人は地球を貪りすぎた。地球の人口が減りすぎた時も、人は生き延びようとした。原因は自然災害。
そして、自然災害によってダメージを負った各地の復興。それが世界規模で求められたそうだ。
その時に足りなかったのは、食料でもなければ、人を指揮する優秀なリーダーでもなく、労働力だった。人手が足りない状況だったらしい。そして人は、自分自身の尊厳を踏みにじるような行為に、平気で手を染めた。そうして出来上がったのは、奴隷の合法化。
人の尊厳を踏みにじったその発想は、皮肉にも成果を上げて、自然災害の爪痕からたくましく復興を遂げ、自然災害に対する対策も取られた。そして、成果を上げた奴隷の合法化は・・・続いていた。
こんな世界巫山戯てると、僕、一八番は思う。・・・名前なんてものさえ奴隷にはなくて、番号だけで充分。もらえる給料なんて、雀の涙より少ない。でも、それが奴隷だった。奴隷としての僕だった。
自分の手のマークを粘り着くような視線で眺めても、何も変わらない。
「はぁ・・・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・。」
溜息をしても、何も変わらないのも同じ事だった。
汗を拭い、僕は地上三〇〇メートルから命綱無しで、作業物資を運んでいる。少しだけ下を見て、軽い喪失感を覚えながら再び鉄骨の上を歩きだす。突然の突風がないことがとても有り難かった。集中しなかったら、一歩間違ったら死ぬ場所に僕はいるんだ。こんな危険な作業上で死傷者がいないなんて話しを、雇い主から聞かされたが、絶対に嘘だと確信が持てる。
「すいません、物資ここに置いておきます。」
「おお、ご苦労さん。新入りの・・・一八番だっけか?慣れればいいとこだぞ、ここ」
「冗談を。」
「オレは覚えてるか?」
「人を覚えるの苦手なんです。」
それだけ言って、背を向け、物資を再び取りに向かった。作業エレベーターがあるのは唯一の救いだと思った。地上三〇〇メートルから、快適な速度で地表まで辿り着く。
そして物資を届けることの繰り返し。同じ事を繰り返す作業っていうのは、精神的にも、肉体的にも辛い。どうしても疲労が溜まる。
体力が限界に近づけば近づくほど、どうして自分が奴隷になったのかと思いたくなる。でも、思い出そうにも、気づいたら奴隷だった。そうとしか表現できなかった。
そんな巫山戯た日々に、嫌気なんてもう感じる神経も生きてはいなかった。そんな自分は情けなくて、惨めで、自虐に陥る度に頭を振るって考えをリセットする。
いつまで、そんな作業を続ければいいんだろう。
「本日の作業終了!こいつは今日の給料な。」
現場監督の前に綺麗に整列して、順番に給料を受け取る。軍隊の整列によくそれは似ていて、滑稽以外の何者でもなかった。
給料を受け取り、各々がどこかへ散らばっていく。・・・奴隷といっても、それぞれを収容したりする施設があるわけじゃない。
逃げようと思えば、傍目から見ればいくらでも逃げられそうな環境だ。それでも、明日の朝にはまたいつも通りの時間に僕たちはここへ集まってくるんだろう。
原因は、この手にあるマークだった。マークの形は人それぞれで、僕はハロウィンに出てきそうなカボチャのマーク。このマークがGPSの様な役割をしているらしく、僕たちは逃げたとしても、すぐに見つけられ、修正を受けてまた奴隷生活に後戻りになる。
抵抗するだけ、無駄だった。
僕は七〇〇円を受け取ると、銭湯で疲れを癒した後、コンビニでおにぎりを一つだけ買った。これだけで給料の九割を使ってしまったんだから、泣けてくる。
たったこれぽっちのお金しかない僕ら奴隷は基本的に、家を持たない。つまり、帰る場所がない。夕暮れになって急いで家に帰る子どものように、目的地はなく、その子どもを笑顔で見る母親のように、迎えてくれる場所もない。
僕は、近くの建物の隙間に入った。家庭の裏側の匂いや、清掃されているとは思えないコンクリートの床や、貼りっぱなしにされたままの張り紙には、もう慣れた。
ゴミ袋が散乱し、綺麗な表とは違う。目に付かない場所にある、裏側の光景。
「・・・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・。」
手早くおにぎりを平らげ、足下に目をやる。
足下に散乱していたチラシの一つに、奴隷が守る法律と書かれた物があった。
逃げだそうとすると、修正を受けた上で再び奴隷生活とか、雇い主の命令は絶対とか、もうわかりきって、骨にまで染みこんでしまったものばかりが書き殴られたチラシを、破り捨てる。
チラシは僕を訝しげに見つめた気がしたけど、気のせいだ。
僕はゴミ袋の山の傍に座り込むと、瞼を閉じた。隣からする悪臭に慣れてしまっている自分に、ずれを感じながら。奴隷という自分にも、ずれを感じながら。
遠くで聞こえる喧嘩の騒ぎ、どんちゃん騒ぎをする団体、けたたましく鳴り響くサイレンの音、何かが壊れる音、どれもが一つ一つ集まって、都会の喧噪になる。
僕は、それに混じれない。なんて静かなんだろう。
そう感じながら、意識を闇に手放した。
意識を闇に手放す直前にでさえ、都会の喧噪は静かになることを知らない。僕への、奴隷への当てつけのように平和で、楽しそうで、物騒な騒ぎを起こす。
苛立ちを覚えるのも、もう面倒だった。
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