購入したボーカロイドが、不良品だった。
「マスター、どこにいるのかしら?」
「……君の、目の前にいるよ」
ボーカロイド。機械の彼女は、見た目は何一つ人間と変わらなかった。
私は半年前から、彼女に会うことを、本当に楽しみにしていた。
送られてきたパッケージを開け、そして彼女を起動しマスターとして認識させようとした。
しかし、彼女は不良品だった。目が見えなかったのだ。
「マスター」
「……」
「私は、返品されるのね」
彼女はそう言って苦笑いをする。
機械と言っても旧世代のものとは違う。視力がないことを察し、自分の末路が解っているのに、笑ったのだ。
だから私は、彼女を返品することを止めた。
彼女は私のボーカロイドだ。目が見えなかろうとも、私の、私だけの"MEIKO"だとその時思った。
*
「マスター」
「何かな」
「もう夏なのね」
彼女を迎え入れたのは、春だった。
それから数か月が経ち、すっかり季節は夏になっていた。
縁側にいれば蝉の鳴き声も聞こえる。きっと八月になればやかましい程になるだろう。
彼女は畳の上で座り、膝に猫を抱えている。
私が以前から飼っていた三毛だ。そいつも嬉しそうに目を細めている。
「……私、あなたがマスターで良かった」
「急にどうしたんだ?」
「ううん。ただ、普通なら返品されるでしょう。どうしてしなかったのかな、って」
猫の喉を撫でながら、彼女が問い掛ける。
私は風鈴を壁際に吊るし、少し考えてから口を開いた。
ちりん。早速薄水色にアサガオ柄の風鈴が風で揺れる。
「きっと、君に一目惚れしたからだよ」
ちりん、ちりん。
彼女は光の映らない瞳を見開いて、私の方を見つめる。
猫は飽きたのか縁側から下り、どこかへ散歩に行ってしまった。
「……それは」
「それは?」
「とても、幸せなことね」
彼女が、照れたように笑うのを見て、返品しなかった自分が正しかったと心から思えた。
――有難う。MEIKO。君のお陰で、私は今日も幸福に生きている。
幸福の在処
2009.08.02//君と出逢えた奇跡に感謝を
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榎ノ木
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>BlacK DreaMさん
初めまして、まさか上げてすぐ感想を頂けると思ってなかったので返信が遅れてすみません。
感動だなんて…いやいや、まだまだ未熟ですorz
MEIKO愛だけで書き上げたようなものですが、褒めて頂けて嬉しかったです。
また何か上げた折には読んでやって下さると嬉しいっす。
2009/08/05 01:41:50