『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:10


それから学校は夏休みに入り、閑散とした校舎には運動部の活気だけが姿を見せる日々が続いていた。それと同じくジャマイカ音楽研究会も目の前の目標・夏祭りの参加に向けて練習を重ねていた。先日の気まずい出来事に触れることも無く、久美は密かにほっとした心持ちで部活に勤しんでいた。
「ワタシ、留佳はてっきりそういうことは面白がって全力でいじり倒すと思っていたわ」
あの日の帰り道、そう芽衣子が言ったのを留佳は心外だと言わんばかりに抗議した。さすがにある程度の良識はあるらしい。その抗議通り、あれ以来留佳もそのことについては触れておらず、その代わりスキンシップは暑苦しさを増していた。櫂人はその光景を留佳なりの気遣いだと思うことにしている。
こうしていつも通りの光景を重ね、ついにジャマ研は夏祭りの本番当日を迎えた。

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「夕方になったから大分涼しくなったな」
「漣重い~、アタシのも持ってぇ~」
「あ、それなら私も~♪ 」
「ちょっ、凛っ、未来先輩も・・・」
無理矢理押し付けられた荷物の数々を抱え、漣は会場に着く前から疲れた顔を見せた。その光景に久美と拍は苦笑い、3年生達が何をしてるのかと先へと促す。岳歩に学校のワゴンを出してもらい、荷物だけを先に会場まで運んでもらうと、一同はそれの後を追う様に留佳の案内でバスで会場まで移動した。自分達が演奏する舞台までは屋台通りを通り抜けて境内まで進む。会場に着くまでの間、凛と未来がはしゃぎにはしゃいで、それに留佳が便乗して櫂人がそれを抑えて奥へと向かった。
「メイ、おまえも。後で終わったら回れるんだからそれまで我慢しろよ」
「へっ!? な、何言ってんの、そんな事解ってるに決まってんでしょ」
しどろもどろに答えた芽衣子の視線は明らかに周りの屋台に向けられている。そこそこの付き合いで芽衣子の人となりを理解している櫂人。さすがに面倒を自分1人で負わない様に手を打ったといったところだ。祭囃子やおじいちゃんおばあちゃんに連れてこられた小さな子供達の明るい声、メンバーは一様に心躍らずにはいられない。

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脱線しかけながらも一同は会場である境内の裏にある屋敷に着いた。そこは普段神社の関係者が寝食などに使う為の場所で、すでにそこには他の太鼓楽団や近所の有志によるパフォーマンスの人達の衣装や道具が所狭しと置かれている。ジャマ研が使う楽器も運ばれていた。
「おぅ、お前達。こっちだ」
先に着いていた岳歩は主催者側と何やら打ち合わせの最中で、主催者は「じゃぁ後はどうぞ宜しくお願いします」と言ってその場を去って行った。
「やっと来たか。大方石川と杜草辺りが道草でもくったんだろう」
抗議する二人を横目に3年を中心に準備を始める。男女分かれてまずは着替え、それが終わると全員でチューニングしてから軽く音を合わした。
「それにしても拍ぅ、大丈夫? 」
「・・・今この状況で言う言葉ぁ、それぇ」
未来は慣れているから何ともないだろうが、周りから見ればさすがに放っておけない程緊張しているのが丸解りだった。
「大丈夫だよ、拍。俺と同じくらいおまえは実力あるんだから、こんな小さな舞台でも十分堂々としてれば問題ないって」
「そ、そこまで櫂人先輩みたいに強く在れません~~~っ! 」
そう、今日一番の難題はこれである。拍は練習の時などは特に問題はないのだが、こういった舞台や発表の機会がある時に限って極度の緊張を見せた。ただでさえ普段人見知りが激しく弱気な性格をしているせいもあって、ジャマ研に入った当初も未来の後ろから出てくることがほとんどなかったくらいであったという。
「だぁーいじょーぶですよぉ~、拍せんぱぁーい」
「そうですよ、このおっぺけぺな凛ですらこんななんですから気にすることないですよって」
次の瞬間、横から伸びた手に思いっきし耳を引っ張られてもがく漣がいた。じゃれる双子を余所にいつも通り自信に満ち満ちた留佳が声をかけ、更に閉じこもりかけた拍を久美と芽衣子でどうにか戻し、一同は最終チェックに入った。

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「しかしお前達。その衣装よく間に合ったなぁ」
部員の面倒を見るのと、主催者側との調整以外する事がない岳歩が退屈そうに壁に寄りかかっていた。
「へっへー、そこは私を褒めて下さいよ先生」
「どうせまたろくでもないことで誰か脅したんだろう」
「心外ですよ、少ーーーし困ってるんだけどお願い出来ないかなぁと話を持って行っただけで」
―――それを脅かしたっていうんじゃ・・・
未来のそれにも大分慣れてきた一同ではあるが、さすがに心の中では突っ込まざるおえなかったらしい。
衣装は半袖タイプの白の法被。袖口は男は赤、女は青で模様と共にあしらわれ、表見頃の腰位置と右肩付近にも同じ色で描かれていた。下には全員黒の半スパッツと白足袋に茶色の鼻緒の草履で統一。それに合わせて髪型だけ各々結い上げていた。
「まぁしかしあれだな・・・」
じっと3年達を見つめる岳歩。その意を察したのか1・2年も全員3年達を見やった。
「何の違和感もなく似合うな」
さすがに感嘆の声をもらす岳歩の横では未来が持参したデジカメで3年を激写していた。
そうこうしている内に前のグループ達の出し物がどんどん終わっていき、出番は刻一刻と迫っていた。拍も宥められながら皆でもう一度それぞれの状態を確認すると袖に移動する。
『自治会のパパさんバレー「ド根性」さん達の殺陣バレーでしたー! 続いては―――』
下手にはけていく一団を見届けて、司会の合図で一同は表に組まれた舞台の上へと姿を踊らせた。

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小さな境内、ささやかな音響機材。アイコンタクトで軽く音を出しながら櫂人のOKで前を向く。全員で礼をして、櫂人が手でリズムを鳴らす。
―――1、2、3。
未来と留佳の力強い大太鼓の音色が辺りを響かせ、打ち合わせ通りにここから音を重ねていく。漣の勢いの好いトラペットでアドリブの出だし、滑り込む凛のトロンボーンに拍のベースと芽衣子のギターがついていく。全体のバランスを取る様に久美が奏でるショルダーシンセのリズムが遠慮がちに交じる。アップテンポでノリの良いアレンジに変えた曲調を後押しする様に櫂人のサックスが音を強くしていった。
曲は櫂人が未来にCDを頼んだJack Radics『No Matter』
歌詞も祭りに合う様に創作し、管楽器の双子以外が代わる代わる歌いながら全員でハーモニーに繋げていく。途中未来と留佳が前に出て太鼓のアドリブソロで拍手を誘う。舞台の下から小さな子供達が面白そうに手を叩いてはしゃいでいるのが見えた。それを見て自然と笑みが零れる、それを強みに更に曲は続いていく。ラストへいく盛り上がりのところで凛と漣が最前に出てステップを踏み踊りながら派手にその場を自分達の色で染め上げていった。最後の締めのフェードアウトもアレンジを変え、盛り上がりの勢いのままバンッと綺麗に一斉に音を止める。残る余韻が小さな境内に漂って、次の瞬間盛大な拍手で塗り替えられた。

to be continued...

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • オリジナルライセンス

『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:10

原案者:七指P 様
お預かりした設定を元に書かせて頂いております。
拙いながらではありますが、楽しんで頂けたなら幸いです

色んな意味でヤフオクの好いカモとなりつつある今日この頃
同時にボカロにのめり込む度合いが半端なく酷くなりつつあるwww
さておき
ささやかではあるけれど、双子を舞台ではしゃがせてやりたかったので( ̄ω ̄
何故お前らは管楽器なんだバカヤロウ
やっとこさメインに突入しましたよ、でも如何せん
・・・二つに分けました、次のsessionに少し続きます
というのも、多分載せたら入らない
上限を軽く越える自信があるし、もし読んで下さってる方々がいたら確実に見るの疲れるスクロール量だよ
なので分けた、後でちゃんと載せますよ

櫂人と久美は気まずいままどうなるんでしょうね~
全体的には今のところ雰囲気とか色々色々突っ込みどころは満載な気がしますが、取り敢えずはブレない方向で行こうと思います(突っ込まれない限り

閲覧数:114

投稿日:2012/08/19 01:34:27

文字数:3,005文字

カテゴリ:小説

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