この物語は、一人の少年と手違い(?)で届いたVOCALOIDの物語である。
*
やっとだ。
息を大きく吸って、吐く。
そして、
「やっと届いたああ!」
と、思いっきり叫んだ。
隣の住民からうるさいぞーと、声が聞こえた気がしたが、気にしない。
やっと、届いた!VOCALOID!
届いた箱を改めてまじまじと見つめる。
声にしてしまうほど、ほしかった物。
これでやっと一人暮らしから解放される!…じゃなくて、
これでやっと自分の歌を歌わせることができる!
弟が誕生日にはとんでもないものを送ると言っていたのは知っているが、
まさかずっとほしかったVOCALOIDを送ってくれるとは。
今この瞬間だけは、弟がいた事に感謝しよう。彼はそう思った。
VOCALOID。
詞を作り、歌うことは好きなのに、自分は何故か音痴に生まれてきてしまった。
そんな自分の代わりに綺麗な歌声で、全世界の人を自分の虜にするのだ!
と思うと、自然に顔がにやけてきた。箱を丁寧に開ける。
だが数分後、その顔は、
「ええええええええええッ!?」
悲鳴によって、ゆがんだ。
二人三脚 ~Part 1~
「な、な、なんで!」
いや、これは何かの間違いだ。
そう思いつつ目をこする。もう一度目を向ける。
しかし目の前にいる青年は、揺らぐことはなかった。
「なんで…?」
彼は小さな声でつぶやいた。
中から出てきたのは、優しそうな顔付きの青年だった。
そうしろといわれていたのか、青年は彼に挨拶をする。
だが、彼はそれに驚愕を隠しきれない。
そんな彼の様子を流石に変だと思ったのか、青年が口を開く。
「ええと…どうかしましたか?」
「…いやいやいやいや、どうしたってレベルじゃないよ!」
「…はぁ」
「どうして!?てか、お前誰?」
「俺ですか?…俺はKAITOです。」
「そんなことはどうでもいい!」
「はぁ」
矛盾発言を繰り返す目の前の人物に、KAITOはちょっと困った。
とりあえず、この家に来た時に言わなければいけないと言われた言葉を言う。
「あなたが、俺のマスターですか?」
「違う」
即答されて、KAITOは呆然となる。
「え、でも、この家貴方しかいませんよね?」
「そうだが、違う。俺は「初音ミク」が欲しかったんだ!」
「え、ええ!?」
目の前のどう見てもマスターの人にそう言われ、KAITOは、更に呆然となる。
自分は注文されてここに来たというのに、目の前の人物は自分を注文していない、
それどころか欲しかったのは「初音ミク」だと言っている。
「どうして?なんでコイツが届くわけ?」
「コイツじゃなくて、俺はKAITOです…注文されたから俺はマスターの所に来たんですよ。違いますか?」
「注文したのは弟―――はっ、まさかアイツ、初音ミクと間違えたんじゃ―――!」
そう言い放つと、彼は先ほどの、「弟がいることに感謝した」感情を頭の中の消しゴムで
高速で消した。
「ちょ、ちょっとお前送り返してくる!ア○ゾンに!」
「えええええ!?え、な、なんでですかっ!?」
「手違い!手違いだってコレ!初音と取り替えてもらうっ!」
「そんなぁ!」
送り返されることにあわてるKAITOを、無理矢理ダンボールに詰めようとする。
KAITOも、送り返されては大変だ、と必死で抵抗する。
「ダンボールの中に戻れーッ!」
「嫌ですっ!!」
小競り合いが五分ほど続いたところで、
彼はふと、ダンボールに、ア○ゾンの紙ではない、封筒が付いているのを発見する。
「…なんだこれ?」
封筒を開けて、中に入っている一枚の紙切れを取り出す。
そこにはこう書かれていた。
『兄ちゃんへ
初音ミクは高すぎて僕には手も届かない代物だったよ。
だからちょっと安いカイトで我慢してください。 本当にゴメンね。』
「……」
「…あの」
部屋は、数秒、いや、もしかしたら数分だったのかもしれない、沈黙に包まれた。
と、唐突に彼は封筒ごと手紙を力いっぱい握って、ぐちゃぐちゃにした。
そしてそれをゴミ箱に投げる。ポスンと音を立ててゴミ箱に潰れた封筒が入る。
「………」
「…ど、どうしたんですか?」
「なぁ」
「え、あ、はいっ」
「…なんでこの世に弟何ているんだろうな?」
「……必要とする人が居るからじゃないかと…」
KAITOが真面目に返すと、彼は唇を噛んだ。
「…あの」
「何」
「…俺どうなるんですか?」
「どうもこうもないだろ、届いたんならしょうがないだろ―――家に置くしか」
その返答に、KAITOの表情が明るくなる。
「それは、俺がこの家に居ていいってことですよね!?」
「ああ。勝手にしろ。」
「あ、有難うございますっ、マスター!」
「だから俺はマスターじゃねぇって!」
「…じゃあ、マスターの名前は何ていうんですか?」
「え、ああ、言ってなかったっけ?」
「…教えてもらってませんよ」
先ほどはそれ所じゃありませんでしたしね、とKAITOは言いかけて、
その単語を飲み込んだ。
「…その前に、お前の名前なんだっけ」
「KAITOです。三回言いましたよ…」
「そっか。カイトか。」
「KAITOです」
「わざわざ英語で表示することないだろ」
「でも俺の名前はKAITOなんです」
「カイトでいいじゃねえか」
「駄目です」
「なんでだよ、作者だって「KAITO」って打ち込むより「カイト」って打ち込むほうが
楽だって言ってるじゃないか。」
ごもっともです。
「……でも俺の名前はKAITOなんだけど」
「あー、どうだっていいじゃねぇか。お前がVOCALOIDな事には変わりないだろ。」
「はぁ…まぁ、そうですけど」
KAITOは諦めた。名前なんてこの人にはどうでもいいことなのかもしれないし。
「あ、俺の名前は「クオ」」
「ク、オ?」
「そう。漢字で書いたら久麻」
「わかりました。クオ…さん」
「なんでそこでさん付けになる。呼び捨てでいい。オッケー?」
「え、あ。オッケー、です」
つられて返事する。結構軽い人なのかもしれない。
ふと、クオは時計を見る。
「とりあえず、もうすぐ昼だけど、お前何食うの?」
「え?えっと、アイs」
「よーし、ラーメンでいいんだな!よし!」
「……」
固まるKAITOを放置して、クオは台所に向かった。
KAITOはとりあえず思った。
―――この人と一緒で、自分は大丈夫だろうか。
…と。
続
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