『カットリストにいれてます!より』
ガリッ…ガリッ…ガリッ…
カッターが肉を裂く音。
刃物の光は、暗すぎる部屋に身を隠す。
「チッ…もう切るとこないじゃん」
声を漏らしたのは桜花。
………………………………………………………
中学生の桜花はクラスの中で存在感を出さない、所謂ぼっちだった。話しかけられればぼそぼそとした声で返事をするだけ。
クラスの皆が彼女のことを嫌っているのかは分からない。
とりあえず虐めは無い。
どうでも良いのだろう。
だが、そんな桜花にも、ただ一人、幼馴染がいる。悠斗だ。気が置けるというわけではない。ただ私がまだ人気者だった幼稚園時代、ともに過ごしただけ。家も近くて、親同士も仲良いため、小学校の時はお互いの家に行って遊んだりもした。愛とか恋を絶対にしない、ただの幼馴染だ。
中学生になってぼっち昇格した桜花を心配してくれたことがあった。
桜花は失う物は何もないし、そいつがどう思っていようとどうでも良かったから、自傷行為をしている事を伝えた。
制服の袖を無理矢理捲りあげてそいつは息を呑んで桜花のシンボルを見つめた。
「桜花…あんまりこういう事は…」
悠斗の声は、いつでも優しい。心に響く。誰にも優しくされたことがない桜花は、悠斗だけが唯一話せる人間だった。だが、桜花にとってその声は心に少しも響かなかった。
「いや……好きでやってる。」
桜花は悠斗を睨み気味で言った。
長い沈黙をおいて、悠斗は一言も発さず部屋を出ていった。
桜花は不安になった。
自分が嫌いで、居なくなればいいと思って続けた自傷行為が、ただ一人話せる人間をも失う事になるんだと、涙を零した。
頬を伝う涙の感触が気持ち悪くて、頬をカッターで切った。
震える足がうざったくて、太ももに刃を刺した。
桜花の部屋はきれいな赤に染まっていった。
太ももでカッターが駄目になったから、新品のカッターを袋から取り出している時、悠斗が戻って来た。勢い良く扉を開ける音。悠斗は桜花と、桜花の部屋をじっくりみて、ため息をついたあとに、紙袋を桜花に差し出してた。
「…目立つと良くない」
その声は、やっぱり優しかった。
悠斗は紙袋を開けて、中身を渡した。
リストバンドだ。
鮮やかな赤に、うさぎの柄がついていた。
血とは違った赤だな…と桜花は見惚れた。
「うさぎ…すきだよね」
悠斗の声は少し震えていた。そりゃそうだ。ずっと一緒に遊んできた人間が、部屋を血だらけにしてカッターで遊んでいるのだから。
桜花は頷くと感謝した。
そして、見捨てられなくて良かったと、涙を零した。頬がヒリヒリする。
………………………………………………………
悠斗とは、それっきりだ。
さすがにやばいと思ったのだろう。
見捨てられるのが怖かったけど、桜花にとって、味方が居るほうが、もっと怖かった。人間なんていつでも見捨てるもんだと思っていたし、見捨ててくれても構わないと思っていた。
でも、最後に、もう一度だけでいい。
味方がいるという安心感が欲しかった。
ガリッ…ガリッ…ガリッ…
カッターが肉を裂く音。
この刃は、もう使い物にならない。
私の絨毯に、染みが広がる。
血生臭い。
掠れた声が聞こえる気がする。
やっぱり優しい声。
やっぱり、リストバンドは、返そう。こういう素敵なものは、素敵な人が使うべきだ。
「……はまらない」
腕がなくてはまらないときってあるんだな……
桜花は落胆して、笑った。
(小説作った)『カットリストにいれてます!』
カットリストにいれてます!より
低クオ小説
完結
コメント0
関連動画0
ご意見・ご感想