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思わずお母さんを怒鳴った後私は家を飛び出していた。ちょっと感動したのに、嬉しかったのにあんなオチが付いてるなんて信じられない!
「緋織!こら風邪引くぞ、コート羽織って。」
「お礼言おうと思ったのに出て来ちゃった…鈴夢の事だって紹介したいのに…。」
「戻るか?」
「今日帰りたくない…。」
さっきとは違...いちごいちえとひめしあい-最終話.一期一会-
安酉鵺
家の中に父の姿は無かった。テーブルには3つの珈琲カップが並んでる。
「お父さんは?」
「少し前に出掛けたわ、入れ違いになったのね。」
いつも通りの笑顔に居たたまれなくなって、思わず口を開いた。
「お母さ…!」
「どうして話してくれなかったの?」
「え…?」
「お稽古や勉強が窮屈だとか、お友達の事で悩...いちごいちえとひめしあい-144.カップと珈琲-
安酉鵺
結局先生の協力は直ぐには得られなかった。溜息を吐きながら家に戻ろうと玄関まで降りると見慣れた人影があった。
「鈴夢。」
「そろそろ暗くなるから送ってく。」
「うん、あ、でも…。」
戻っているお父さんと鉢合わせでもしたら殴り合いになりそうで怖い、とは言えないし。
「親父さんの事なら焦らない方が良いんじ...いちごいちえとひめしあい-143.既視感-
安酉鵺
日が傾いてオレンジに染まった空、部活の時間も終わり生徒がそれぞれ帰宅する声が聞こえていた。
「珈琲で良い?」
「あ、えっと…お茶で。」
「茶?珍しいな。」
前は何処かで心の拠り所にしていたであろうこの場所も、最近はすっかり足が遠のいていた。それは多分緋織にとって良い意味での変化なんだろうと今は思う。...いちごいちえとひめしあい-142.とんだとばっちり-
安酉鵺
成り行きで引っ張り回された挙句訳解らない人まで出て来て、正直私の頭は働かなかった。と言うか考えるのに疲れていた。天城会長はノートを取りながら眉間に皺を寄せ考え込んでいる。一先ずこの菖蒲さんに話を聞いてみるべきかな?
「あの、結局どう言う事なんですか?菖蒲さんは雉鳴さんの上司で、雉鳴さんは仕事の一環と...いちごいちえとひめしあい-141.怖いヒト-
安酉鵺
作業に少し疲れてふと顔を上げると、お師匠は相変わらずダンボールに黙々と荷物を詰めていた。長い溜息を吐いてから意を決して口を開いた。
「良いんですか?このまま行っちゃっても。」
「口より手を動かせ馬鹿、役立たず、チビ、ガキ、ヘタレ、女顔、童て…。」
「お師匠!」
「煩い!」
この人ってイイ歳こいてすっ...いちごいちえとひめしあい-140.笑顔のカラスさん-
安酉鵺
直ぐに教室に走ったが生憎七海は休んでいた。まぁ、身内があんな事になったのだから来辛いのかも知れない。
「おーい、暴走会長、今度は何処行く気?」
「桜華しふぉんをエサに七海を…。」
「止めなさい。第一其処までする理由あるの?全部順調に行ってるじゃない、なのに今更掻き回してどうするのよ?」
鶴村が少し不...いちごいちえとひめしあい-139.目的は?-
安酉鵺
まるでドラマでも見ている様な鮮やかさだった。倉式は元より学園の中に放置されていた佐藤莉子を始め参加者に目立った怪我は無く、七海志揮、日高鴇彦の両名は響さんの配慮で警察へ拘束された。落雷に寄る停電こそあったものの、学園祭に大きな異常は見られなかった。
「サイトすら異常無し…か。」
溜息を吐いて立ち上が...いちごいちえとひめしあい-138.写真と正体-
安酉鵺
電気が消えて薄暗くなった校舎の階段を何とか駆け上がった。使われていない教室は荷物が無造作に置かれているだけで人気は無い。と、廊下に1つの影が姿を見せた。
「――七海志揮…。」
伝え聞いていたのと随分雰囲気が違った。何も言わずゆっくり近付いて行っても、逃げようともせず、暴れる様子も無く、ただじっと佇ん...いちごいちえとひめしあい-137.無しで-
安酉鵺
昨日の夜突然来たメール。差出人は七海志揮、拓十君の叔父さんで…今は追われている筈の人。
『非常ベルが鳴ったらショックを受けたフリをして倉式緋織を迎えに来て、場所は高等部2階視聴覚準備室』
皆を騙すなんて性に合わないし、何よりこの人を信用して良いのか解らない。だけど…この人はひおを殺さない…ううん、き...いちごいちえとひめしあい-136.落雷-
安酉鵺
そのメールを受け取った時、真っ先に後悔が襲って来た。それから怒りと恐怖が刻まれる様に吹き出した。
「どうして緋織を1人にしたんだ!」
「止めろ侑俐!」
「だけど…!」
ほんの少しの間に緋織は医務室から忽然と消えた。祭だったせいか緋織を見た人間は居ても何処に居るのかがまるで掴めなかった。緋織が居なくな...いちごいちえとひめしあい-135.病み上がり-
安酉鵺
体調が良くないと言った私を鈴夢は医務室に連れて来た。私がベッドに入ったのを心配そうに見詰めてる。
「ごめんなさい…。」
「気にするな、館林先生呼んで来るから少し待ってろ。」
「寝てれば治るから大丈夫。それに先生だって忙しいだろうし。」
「それでも最近寝不足だったろ?病院に連絡しても良い位だ。」
髪を...いちごいちえとひめしあい-134.ごめんなさい-
安酉鵺
学校を休む事も考えた。イベントから手を引こうとも思った。だけど逃げられないのは解っていたし、何より志揮兄の事が心配だった。
「たーくーとー君。」
「わっ!?…し、しふぉん、何?」
「何じゃないよ、ずっと眉間に皺寄せて怖い顔して。」
「ごめん…。」
「ちょっと休も?ね?」
促されるままベンチに座っても...いちごいちえとひめしあい-133.おかわりください-
安酉鵺
サイトでの宣伝も手伝ってか、学園内は随分な賑わいを見せていた。参加者は出来るだけ目立つ格好で、1人にはならず信用出来る人と居る事、と言う指示の下で表向きは祭を楽しむ事になっていた。でも当然心中穏かで居られる訳も無く、避難する様に医務室に溜まっていた。
「はぁ…折角のリコリス祭が…。」
「でも楽しむ気...いちごいちえとひめしあい-132.焦りと空気-
安酉鵺
明日に迫ったリコリス祭に向けて目まぐるしく毎日が過ぎた。忙しい方が仕事に集中出来て余計な事を考えずに済むから、心の何処かでホッとしている自分が居た。それが現実から目を逸らす物だったとしても。
「一度家に戻るか?ずっと俺の部屋で落ち着かないだろ。」
鈴夢が心配そうに顔を覗き込んだ。警察の調べも終わった...いちごいちえとひめしあい-131.凍り付いた笑顔-
安酉鵺
幸水さんの無茶な案は直ぐに大学部の協力の下進められる事になった。私達は当日コスプレに近いドレスアップで居れば良いと言われたけど、着せ替え人形に疲れてテラスに避難していた。
「あれ、天城会長何やってんの?」
「鶴村か。」
「人の顔見てあからさまに溜息吐くとか失礼だと思うわよ、そんなに日向ちゃんが良かっ...いちごいちえとひめしあい-130.無法地帯-
安酉鵺
無駄に広いリビングに全員が集まったのは9時を過ぎる頃だった。全員を確認すると幸水さんはテーブルの上に数枚の書類が置く、何処かで見た事のあるキラッキラした目の絵が飛び込んで来る。
「これって参加する時に配られた企画書ですよね?」
「そう、んでこれが大まかな流れの予定表やイベントのシステム、本来ならサイ...いちごいちえとひめしあい-129.ブーイングの嵐-
安酉鵺
膝を付いたまま顔を上げようとしない日高に緋織が心配そうな顔をした。泣いているのだろうか、少し肩が震えている。
「鈴夢…。」
「解ってる。」
確かに日高はストーカー事件とは無関係だろうし、佐藤莉子は利用されたのかも知れない。緋織を恨むでもなく今の所害も無い。だけど何処かに引っ掛かる物があった。そもそも...いちごいちえとひめしあい-128.疑心と信頼-
安酉鵺
客間のドアを閉めると自然と溜息が漏れた。最初から緋織に感じていた違和感、どこかすっぽりと抜け落ちた様な喪失感、あの2人に対する絶大な信頼、愛情…それが歪んだ中で生まれたのかと思うと堪らなかった。
「ふ…ん…?鈴夢…?」
「あ、ごめん、起こした?」
緋織は眠そうに目を擦りながら起き上がると、頼りない足...いちごいちえとひめしあい-127.守りたかった物-
安酉鵺
夜も更けて気が付けば何人かは眠ってしまった。ソファで寝息を立てている菫に毛布を掛けると足音を立てないようにそっと2階に上がった。扉の前で見張る様に立っていた真壁がパチンと携帯を閉じて向き直った。
「緋織は?」
「ご心配無く、中で寝かし付けましたから。」
ポーカフェイスだと思ってたけど、緋織の事となる...いちごいちえとひめしあい-126.虚言-
安酉鵺
賑やかな空気に少し疲れて2階のテラスに上がろうとした、するとカーテンに隠れる様にカシスの姿が見えた。
「何やってんだ?」
「しーっ!しーっ!」
「んぁ?」
指差す方向を見るとテラスにも人影があった。
「鈴夢…と、緋織か。何?覗き?」
「私はテラスを見に来ただけです…でも流石に出辛くって。」
そりゃあ...いちごいちえとひめしあい-125.内心バクバク-
安酉鵺
あの後気まずいまま、私達はそれぞれ解散と言う流れに…。
「…なるのが普通ってもんじゃないの?!」
「日向、耳元で大声を出すな。」
「お客さん方、もう直ぐ到着ですよー。」
「うわ、何この豪邸…此処に1人暮らしとか何の試練…。」
そう、あの後何故か旋堂さんが『空気が湿っぽい』とか言い出して、気が付けば皆...いちごいちえとひめしあい-124.メイク直し-
安酉鵺
少し事態と気持ちを落ち着かせてから各自が再び会議室に戻ったのは20分程過ぎた頃だった。事情は飲み込んだものの現状どうすれば良いかと言う点で手詰まりになったのも確かだったから。
「えーと、日高さん…は、結局何をしに此方へ?恨み晴らしにって感じでもないみたいだけど。」
「スッキリ水に流すには少々痛いけど...いちごいちえとひめしあい-123.証拠-
安酉鵺
薄暗いラウンジで絵眞さんが溜息を吐いた。佐藤さんが雉鳴さん刺したって言うのも吃驚したけどあんなヘビーな話聞かされちゃ無理も無いだろう。
「痛々しいよ、頭の包帯とか。」
「…うん…。」
「あー…えーっと、そ、そうだ!この前モチコが新しい芸を覚えてね!そ、それがめちゃめちゃ可愛くって…!
」
「2年間。...いちごいちえとひめしあい-122.虎子は猫に非ず-
安酉鵺
緊急収集なんて物々しい連絡の後、私達テストの参加者は久し振りに会社の会議室に集まっていた。
「こうして皆さん顔を揃えるのは久し振りですね、輝詞さんは何かと顔を出してくれますけど。」
「せっ…瀬乃原さん、それは今言わなくて良いです…。」
「そうですか?私は感謝してますけど。」
「えっ?」
「感謝だけで...いちごいちえとひめしあい-121.誘導-
安酉鵺
目を覚ました時私は車の中に居た。まだ頭がガンガンと痛む。そもそも私何してたんだっけ?確か家に居たら『無事かー?』みたいなメールが来て、その後…あれ…?
「ん…。」
「あれ、緋織ちゃん…じゃない、えーっと…あれ?!七海君?!」
やだ何この男の娘可愛い!…ってそれ所じゃないか、この状況飲み込めないし。
...いちごいちえとひめしあい-120.ミニスカで胡坐-
安酉鵺
家に強盗が入った『らしい』との連絡で家に戻った。粉々にされた窓ガラスが嫌な予感を増長させる。寝室の廊下には幸水が項垂れて座り込んでいた。よく見ると頭から首筋に掛けて血が滲んでいるのが見える。
「おい、何があった?」
「…あ…。」
「鈴夢は?緋織はどうした?!」
少し視線を迷わせた後寝室を見遣って言っ...いちごいちえとひめしあい-119.似て非なる-
安酉鵺
不本意な格好でしふぉんの家に行った。爆笑されてちょっと凹み気分で大通りに差し掛かった時だった。
「澤田先輩?」
って、こんな時間に危ないんじゃね?送って行った方が良いよな、こんな格好だけど。
「緋織ちゃん?」
「あ、いや、あの説明すると長くな…る…?!」
目の前を何かが掠めてウィッグの前髪がパラパラ...いちごいちえとひめしあい-118.七海志揮-
安酉鵺
七海さんが家を出てから1時間位経った時だった、不意に私の支給携帯が鳴り、少し警戒しつつ電話に出た。
「もしもし…?」
「幸水だけど…今1人か?」
「え?はい。」
「今からそっちへ行く、それまで誰が来ても扉を開けるな。」
「え?え?あの、幸水さん?!」
それだけ言うとプツリと電話は切れてしまった。そっ...いちごいちえとひめしあい-117.訪問者-
安酉鵺
終業間際の薄暗い作業室にカタカタと音がした。
「何をしてる?」
「――っ?!」
その影は声に弾かれる様に振り返った。
「侑俐ちゃんから連絡があった、雉鳴弭を刺したのが誰か解ったってね。」
「……。」
後ろ手に電源ケーブルを探るのが解る。
「もうバックアップも裏付けも抑えてある。」
胸が酷く痛い、苦々...いちごいちえとひめしあい-116.記憶の君はいつも笑顔で-
安酉鵺