隣にいるのは人間?
「レンー、アップルパイほしいー。」
「い、嫌です。面倒くさい。」
僕がそう言うとぴょこりと揺れる金色頭。
「えーっ!面倒くさい~!!買ってきてよ~、ねぇ、お願い!」
「いつから、そんな喋り方をするようになったんです?」
「はは、面白いじゃろ?昨日町で見かけた小娘が父親にお菓子をねだっていてな。その時の口調がこんなんだったのじゃ。」
「あなたって人は・・・。」
穏やかな空気が部屋に充満する。ぽかぽか、ほこほこ、春だ。春になるとどうして人間というものはこうもほっこりするのだろうか。いや、今目の前にいるこの女は人間ではないが。
その時、玄関にある呼び鈴がちんけな音を立てた。リンは相変わらずこの音が面白くて仕方ないらしく毎度毎度腹を抱えて笑う。なんでも、このちんけな音とは裏腹にガタイのいい男が出てきたり、ちんけな呼び鈴とドアが出迎えるにはお似合いな勧誘がそこに突っ立っていたりするのが面白いのだという。こいつどんだけ人を馬鹿にしてるんだ。面倒くさいなぁ、と思いながらドアに近づいていく。
僕は胸の中にある妙な不快感と共に扉を開いた。
そこには、ルカとなぜか警察がいた。僕は何かやったんだろうか、淫らなことをした記憶はないし盗みも殺人も暴力もした憶えはない。だとすると、リンの方しかいない。まさか、リンがそんなことする訳ないじゃないか。
「そう!その奥の金髪の女よ!あいつよ!!あいつが私を殺そうとしたの!あいつが連続殺人犯よ!」
何を言っているんだこの女は。リンがそんなことするはずないじゃないか。ほら、警察もそいつ連れてけよ。そんな気違いの顔なんて見たくもないんだ。
「奥にいるのが、リンさんで間違いないですね?私ウィッチアルヤ州の警察署のニコル、といいます。今日はそちらのリンさんを殺人の容疑で逮捕しにきました!」
ニコ、と笑ってこのニコルという男はとんでもないことを言った。はは、ひどいドッキリだ。ほら早くドッキリ成功だって言ってくれ。成功だろ?だって僕は今こんなに驚いてるのだから。あぁ、今僕はどんな顔をしているのだろうか。きっと間抜けな顔に違いない。あぁ、鏡はどこだ。大笑いしたい。自分の顔を見て大笑いしたい、気違いのように。まぁ、まずはリンを笑わせてみよう。なんてことを思いながら僕は後ろを振り向いた。
「リン・・・嘘だよね?」
「いえ、嘘ではありません。私の後ろにいる彼女はそれを物語ってくれています。彼女が確かに顔を見たと言うのです!」
黙れ、お前はリンじゃないだろう。ニコニコしながら言うな!
「まさか・・・あなたがそんなことをするなんて、ほんと予想できなかった。」
ルカは眉を寄せ、目を伏せながらそう言った。ルカのその顔は本当に何があったかを物語っていた。
後ろのリンもきっと今俺と同じ様な顔をしているだろうね。
「えーっと、ファミリーネームは?」
「・・・知らん。レン、私はそんなことやってない!!!本当だ!信じてくれ!!レン!」
「嘘よ!じゃあなぜ、あの場にいたの!?私に斧を振り降ろしたのは確かにお前だったわ!リン!」
「と、ファミリーネームが分からないっていうとなんかますます怪しいなぁ。リンってのも偽名だったりする?」
「レン!お願いだ信じてくれ!嘘じゃない!お前は自分の目で見た筈だ!私がお前の隣でグースカ寝ているのを!」
なんてことだ。まさかあれは本当に幻覚だったのか。僕の横で安らかな寝息をたてていたお前は幻覚だったのか。何度その寝顔を愛しく、忌わしいと思ったことか。
「お前は魔女だ!!そんなの忌わしい魔術でどうとでもできる!あぁ、忌わしい!この魔女め!」
目の前でヒステリックに叫ぶ女。かったるそうな警官。自分でも状況が把握できない。魔女に対する苛立ちや憎しみだけが募っていく。
「うーん、とりあえず・・・リン3月31日午後5時23分殺人容疑で逮捕。処刑の前に牢屋でゆっくりする時間があるからそこで色々聞かせてもらうねリンちゃん。」
「最後にレンさん、この子を連れて行ってもいいですか?」
「・・・私に拒否権はありませんし、寧ろ連れて行ってほしい位です。そんな魔女。」
「レン、違うわたしは、そ、んなことしてないんだ。信じて、くれ。お願いだ。」
魔女は顔に絶望を宿した。お前にそんな顔をする資格はあるというのか。
どれだけの人が、嘆き悲しんだと思っているんだ。中には僕の初恋の相手もいた。あぁ、もったいない。綺麗な顔をぐしゃぐしゃにされてしまって可哀相に。
「・・・出てけ。ここから出て行け!!」
「れ、レン。違う、違う私はやっていない。身に覚えがない、本当だ!レン!」
「うるさい黙れ!!この魔女め!!お前なんて火あぶりにされればいいんだ!死んでしまえ!」
「あー、そういうことなので、行きましょうか?リンちゃん。」
独特な金属音を立てて、魔女の手に手錠が嵌った。
泣き叫びながら、魔女は警官に引きずられながらこの家を出て行った。
「・・・レン。」
「ごめん、ルカ。ちょっとでいいから1人にさせてくれるかな?」
「えっ、えぇ。いいわよ。そうよね、ずっと信じていた相手に裏切られたんですもの。辛い筈だわ。じゃ、じゃあね、レン。」
あぁ、お前は魔女だった。
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