もう梅雨のじめじめした時期は終わった。
雨もあまり降らなくなり、ただ太陽がすごくまぶしくて、
全身が汗で濡れるほど暑くなった。
それにしても、もう『夏』か…。
僕にはあまりいい思い出はない。
もちろん嫌いっていうわけじゃないけど…ね。
『夏休み』『海』『かき氷』『その他…』
とにかく楽しみなイベントが多い季節。
なんだけど、なんだけど…!
「また始まるのね。アイス争奪戦」
「そうなんだよぉ~…」
めーちゃんがはぁっとため息をつきながら呟く。
僕も同様にため息をついた。
この『夏』に始まる『アイス争奪戦』!
春・秋・冬はあまりアイスを食べる人はいないんだけど、
やっぱり暑い『夏』にはアイスを食べようという人が急上昇する。
…特にリンとレンあたりが。
「ミク姉!アイスある?アイスある?」
「あるよ~。あ、でもカイト兄のダッツしかないや」
「いいよ!それちょうだい!」
「もう…カイト兄に怒られても知らないよー?」
「いいのいいの!カイト兄怒っても怖くないもん!」
「リン!リビングで食おうぜ!」
「うん!」
…こうやって『夏』は僕のアイスが減少していく。
ミクやルカはちゃんと僕に許可をとったり、
自分で買ってきたりするんだけど…。
リンとレンだけはそんなことはしない。
むしろ僕のダッツを取るのを楽しんでいる。
「んー!おいしい!」
「だなー♪」
いつもいつも怒ろうと2人の元に行く。
だけど目の前にしていつも怒るのを止めてしまう。
…だって2人ともすっごく嬉しそうに食べてるんだもんなぁ。
怒る気がすごくうせてしまう。
めーちゃんは最近になって諦めなさいという。
そういうめーちゃんも僕のアイス食べるんだもんね…。
だけど今年は負けない!
今日から僕のアイスは僕の手で守ってみせる!!
次の日。
――ピンポーン
「宅配ですー」
「あ、はーい」
ルカが宅配を取りに玄関を出る。
多分あれだなぁ。と僕は楽しみに笑みを浮かべた。
玄関のドアが閉まる音がした。
そしてルカが戻って来た。
中ぐらいの段ボールを抱え、重そうにしている。
「カイトさん宛ての届け物みたいなんだけど…」
「うん。ありがとうルカ」
僕はルカから段ボールを受け取り、自分の部屋へと入った。
そしてふぅっと息を吐き、肩の力を抜いて段ボールを開けた。
中には頼んでいた小さめの冷蔵庫。
自分の部屋ならリンもレンもたまにしか来ない!
というわけで、アイスはきっと食べられない!
と僕は考えた。
「早速下のアイス移そう~」
数分後。
「カイトー買い物ついてきてー」
「は~い」
めーちゃんの買い物について行った僕は知らなかった。
この後、最悪な事態がおきるなんて…。
「「ただいまー」」
帰ってくると、出迎えてくれたのはミクだった。
いつも通りの優しい笑顔で僕らを見る。
「おかえりっ!今日の晩御飯なぁに?」
「今日はミクの好きなお鍋よ」
「本当っ!?ネギまるごといれてくれる?」
「いれるから生では食べちゃだめだよ?」
「うん!わかった~」
僕はミクの頭をなでて、自分の部屋へと向かった。
とりあえずお鍋の前に1つアイスを食べようと思ったからだった。
うきうきしながら部屋のドアを開ける。
そしてベットの影に隠した冷蔵庫の元へ急ぐ。僕だけのアイス~
ガチャ。
「……」
硬直した。
アイスの中身はからっぽだった。
いや…アイスの中身がないとかいう問題じゃない。
「ゴミはゴミ箱に捨てなさい!!!」
冷蔵庫の中に残っていたアイスの空をかき集め、ゴミ箱へといれた。
…って、あれ?
「そうじゃない!!!」
なんでアイスが空っぽ!?
あれ、本当何で!?買い物に行く前はあんなにあったのに!!!
思い当たるのは…リンとレン!
僕はすぐさまリンとレンのいるリビングへと走った。
そしてドアをばんっと激しく開ける。
「リン!!レン!!」
「「なぁにー?」」
「僕のアイス食べたでしょ!?」
「食べてないー…って、え!?」
「アイス買ってあるの!?どこどこ!?」
あ、…あれ?想像してたのと違うや。
絶対リンとレンが食べてると…。
どうしようどうしようどうしよう!
めーちゃんは僕と出かけてたからあり得なくて…。
もしかして意外なところでミクとルカ?…かな?
「ねぇカイト兄ー?」
「アイスどこだよー」
「ご、ごめん!僕行くね!」
僕はリンとレンの言葉には返事せず、リビングを出た。
あぁ…アイスアイスアイスアイスー!!
僕のアイスは一体どこにいったの!?
「え!?あ、もぅー」
「なぁなぁリン!カイト兄の部屋、探索しようぜ!
カイト兄のことだから自分の部屋に置いてるって!」
「あ、それいいね♪レンさっすがぁ!」
「へへっ」
台所。
台所につくと早速ミクを発見。
蔵庫をあさっている不思議な光景が見えた。
「み、ミク!」
「え、あ!カイト兄!」
「…今後ろに何隠したの?」
「な、なんでもないよ~」
「……」
ミクは僕に気付いた途端、何かを背中に隠した。
そして苦笑い。
早すぎて見えなかったけど、きっと僕のアイス!!!
「ミク!怒らないから見せて」
「…ほ、本当?怒らない?」
「うん!」
「……」
ミクはそっと隠していたものを僕に見せた。
目に映ったのは、生ネギ。=アイスじゃない。
「ご、ごめんね!生で食べないって約束したのに!」
「あ、いや…ううん。いいんだよ」
「メイコ姉には言わないでくれる…?」
「うん…大丈夫だよ。言わない言わない」
「本当?ありがとう!」
僕はアイスではなくネギだったのに意外と衝撃をくらっていた。
ふらふらとしながら台所を出た。
…次は、ルカかな?
ルカの部屋。
「ルカー…」
「え、あっ!?カイトさん!?」
部屋のドアを開けると、中には…
ノリノリで踊っているルカがいた。
僕はあえて気に掛けず、ルカに話しかけた。
「ねぇルカ。僕のアイス知らない?」
「~~~~~~っ!知らない!!出てって!!!!」
僕は追い出された。
ドアはバタンッと激しくしまった。
…もう。ダンスの練習してる中入ったのは悪かったけど、
これはないよなぁ…。頭打ったや…。
(~~~っ!!恥ずかしい恥ずかしい!!
なんでノックしないのよバカイトぉぉおぉぉ!!!!!!!!)
カイトの部屋。
「レンーアイスあったー?」
「ないっ!」
「そこ威張らないでよ!もうーカイト兄隠すのは上手だねー」
「だなー…と!飽きたしテレビでも見に行こうぜー」
「だねー」
晩御飯。
「あぁー…アイス…僕のアイス…」
僕は晩御飯が始まったというのにずっとアイスを気に掛けていた。
一体僕のアイスを食べたのは誰…誰なんですか…。
「カイト、どうしたのよ」
「カイト兄、アイス探してるの?」
めーちゃんはお酒。
ミクはネギをかじりながら僕に優しく声をかけてくれた。
きっとこの2人ではないだろうなぁ…。
「そうなんだよぉ…さっき冷蔵庫を開けたら全部空になってて…」
「なんだ。だから探してたのか」
「なんだー。カイト兄が持ってる訳じゃなかったんだねー」
「それじゃあ犯人はこの中ってことかしら」
ルカがミステリー小説チックに話す。
もう…こっちは真面目だっていうのに…。
するとリンとレンが楽しそうに笑みを浮かべる。
だからこっちは真面目なの!!
「わぁ!ミステリーだミステリー♪」
「俺探偵するー!」
「レントンだレントン♪」
「じゃあリンはリントンだな!」
「だねー」
「もう!リンもレンも真面目に探してあげなよぉ!」
「そういうミク姉があやしいですな。レントン」
「そうですなぁリントン」
「私食べてないよぉ!!」
いつも通りきゃははっと笑いあうリンとレン。
ミクはめーちゃんに頭をなでられて慰められている。
…この中に犯人がいるんだ。
一体誰かは想像ができない。だけど確実にこの中にいるんだ…!
(と勝手に一人で盛り上がるカイト)
「カイトさん。推理してみたらどうかしら?」
「え?」
「この中に犯人がいるのなら、
犯人じゃないカイトさんが探偵をするのがいいと思うの」
「あ、うん。そうだね」
ルカの提案に乗り、
僕はとりあえず冷蔵庫購入後から思い出すことにした。
みんなも一緒に考えてくれている。
「最初に私がカイトさん宛ての宅配を受け取って…」
「そうか!ルカが犯人か!」
「えぇっ!?私!?」
「ルカはあの段ボールの中が何だったのか気になり、
僕が出かけている間に部屋に侵入。「そんな悪趣味なことしないわよ!」
そして冷蔵庫の中身がアイスだったことをしりこっそりと…!」
「食べてないわよ!!」
僕の名推理の一幕は早くも閉じた。
ルカが違うとなると、誰?
「あの後あたしとカイトは買い物に行って…」
「やっぱりリンとレンだよ!」
「「えぇっ!?」」
「食べてないとかいいながら裏ではこっそりと…!」
「食べてない!!」
「それじゃあ出迎えてくれたミク?」
「えぇ!?だからしてないよぉ!」
「それじゃああえてめーちゃん!」
「なんでそうなるのよ!」
結局結論はでなかった。
…あぁ、僕のアイスは今一体誰の胃の中に…。
「そういえばカイト。
買い物行く前にやたら部屋でごそごそしてたけどあれ、何だったの?」
「…え?」
めーちゃんの言葉でよみがえる。
買い物に行く数分前の僕。
買い物に行く数分前。カイトの部屋。
「めーちゃんの買い物について行く前に腹ごしらえしなきゃねっ♪
最近めーちゃん太っ腹だし、
アイス買ってくれるだろうから冷蔵庫空にしておこう~。
というわけで全部食べちゃえ~」
脳内で「食べちゃえ~」がエコーされる。
あぁ、そうでした。
あのアイスは今僕の胃の中です。
「「「かーいーとーにーいー?」」」(ルカだけカイトさん)
「ひっ!」
思い出している間に何かを察知されたようで、
僕の背後にはすでにミク・ルカ・リン・レンがいた。
そしてその4人の後ろで先ほど飲んでいたお酒のビンを持つめーちゃん。
「め、めーちゃっ…ご、ごめ…」
「謝るのならみんなに謝りなさい。ところで覚悟はいいかしら?カイト」
「ご、ごめんなさーーいっ!!!!」
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