不本意な格好でしふぉんの家に行った。爆笑されてちょっと凹み気分で大通りに差し掛かった時だった。

「澤田先輩?」

って、こんな時間に危ないんじゃね?送って行った方が良いよな、こんな格好だけど。

「緋織ちゃん?」
「あ、いや、あの説明すると長くな…る…?!」

目の前を何かが掠めてウィッグの前髪がパラパラと落ちた。呆然と手に付いた髪を見ていると、視界に光る物が映った。

「良かった…1人で。」

サーッと全身の血が引いた。無ぇわ、これは。警察に追われるわ、また女装させられるわ、いきなり鋏振り回すとか何なんだよ一体…?!

「ちょ、待て!俺は倉式じゃない!」
「関係無いわ。」

関係あるだろ!普通にあるだろ!これって俗に言う病んでる状態?!と言うか、お師匠が刺された事はこの女に報せないって聞いてたのに一体何がどうなってんだ?!と言うかやべぇ!目がマジだ!警察に連絡…いや、俺追われてるんだったよ…。こう言う時位大目に見て貰えたりとかしないんだろうか?あ、でもこの女が逮捕とかになったらしふぉんが傷付くかも知れないし、だけどこのままじゃ俺刺される、しかもこんな生き恥な格好!女殴るのは嫌だけど背に腹は変えられないし…!

「おい何やってる?!」
「――っ?!…弭さん?!」

考える間も無くお師匠は澤田先輩の持っていたナイフを取り上げると、鳩尾に一撃を入れて気絶させた。

「何やってんスかお師匠?!彼女ぶん殴ってどうするんですか?!助かりましたけど!」
「なかなかクオリティの高い女装だね、七海君。生憎僕は弭じゃないよ身長違うでしょ?」
「じゃ誰だよ?アンタは。双子とかオチ要らないからな?」
「そんな事より、何で君がそんな格好で此処に居るの?お嬢さんの案で入れ替わったの?お嬢さん今何処に居るの?こちとら出所したばっかりで浦島太郎なんだよ。」

俺は質問を最後まで聞いてから改めて背を向けて猛ダッシュしていた。誰か知らないけど『出所』って何だよ?!明らかに犯罪者じゃねぇかよ!ああ、もう嫌だ!厄日とかそう言う以前にこのゲーム自体かなり嫌だ!

「べぶっ?!痛ってぇ…。」
「あれ?拓十?」
「志揮兄…ごめん、ちょっと急いでて…。」

ふと志揮兄の手元に目が行った。美容師である志揮兄は手の平を痛める事はあっても手の甲は綺麗だった。だけど指の付け根に血が滲んでいる。

「志揮兄、手どうしたの?」
「……。」
「七海!!そいつから離れろ!!」
「えっ?えっ?」

突然の声に気を取られた瞬間、首に痛みが走り目の前が真っ暗になった。

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いちごいちえとひめしあい-118.七海志揮-

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投稿日:2012/05/20 01:41:34

文字数:1,070文字

カテゴリ:小説

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