「ねえ、お昼一緒に食べようよ」
昼食の時間。リンちゃんは、彼女の教室で座っているサナギちゃんに、入り口から呼びかけた。
「え?うん。いいよ」

彼女とリンちゃんは連れ立って、校舎の裏手の小さいベンチに腰かけた。
ふだんはリンちゃんは、クラスの友達と騒ぎながら、お昼の弁当を食べる。
一方、サナギちゃんは、自分のクラスの席で一人で食べているのだが。

「練習とか、大丈夫なの?」
お箸を動かしながら、唐突にリンちゃんは切り出した。そして、サナギちゃんの表情をうかがう。
別段、あわてる風もなく、答える彼女。
「うん」
リンちゃんは、黙って彼女を見ている。
「こんど、私が出るライブだよね。私の加わる曲のパート、そんなに難しくないから」
答えるサナギちゃん。


●ニセモノだったら、分からない

うん、大丈夫。ふだんのサナギだ。
リンちゃんはそう思った。

ニセモノだったら、あの言葉だけじゃ、意味が分からないだろう。

「楽しみにしてるね。アンタがワタシらのバンドの音楽以外の、ライブに出るの、はじめてだしね」
そういって、笑う。
「うん。コヨミさんの頼みだもの」
サナギちゃんも、笑った。

朝の会話で、どこか妙な感じを受けたので。
探りを入れてみたのだが。
リンちゃんは、少し安心した。

「コヨミさんのバンドの、ベースの子が怪我しちゃったんだよね」
「そうなのよ。がんばるわ」
笑うサナギちゃんだった。


●ストーカーみたいだな

午後の、最後の授業も終わり、リンちゃんのクラスでは皆、バタバタと帰り支度をはじめた。

いつもはウダウダ、友達としゃべっているリンちゃんだが。
きょうは、サッときびすを返すように、校門の方に走っていく。

「やっぱし、変なんだよなあ。時々、別人みたく見える」
午後の授業の間、ずっとそう思っていた。サナギちゃんの態度が、だ。
...「がんばるわ」なんて、あいつ言ったことないし。
そんなことを思った。

校門の裏の木の陰で、スマホをいじる振りをして、しばらく待っていると。
校舎からサナギちゃんが出てきた。

見つからない程度に、距離を取ってから。
リンちゃんは、彼女の後をつけた。

「アタシ、まるでストーカーみたいだな」
そんなことも思った。

途中までは、いつも彼女が帰る道だったが...
案の定、ある場所から、全然違う方向に向かい出した。

リンちゃんは、電柱や車の陰に隠れながら、しばらく後をつける。


●後をまた、つけよう

ふいに、サナギちゃんがあたりを見回した。そして、振り返った。
「おっと」
ちょうど、2人の間に車が走り、陰になった。リンちゃんはあわてて、止まっている近くのトラックの陰に隠れる。

どうやら、気づかれなかったようだ。

もう少し、距離を取った方がいいかな。
そう思い、歩き出した彼女を見つめる。

そろそろいいか。後をまた、つけよう。

耳元で「まだまだよ」と声がした。
「うわっ」
思わず、小さく声に出した。すぐうしろには。
駿河ちゃんがいた。

コヨミさんのバンドのメンバーの、駿河ちゃんだ。
彼女はリンちゃんの後をつけていたのだ。

「しっ。声出しちゃだめよ。彼女に聞こえちゃうじゃん」
彼女は声を押し殺して、つづけた。
「あの方向はね。月光企画の、会社がある方向よ」 (¬、¬)

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玩具屋カイくんの販売日誌 (281) 追跡、開始!

追跡の追跡でした。サナギちゃんの行く先は?

閲覧数:92

投稿日:2016/07/18 22:10:48

文字数:1,383文字

カテゴリ:小説

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