私、巡音ルカはこのV社で働いて2年になる。
「これそっちやって。あ、あとこれもなそんでこれも・・・」
この人は神威がくぽ。仕事の上司でもあり・・・
「ルカ」
上司でもあり、
「え、あ、何?」
「今日、お前ン家寄るかもしんねぇ」
「うん。分かった」
私の彼氏。
がくぽは私の耳元で囁くと、早々と仕事に戻って行った。
「先ぱぁい」
高くて、甘い声が社内に響く。
「な、何だよお前ら・・・」
今年入ったばかりの新入社員の女の子達3人が、がくぽを囲んでいた。
「今日、お昼一緒していいですかぁ?この子、ずぅっと先輩の事カッコイイカッコイイって言っててぇ・・・」
「お、お願いします・・・」
一人の女の子が顔を赤くして言うと、がくぽはばつの悪そうな顔をしていいよ、と言った。
「やったじゃん!」
「う・・・うん」
別に、その子達とお昼一緒にしろ、なんて言わない。
でも・・・
（私にあんなに冷たくしといて・・・）
釣った魚に餌やらないって、こういう事だ・・・
私達は高校のときから付き合ってる。
最初はがくぽも必死に私にアタックしてきたけど、付き合い始めたとたん冷たくなった。
今、社会人になって私はがくぽの一つ下。
この歳が『一つ下』ってのががくぽが私に冷たくする理由の一つかもしれない。
例えば、さっきの女の子達ががくぽの三つ下だとする。
そのくらい下だと、がくぽも面倒見なきゃならないし、冷たくできない。
歳が同じなら親しげにするだろうし、年上の人だったら冷たくするどころから機嫌をとらなくちゃならない。
でも、『一つ下』だと仕事も覚えてくるだろうし、機嫌をとる必要も無い。
だから・・・
（がくぽは私に冷たいんだ）
まぁ、私の方にも問題はあると思うけど・・・
「ちょっとちょっと、何よアレ!!」
「いくらなんでもアレはないだろ!ルカの事、なんだと思ってんだ!?あいつ!」
「めーこ・・・カイト・・・・」
この二人は私の友達でありがくぽの友達のメイコとカイト。
二人も恋人同士で、私たちより長く付き合っている。
「簡単にOKすんなっつうの!」
「だよな!」
「仕方ないよ・・・付き合いだし」
『付き合い』と、割り切れない自分も心のどこかに居るけど。
「あの新入社員もどうなの!?ルカとがくぽが付き合ってること、知ってんでしょ?うち、社内恋愛禁止じゃないし・・・」
「ん・・・」
いつも、メイコとカイトは私の味方をしてくれる。
ちなみに二人はがくぽと同じ歳。
私は正直、会社でもがくぽと普通に話せる二人が羨ましくてたまらない・・・
「ルカももっとガンガンいったらいいのに。がくぽは私の彼氏よ!って、はっきり言ったほうがいいよ～?」
呆れたような口調でメイコが言った。
「でも・・・」
「そういうところがいけないんだお前は!す～ぐ『でも・・・』『付き合いだし・・・』『仕方ない・・・』で片付けて!いっぺんあいつに痛い目合わせたほうがいんでねーの?」
「・・・・」
痛い目・・・
「がくぽにそんな事できないよ・・・」
『何で!』
二人が同時に言う。
「可哀想だし・・・」
「お前はすでに可哀想な目にあってんじゃん」
カイトの言葉が胸を貫く。
「好きだから・・・好きだから、困らせたくないの・・・・」
自分でも、顔が赤くなっていることに気づき、手に持っていたファイルで顔を隠した。
「尽くすね～あんたも・・・」
「聞いてるこっちが恥ずかしいな」
「・・・」
二人は顔を見合わせた。
「・・・まぁ、お前にこんなに好かれてるがくぽは幸せ者だな」
「え?」
「ね～。今時こんなに尽くす女、そーそー居ないって」
「そう・・・かな」
私みたいな女から好かれてても、がくぽは嬉しいのかな・・・
幸せって思ってくれてたらいいな・・・
「そこ!話すな!」
「へーへー、すんませんね」
「ごーめーんーなーさーいーね」
「すみません・・・」
がくぽの事、また怒らせちゃった・・・
（仕事中だもん。仕方ない）
けど・・・
（欲を言うなら・・・・）
もう少し、
もう少しでいいから。
（優しくして欲しい）