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日が暮れる。
たったそれだけのことなのに、なぜ今日はこんなに切なくなるんだろう。
私は夕日を見ていた。
もうすぐ町は夜に包まれる。けれどその前に、夕日は燃え尽きる前のろうそくみたいに赤く町を侵していく……。そんな様子が突然見たくなった私は、サンダルをつっかけてベランダに立っていた。
素足に風が当たる...太陽は明日も赤い
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「おめでとう」と言われて、それが何を意味するのか、一瞬解らなかった。
マスターは笑っているし、他のみんなだってニコニコしている。
「えっと……何の話?」
「だから、今日はMEIKOの誕生日だろ!」
「あ」
マスターが私の頭をぽんと叩いて言った。
それをきっかけにして、兄妹たちが私に抱きついてくる。
...青い鳥みぃつけた
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購入したボーカロイドが、不良品だった。
「マスター、どこにいるのかしら?」
「……君の、目の前にいるよ」
ボーカロイド。機械の彼女は、見た目は何一つ人間と変わらなかった。
私は半年前から、彼女に会うことを、本当に楽しみにしていた。
送られてきたパッケージを開け、そして彼女を起動しマスターとして認識さ...幸福の在処
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「夜が怖いんだ」
なのに。
そう言った兄さんの眼こそが夜の色をしていた。
「あたしは好きよ」
「リンは強いから」
「夜だけだもの。夜になれば、月も星も見えるようになるでしょう」
「どういう意味だい?」
「太陽には敵わないもの」
自嘲するように口許をゆがめると、兄さんが何のことだかと言いたげに首を傾げ...月の裏側
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もしもこの空の色が蒼でなかったのなら、僕は泣かなかったろうか。
「……ミク」
目の前に横たわる彼女が力なく笑っている。
不甲斐なく、僕はその白い指を握り締めることだけに集中しようとしていた。
何かを失うことがこんなにつらいだなんて知らなかった。
ただの機械。代替可能。初めはそう考えていたのに。
「ま...BLUE SKY, YOUR BLUE
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「リン、何をしてるんだい」
「何も」
そう言って妹は後ろにスコップを隠した。
オレンジ色の、少し錆びたスコップ。いつ、何処から拾って来たんだろう。
「マスターが呼んでいたよ」
「ありがとう、カイト兄さん。すぐに行くわ」
「そう……」
「あたしは行くけれど、ここはそのままにしておいてね」
リボンを揺ら...埋葬
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どうして本当のことが言えただろう。
奇麗な夢
いつの間に眠っていたのだろうか。
あまり広くない研究室の真ん中、薬缶のシューシュー鳴る音で目が覚めた。
旧時代的なストーブが赤い炎を抱いている部屋は暖かい。でも、何だか置いてけぼりにされているようだ。
窓の外は雪でただ、ずっと白い。
生まれてからというも...奇麗な夢
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「さよなら、二度と逢わないよ」
君に別れを告げて駆け出した
夜の街 淋しい雨の色
野良猫が通る道抜けて
君はいつも眉を寄せて笑うから
いつまでも気付けなかった
その裏側の嘘に
はしゃいでみた夢
しゃぼん玉の現実(リアル)
大好きだったよ...ナンセンス
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『なあ、メイコ。お前の誕生日はいつなんだ?』
『私?』
『そう、幾ら聞いても教えてくれないから。このままだと祝ってあげられないだろ』
本当は明日だと、言えば良かっただろうか。
大学へ出かけるマスターの背中を見送ってから、私はふと思った。
冬を間近に控えた十一月四日。思い浮かんだ考えをすぐに首を振って...Happy Happy Birthday