ぐっ、という目の前にいる屈強な男の呻き声が聞こえる。おろおろしながら、私を見つめるカイトを横目に私は背後から飛びかかってきた男に回し蹴りを入れた。野次馬から歓声が沸く。完全にのびている男たちを尻目に、パンパンと手をはたきながら私は尻餅をついている緑髪の男性に手を差し出した。若葉の様な瞳を揺らしながら、彼は私に礼を言った。
「正式な場所で礼ができなくてすみません。またの機会に礼をさせて頂きたいので、お名前を教えていただけませんか」
人の好さそうな笑みを浮かべ、彼は手を差し伸べた。ああ、シェイクハンドか、と勝手に納得し彼と握手をした。
「名前はリン。リン=フィラルデよ。あと、礼なんていらないわ、私」
しまった、と気づいたときに遅かった。ファミリーネームを名乗ってしまっては、私が貴族であるということがばれてしまう。
「まさかあなたがかのフィラルデ家のお嬢様だったとは・・・。それならますますご無礼は働けませんね。また後日、こちらの使いをフィラルデ家の方へ送りますので、今日はどうかご容赦を、リン様」
彼が、跪いたせいで緑の髪が、さらりと揺れた。思わず絵にしたくなった。
「いや、そんなかしこまらなくても。とにかく今この場で跪くのはどうかお止めください」
申し訳ございません、一言そう呟いて彼は顔を上げた。薄い、ピンクの形の良い唇を優美に歪ませ、私にまた会いに来ることを伝えた。私は彼と喋っていて、どうもよくわからない男だな、と思った。掴もうとしても、まるで雲の様に手からすり抜けていってしまう。同時に、何かぬるぬるとした蛇のようなものが背中を這っていく冷たさと気持ち悪さを感じた。
歪めた口元から少し見えた、赤い舌が蛇を彷彿させた。
私は彼に背を向け市場の人ごみの中に紛れた。カイトの、まってぇと情けない声が背後から聞こえてくる。
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続き楽しみにしてますっ><
2012/11/05 00:15:11
なのこ
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2012/11/05 21:23:30