語り部の人柱アリス


ようこそいらっしゃいました。この度お聞かせするのは小さな夢の願いから始まった物語です。

或る所に小さな夢があったそうです。誰が見たのか、どんな夢なのかも分からないほんの小さな夢だったそうです。 小さな夢はいつしか願うようになったそうです。
「このまま消えてしまうのは嫌だ。誰かに自分を見てほしい」と。
 小さな夢は考えに考えてその方法を見つけ出したそうです。
「人間を自分の中に迷い込ませて世界を作らせればいい」と。

一番目、レッドスペード・アリスは、それはそれは勇ましい女性だったそうです。
剣を振りかざし、様ざまなものを切り捨てて、真赤な道を敷いて行ったそうです。
その内にアリスは森の奥深くへと迷い込んでしまい、
茨によってまるで罪人のように閉じ込められてしまったそうです。
そして、そんな彼女の生きていた証は真赤に染まった道の他には何一つ存在しないそうです。

二番目、ブルーダイヤ・アリスはとても大人しい青年だったそうです。
歌を紡ぎ出し、狂った世界を生み出し、その世界を狂わせ続けたそうです。
そんな風に過ごす内に、いつしかアリス自身も狂っていきました。そしてある日、アリスは自分自身の心臓を自ら打ち抜いてしまったそうです。
その傷はまるで、赤い花のようだったそうです。
そんな彼の亡骸は皆に愛でられながら朽ちていったそうです。

三番目、グリーンクローバー・アリスは幼い少女だったそうです。
その姿は美しく、いろいろな人を魅了して、おかしな国を作り上げたそうです。
アリスが作り上げた国ですから、当然アリスは女王となったそうです。
いつしか、アリスは歪な夢に取り付かれてしまったそうです。そして、
彼女は年老いていく自分自身の姿に怯えながら、国の頂点に君臨し続けたそうです。

四番目、イエローハート・アリスは気の強い姉と、賢い弟の双子だったそうです。
何度も何度も扉を使っては夢の世界に出入りしていたそうです。
真赤な道を辿ったり、薔薇の木の下ではお茶会を、女王様からは、ハートのトランプを受け取り、お城にも遊びに行くようになったそうです。
その内に、アリスはいろいろな人に知られる存在になりました。そんなアリスは、今までの誰よりもアリスに近かったのですが、いつの間にやらこの世界が夢であるということを忘れてしまったそうです。
そして、アリスがもといた世界こそが夢だと思い込んでしまったそうです。
そして、二人は夢の中に取り込まれてしまい、現実世界にある人の体は、もう2度と目を覚ますことなど無かったそうです。
ちなみに、2人の体は、その時の姿のままで今でも二人仲良く眠っているそうです。


いかがでしたか?私のお聞かせした物語は。今日のところはここでお開きにしましょう。帰り道にはどうぞお気をつけて。よければまた、私の物語を聞きにいらして下さい。それではさようなら。

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  • 非営利目的に限ります

語り部の人柱アリス

誰かが語るような口調にした「人柱アリス」です。

閲覧数:816

投稿日:2009/04/26 22:21:28

文字数:1,208文字

カテゴリ:小説

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