このお話は、ある昔話をカイメイでリトールドしたものです。
カイトが王子様でメイコが王女様です。
基本のストーリーラインは、もとのお話とそんなに変わっていません。
【熊のお姫様】
むかし、むかしのお話です。とある国に、とても美しいお妃を持った王様がおりました。ですが、お妃は突然、病に倒れて亡くなってしまったのです。お妃を失った王様は、ショックで何も手につかなくなってしまいました。
時が経てば悲しみも薄れていくだろうと、周りの人たちはそっと見守ることにしたのですが、三年が経っても、王様はふさぎこむ一方です。王様は毎日のように亡くなった妃の肖像画を眺めては、「お前のように美しい女は、どこを探してもいないだろう」と呟いてばかりでした。
あまりにも王様が暗い表情をしているので、周りは再婚を勧めました。誰か他の人と一緒になれば、亡くなったお妃への気持ちも忘れられると思ったのでしょう。ですが王様は、持ち込まれるあちこちの姫君の肖像画を見ては「妃に比べれば、どれも不細工だ」とこぼすばかりでした。
そんなある日、王様が部屋からぼんやりと庭を眺めていると、娘のメイコ王女が庭の花を摘んでいるのが視界に入りました。メイコ王女は、亡くなったお妃にそっくりでした。
王様はしばらくメイコ王女と、お妃の肖像画を交互に眺めていました。そこへ、メイコ王女の兄の、メイト王子が入って来ました。王様が仕事をほとんどしなくなってしまったので、王の仕事はほとんど、この長男がやっておりました。
メイト王子は早速、政務の話を始めましたが、王様は全く聞いていませんでした。父親が窓の外ばかり見ているので、メイト王子は困ってしまいました。一応承諾をもらえなければ、話が進まないのです。
メイト王子がそうして困り果てていると、王様は突然口を開きました。
「メイト、わしは再婚しようと思う」
突然そんなことを言われたメイト王子は、もちろん驚きました。ですがその方がいいと、すぐに思いました。こんな風に落ち込んでばかりいるよりも、再婚して元気になってくれるほうがずっといい。そう、思ったのです。
「それは良い話ですね。で、どこの誰と結婚するつもりなのですか?」
王様が窓の外を指差したので、メイト王子は外を見ました。妹のメイコ王女が、花を摘んでいます。
「父上、あそこにいるのはメイコだけですが。父上が見初めた相手というのは、どこに?」
「そこにいるだろう。メイト、わしはメイコと再婚しようと思う」
メイト王子は、ひっくり返りそうなぐらい驚きました。なにしろ二人は、王様の実の子供なのですから。驚かずにいろという方が、無理というものです。
「冗談はよしてください、父上」
「わしは本気だ。本気で、メイコと結婚する。死んだ妻と同じぐらい美しい女は、娘のメイコしかいないからな」
その声音で、メイト王子は父親が本気で言っているのだと気づきました。でも、とてもではないですが、こんなことに、首を縦に振ることなどできません。
「父上、メイコは俺の妹、つまり父上の娘ですよ。実の娘と結婚するなんてことが、許されると思っているのですか」
「わしはこの国の国王だ。わしがいいと言えば、なんでもよくなる」
あまりと言えばあまりの理屈に、メイト王子は思わず頭を抱えました。そんな息子には構わず、王様は召使に、娘を呼んで来いと命じています。
「お呼びですか、お父様」
そんなに時間の経たないうちに、メイコ王女がやってきました。
「ああ、メイコか。わしはお前と結婚することにした」
前置きも何もなしに、王様はいきなり本題を言いました。メイコ王女は、びっくりして立ち尽くします。
「お父様……気は確かなの!? 私とお父様は実の親子よ?」
「それがなんだというのだ。仕方ないだろう、この世に、死んだお前の母と同じくらい美しい女は、お前しかいないんだから」
真顔で王様にそう言われ、メイコ王女は怒りで真っ赤になりました。こんなことを言われて、怒るなというほうが無理でしょう。
「そんな理屈がとおるわけないでしょう! お兄様、お兄様からも何か言ってください」
「父上、ほらメイコもこう言っていますよ。お願いですから頭を冷やしてください」
子供たちにそろってこう言われれば、どんな人でも我に返りそうなものです。ですが困ったことに、王様はそう言われて、ますます頭に血が昇ってしまいました。
「うるさい、わしに指図するな! 結婚するといったら結婚する!」
「死んでも嫌よ! 父親と結婚するなんて絶対にごめんだわ!」
メイコ王女は怒ってそう叫びましたが、王様は全く聞き入れず、「準備ができ次第婚礼だ!」と言って、部屋を出て行ってしまいました。
メイコとメイトは、その後も何度も父を説得しようとしましたが、結果は徒労に終わりました。むしろそうしようとすればするほど、父は意固地になって、婚礼の準備を進めるのです。日が経つにつれ、メイコの心の中では、絶望の気持ちが大きくなっていきました。
「何がどうなっているのかしら……」
自分の部屋で一人になったメイコは、ため息をつくと、くずおれるように椅子に座りました。一体何をどうしたら、こんなことになってしまうのでしょうか。メイコだって一国の王女ですから、自分の結婚が自分の思い通りにはならないだろう、ということは理解していました。ですが、よりによって自分の父親が相手……悪夢以外の何者でもありません。
この気の触れたとしか思えない婚礼話を、どうにかして父に、諦めさせる手段はないものだろうか。椅子にかけたまま、メイコは思案にくれました。ですが、全く、いい案が浮かびません。
そうやってメイコがずっと悩んでいると、ドアを叩く音がしました。椅子から立ち上がる気力もなく、メイコは「入っていいわよ」と声をかけました。
「姫様、失礼します」
入ってきたのは、時々この城に化粧品を売りに来る、ルカという娘でした。どこのどういう素性かは誰も知らないのですが、彼女の持ってくる化粧品はたいそう質が良いので、城の女性たちはルカが来ることを歓迎していました。メイコももちろん、お得意様の一人です。
「あ……ルカ……」
メイコは椅子に伸びたまま、顔だけ僅かにあげました。その様子に、ルカが驚きます。メイコはいつも、明るい笑顔でルカを出迎えていてくれたのですから。
「どうかなさったのですか? まるで、この世の不幸が全て襲ってきたかのようなお顔をされていますわよ」
「あ、うん、それがね……」
メイコはルカに、あったことを話しました。よりにもよって父親との結婚を強いられており、すぐにもそれが実現しそうだという話です。話したところでどうにかなるとは思えなかったのですが、話さずにはいられませんでした。
「そうですか。姫様、それは大変なことですわね」
「そうよ。お父様ったら、頭がどうかしてしまったに違いないわ。実の娘の私と結婚するだなんて。きっと、お母様の死を嘆き続けたせいね。とにかく、私はお父様となんて結婚したくない」
そうでしょうと、ルカは頷きました。メイコは、暗い表情のまま、言葉を続けます。
「もうこうなったら、お父様を刺して私も死のうかと思うわ」
「やめてください、姫様。命を無駄にしてはいけませんよ」
ルカはそう言うと、荷物の中から一本のヘアピンを取り出して、メイコに渡しました。
「ヘアピン?」
「これは、魔法のヘアピンです。一見普通のヘアピンですが、髪に挿せば、姫様はすぐに恐ろしい大熊に変身します。お父上がこれ以上無体をおっしゃるのなら、これをお使いなさい」
メイコは試しに、髪にヘアピンを挿してみました。するとたちどころに、メイコの姿は大きな熊に変わりました。
「元に戻りたい時は、ヘアピンを抜いてくだい。人間の女性に戻れます」
メイコはヘアピンを挿した辺り――今は髪ではなく、毛皮に覆われています――を探って、ヘアピンを抜きました。そうすると、メイコは元の、美しい王女に戻りました。
「すごいわ。ルカ、どうしてこんなものを持っているの?」
ルカはいつもの謎めいた笑みを浮かべ、ただこう答えました。
「それは秘密です。……とにかく姫様、これがあれば、お父上から逃げるのも難しくないでしょう。ただ、熊でいる時は熊の力になりますから、そこだけは注意してください。怒りに任せてお父上を張り飛ばした結果、首の骨が折れたりしたら、いくらなんでも後味が悪いですから。そして、もし城を逃げ出せたのなら、森へ逃げ込んでください。そうすれば、姫様の身に良いことが起きるでしょう」
「ありがとう、ルカ。なんだか元気がでてきたわ。ちょっと待っててね、今お礼をするから」
メイコは笑顔になると、侍女たちを呼び集めて、好きなものをなんでも買ってあげると言いました。侍女たちは大喜びで、ほしい品を手に取ります。まもなくルカの持ってきた化粧品は全てなくなり、ルカは品の代金に多くの金貨をもらって、帰って行きました。
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ご意見・ご感想
まくま
ご意見・ご感想
はじめてコメントします。
この昔話シリーズが大好きなので新作をとても楽しみにしていました!
妹ポジのめーちゃんも中々新鮮で良いですね♪
素敵な作品をありがとうございます!
2013/02/09 16:50:27
目白皐月
初めまして、fu_anさん。メッセージありがとうございます。
昔話シリーズは、息抜きっぽい感覚で書いているものですが、好きといってもらえて嬉しいです。
めーちゃんは日本語初のボーカロイドなのでどうしても長女ポジションになるのですが、メイト君なら兄設定もありかな?と思って、今回は妹ポジションになりました。
2013/02/09 23:25:10