もしもこの空の色が蒼でなかったのなら、僕は泣かなかったろうか。
「……ミク」
目の前に横たわる彼女が力なく笑っている。
不甲斐なく、僕はその白い指を握り締めることだけに集中しようとしていた。
何かを失うことがこんなにつらいだなんて知らなかった。
ただの機械。代替可能。初めはそう考えていたのに。
「ます、たー」
「ごめん……ミク」
「私 は、嬉し、よ」
無理な笑顔だった。
とぎれとぎれの音が声として再生されて、それは以前の彼女のものとは全然違っていた。
あまり奇麗じゃない音声。音割れしたみたいだ。
視界が。霞む。涙で、霞む。
「ますた、泣かな で」
どうしてあの時彼女を守れなかったんだろう。
幾ら後悔しても遅い。とうにそういうときは過ぎてしまった。
僕は。多分、本当に彼女が好きで。その蒼色の姿も、声も、笑顔だってみんな好きになって。
なのに今こうして彼女の、ミクの全ては終わりを迎えている。
僕の手から零れ落ちていくように。
「マスター」
彼女は強い。電子の歌姫の名前は伊達じゃない。
だからこんなに弱い僕に笑いかけて励ましてくれる。
そんな彼女がいなくなったら僕はどうすれば良い?
「ミク……」
「ます たー、 って」
「何?」
「わたし が消えても、笑っ て」
一人きりの世界はとても孤独だった。
そこから掬い上げてくれたのは彼女だった。
「笑って?」
ネギをねだるときと同じ笑顔でミクは言った。
そうして、まるで柔らかい空気に融けるみたいに――。
"さよなら"?
彼女が身体を横たえていたはずの場所はがらんどうになってしまった。
窓の外は明るくて、蒼い空にはひとすじ飛行機雲があって。
「ミク」
だけど彼女はいない。いない。いない。
ぽつりと雨のように目から雫が垂れてフローリングを濡らした。
もっと一緒にいたかった。
気づけば世界は蒼いカラーで染め上げられていた。
もしもこの空の色が蒼でなかったのなら、僕は泣かなかったろうか。
でももう解らない。解らなくとも笑わなければ。
ミクが消えた日、ぐしゃぐしゃの顔で僕は無理矢理に、笑っていた。
BLUE SKY, YOUR BLUE
2008.12.16//「笑うよ」。
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