-
安酉鵺
「カウントが凄い勢いで跳ね上がっています。各所にでスレッドも立ち上がってる。」
「良し!終了!見付けたよ!」
「場所は?!」
「えっと、郊外のこの場所、地図だとただの更地表記だね。」
「………。」
ここに2人が居る…騎士が…スズミが居る…。だけど…だけど…!
「行って下さい、啓輔さん。雨音博士と一緒...BeastSyndrome -99.ただいまと行ってらっしゃい-
安酉鵺
歌が、声が、音が、波紋の様に広がる。目の前に居るのは頼りなくて小さな彼女で、だけどその声は、高く高く、澄んで澄んで、真っ直ぐに空に伸びる様な…。
「震源から共鳴反応!これ…位置割り出せるかも!」
「行けるか?!頼む!」
「うん、動画のカウンター凄い勢いで上がってる…だけど…このままじゃ歌しか…。」
...BeastSyndrome -98.力を貸して-
安酉鵺
どれ位歌っているのか、もう判らない。喉がカラカラで声も擦れてる。外がどうなってるのかも判らない…。
「…ゲホッ…!かはっ…ゲホッ…!」
咳き込むと同時に口いっぱいに鉄の味が広がって吐き気が込み上げた。
「騎士…。」
無駄な足掻きかも知れない…だけど…だけど届くかも知れない…!
「…騎士…!」
―――...BeastSyndrome -97.一緒に歌える-
安酉鵺
緊張が消えた訳じゃない。だけどもう震えは止まっていた。自分の単純さに感謝するべきかも知れないなぁ…。
「準備出来たらカメラ回すから、最初はそのまま歌って、歌の後に呼び掛け、
で良いかな?リヌちゃん。」
「はい。」
「じゃあ…。」
「…っ!」
曲が流れる寸前だった。微かに、本当に微かに耳に届いた。
...BeastSyndrome -96.共鳴-
安酉鵺
コンサートの時よりも数百倍緊張してる気がした。握り締めた手はカタカタ震えたまま物を掴む事さえ適わない。小さなカメラを見ただけなのに不安が喉まで込み上げて気持ち悪い。私の呼びかけが届かなかったら皆助からないかも知れない。こんなんで私ちゃんと出来るの?頭が真っ白で何も浮かんで来ないよ!
「リヌさん。」
...BeastSyndrome -95.録画しました-
安酉鵺
小鳥の山に集られていた桐子は羽毛だらけでヒステリックに喚いていた。
「一体何なのよ?!この鳥…ああ、もう汚らしい!直ぐに追い払わせなさい!外の奴等
は何やってるの?!」
「そ、それが…!BSの奴等もおかしいんです!命令を聞かない奴も出て来て…!」
「どう言う事…?原因を直ぐに調べなさい!」
鳥…?...BeastSyndrome -94.逆上-
安酉鵺
「私も戦う。」
私のその言葉に翡翠さんは驚かなかった。多分少しは何か考えていたんだろう。だけど表情は決して晴れては居ない。
「私にも出来る事があるんでしょう?」
少し惑って、それからキーを叩いて画面を表示させた。動画サイトらしき映像が映っている。
「これ…動画サイト?」
「はい。此処を含め幾つかの動...BeastSyndrome -93.カラスと歌姫-
安酉鵺
どれ位の間眠っていたんだろうか、目を開けるとさっきとは違う部屋に居た。手足は鎖では無く医療用の抑制帯で括られていた。身体を起こし辺りを見るがスズミの姿は無い。と、背後のドアが開き桐子が現れた。
「自分の身体より彼女を優先するなんて。連絡が無ければ死んでいたのよ?
感謝して欲しい位だわ。」
「…スズ...BeastSyndrome -92.凶行と嘴-
安酉鵺
此処に連れて来られてからどの位経ったんだろう?今が何時なのかも判らない…。
「騎士…!」
騎士が外してくれた鎖は無情にも再び私の手足を縛り付けていた。あの人は私も騎士も道具としてしか思ってない…連れて行かれた騎士がどうなったのか確かめる事も出来ない、あんな状態でもし強い発作が起きたら騎士の身体が持た...BeastSyndrome -91.籠の鳥-
安酉鵺
羽鉦さん達が出て行ってから、部屋が急に広くなった。静かな分色々余計な心配ばかりが頭を占領してしまう。ユウ先輩…奏先生…連れ去られたとか有り得ないよ…完全誘拐じゃん、犯罪だよ、もう事件だよ、先輩が誘拐なんて一大事じゃない!先生だって血清無いと死んじゃうとか危険過ぎるじゃない!何なの?これ…怖い…怖過ぎ...
BeastSyndrome -90.奇跡の在り処-
安酉鵺
「こちらです。皆様は左手の部屋でお待ち下さい。」
「羽鉦さん…。」
「大丈夫。」
心配そうな香玖夜を詩羽に任せ、何年振りかに戻った家を進む。静けさの中に遠くで人のざわつく声がする。久し振りに踏みしめる廊下は、ただ冷たくて冷たくて、だけどどこか懐かしい。重々しい扉を開くと、仰々しい部屋に並んだ重役達、...BeastSyndrome -89.切り捨てる覚悟、背負う覚悟-
安酉鵺
車の中は気まずい空気で一杯だった。
「何で俺が…。」
「全員行く訳には行かないだろ。」
「いや、俺も留守番…。」
「未来の妹の実家になるかも知れないし。」
「あぁ?!」
「やーだー!もーう!詩羽さん気が早いー!!」
この状況下で喜ぶ木徒は心底大物だと思った…。木徒…兄ちゃんは11歳も年上のひねた弟な...BeastSyndrome -88.え?…家?!-
安酉鵺
啓輔からの連絡を受けた羽鉦が騎士に連絡を取った時には既に2人は【MEM】に連れて行かれた後だった。困惑と失意が重く立ち込めて、誰も口を開こうとしなかった。手持ち無沙汰になり、手近にあった雑誌を手に取る。
『【MEM】研究所、新型霊薬の開発に成功』
『新所長に開発者の一人である相楽貴彦氏が就任』
『違...BeastSyndrome -87.その目が見詰める物-
安酉鵺
いつの間にか眠ってしまったのだろうか、目を覚ますと薄暗い部屋の簡素なベッドに寝ていた。少し霞む頭を整えながらゆっくりと身体を起こす。
「スズミ…?」
「騎士?騎…っ?!きゃあっ?!」
無機質な金属音と共に足に痛みが走った。いきなり足元を取られその場に転んでしまう。視線を恐る恐る足に移して思わず目を疑...BeastSyndrome -86.鎖-
安酉鵺
外が暗くなり風雨が強まって来た。窓を打つ水滴は容赦無く音を立て、水溜りを作った。
「何か…天気悪いね。」
「ええ、雷が鳴らないと良いですが…。」
立ち上がった瞬間、フラッシュの様に空が光り、直後に大きな音を立てた。
「ひゃっ?!」
「うっわ、PC落として良い?ちょっと危ないし…。」
雷が思いの外近か...BeastSyndrome -85.反逆者は笑う-
安酉鵺
急に空が翳り始めたと思うとパラパラ音を立てて雨が降り出した。
「あら、雨ですか?奏先生。」
「その様ですね。」
「ユウならもう少しですからね~先生。」
「すみません、過保護で…。」
「いいえぇ~先生が居るとユウも気合入るみたいだし良いんですよぉ。」
マネージャーは背中をバシバシ叩くと含み笑いで戻って...BeastSyndrome -84.壊す者-
安酉鵺
大きな家が立ち並ぶ住宅街の中で、一際大きな門が見えた。その前に数人の人影と、倒れている例の悪趣味な黒BSが見える。
「お前達…!無事か?!」
「…っ!雨音博士!」
「おい律…どう言う事だ?騎士の実家ならここにいるのは剣一おじさん…【MEM】
の創設者である奏所長だろうが。その所長が何故こいつ等に襲...BeastSyndrome -83.絆を紡ぐ者-
安酉鵺
リハビリも兼ねて少し重い身体で歩く、流石に体力を消耗しているのか直ぐにフラ付いてしまうのが情けない。
「…っと。」
「啓輔?!大丈夫?!」
「躓いただけだよ、重病人扱いすんな。」
「ん…でも少し休もう?ね?」
日を避ける為に近くにあった小さな公園の木陰に座り込む。憐梨が少し涙目で心配そうに顔を覗き込...BeastSyndrome -82.太陽光-
安酉鵺
晴れていたと思った空が暗く翳り始めた。ぽつり、ぽつりと地面が鳴り、にわかに雨が降り始めた。
「な、何をしてるんですか!啓輔さん!」
「着替えてんだよ、見れば判るだろ。」
「幾ら貴方がBSでも肋骨が折れてるんですよ?!出歩くなんて無茶です!まだ
寝てないと…!」
「これ以上世話になる訳には行かない。...BeastSyndrome -81.啓輔-
安酉鵺