状況が飲み込めず呆けていると、咳払いが聞こえて我に返った。
「大丈夫か?」
「う…別にどうもしてないし…。」
気まずくて思わず口篭っていると、グシャグシャに握り締めていたテーブルクロスを優しく取り上げられた。テキパキと畳まれたクロスを見て今度はどーんと気持ちが沈んで来た。ベッドの上で膝を抱えて深い溜息を吐くと、何処からか甘い匂いが漂って来た。
「何してんの?」
「カップに湯を注いでる。」
振り向かずにそう言うと、会長は何かをくるくるかき混ぜていた。程無く私の前に湯気の上がったカップが差し出された。何で医務室にココアがあるんだろう?館林先生の私物かな?そう言えばあの先生は割とまともな方だよね、コスプレ趣味なのが痛いけど…。
「要らないのか?」
「い、要る!要ります!」
受け取ったココアを啜るとじんわりとした甘味と温かさが体に広がった。
「悪かったな、手荒な真似して。」
「え…あー…テンパったの私だし…何か訳解んなくなっちゃって。」
乾いた笑いに我ながら空しくなっていると、会長が私の隣に少し間を開けて座った。微妙な距離が却って緊張を呼んでいた。暫くの沈黙の後、空になったカップに手が伸びて来た。
「解らない。」
「はい?」
「鶴村が怒った理由も、日向がどうして泣いたのかも、俺には解らない。」
会長は観察するみたいにじっと私を見詰めて言った。鶴村先輩の事はよく解らないけど、多分空気読めない事でもしたんだろうな、この人天然だし、勉強以外てんで小学生並みだし、言っちゃ悪いけどネジ飛んでる感じするのよね。密かに吹き出すと、予想外な言葉と光景が目の前に降って来た。
「今笑った?」
「ふぇっ?!」
鼻先数センチの所に顔があった。歯医者みたいに両手でガッチリと顔を固定されていて動かせない。言葉が出て来なくて口をパクパクさせるしか出来ないでいると、不意に会長が不安そうな顔をした。
「やっぱり日向は俺じゃ笑わないのか?」
「は…はい?」
「だって日向はいつも俺に怒ってるだろう?えーっと、そう、ツン状態と言う奴だったか?」
まだその知識引き摺ってたんだ、この人ホントにバカと言うか純粋と言うか…どうでも良いけど顔近い。心臓煩い、顔熱い、息するの辛い、バカバカバカバカ…!
「どうしたら笑うんだ?」
そんな事言われましても!
「日向はどうすれば嬉しい?」
だから顔が近いって!そんなに顔近付けたら唇当たっ…?!
「ニャー。」
「ひゃあぁっ?!…ね、猫…?何で猫が…。」
「…チッ!」
「何か言った?」
「別に?」
謎の猫、今はグッジョブにしといてあげよう、うん、そうしよう…。
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