終業間際の薄暗い作業室にカタカタと音がした。
「何をしてる?」
「――っ?!」
その影は声に弾かれる様に振り返った。
「侑俐ちゃんから連絡があった、雉鳴弭を刺したのが誰か解ったってね。」
「……。」
後ろ手に電源ケーブルを探るのが解る。
「もうバックアップも裏付けも抑えてある。」
胸が酷く痛い、苦々しい物を噛み砕いてる気分だった。
「言い訳があるなら聞こうか?…佐藤莉子。」
「…いいえ…。」
泣いてはいない、怒ってもいない、人形じみた無表情でバッグを持つとそのまま作業室を出ようとした。
「…どうして…っ!」
同じチームで目を輝かせてゲームを作る姿が走馬灯みたいに頭の中に流れた。彼女を信じた自分を否定して欲しくは無かっただけなのかも知れない、それでも何かの冗談なら良いのにと思っていた。
「言えば協力してくれましたか?」
「え…?」
「優しい貴方が私の復讐に手を貸してくれました?誰かを追い詰めて、苦しめて、傷付けて、社会的に抹殺するなんて出来ないでしょう?」
「何で…何でこんな事になったんだよ?!復讐とか…お前一体どうしたんだよ?!」
「止め…離して!」
「最初からこのゲームで皆を苦しめるつもりだったのか?!違うだろ?!なぁ!!」
肩を持つ手が震えているのが自分でも解った。嘘だと言って笑い飛ばしてくれたらどんなに良いか…。
「貴方には解らない…!」
「…佐藤?」
「大事な人がボロボロに傷付けられて…悔しくて…辛くて…頭がおかしくなりそうだったわ…その元凶が…犯人が目の前に差し出されたら冷静でなんかいられる訳ないじゃない!」
唇を噛み締めて、声を押し殺しながら涙を零していた。やり場の無い怒り、悲しみの前に犯人を突きつけられた…?
「あーあ、女はコレだから使えないんだよなぁ。」
「――っ?!」
突然の声に振り返るのと、目の前に衝撃が走るのは殆ど同時だった。遠ざかる意識の向こうで何度も俺の名前を叫ぶ声が聞こえていた。
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