「このオモチャ、面白いですねえ!」
レンくんは、売り場の汽車の玩具を手にとって、ながめる。

「ドイツ製ですよ。ペン立てになってるんです」
トニオさんが言う。

馬喰仮面町にある、トニオ福森さんのお店「マルクト」に、レンくんは来ていた。
ここは、輸入の雑貨や文具を置いてあるお店だ。
このあいだ、りりィさんの「星を売る店」に行ってから、レンくんは雑貨屋めぐりをはじめてしまったのだ。

「あれ?このチラシ...」
彼は、売り場のすみにおいてあるチラシに目をやった。
それには“音楽と雑貨とアートとトークの日 ~イースト・トーキョー・フェス~”と書かれていた。


●出演バンド募集中!

「出演者募集?これ、なんですか?」
レンくんは、トニオさんに聞く。
「これはね、この界隈のお店やアーティストが集まって、みんなで賑やかに発表したり、トークやライブをしようという、イベントなんですよ」

「ふぅん。ここでやるの?」
「ええ。まだ、予定ですけどね。この店の地下は、“ホール・マルクト”という小さなホールなんです」

トニオさんの答えに、レンくんはうなずいて、聞いた。
「アートとか、ライブもやるんですか?」
「もちろん。いま、出演者を募ってるんです」

「へえ!」
彼は大きな声を出した。
「あの、うちの妹も、バンドをやっているんですよ」
「バンド?」
トニオさんは聞いた。

「はい。ガールズ・ロックみたいなことをやってます」
彼は答えた。レンくんの妹のリンちゃんは、“シグナル”というバンドを組んでいる。
「それは面白いなあ」


●音楽もアートも楽しもう

「こんど、妹もここに連れてきますよ。でも、そういうイベント、楽しそうだなあ」
レンくんは言った。
「このお店が、企画したんですか?」

「いいえ、それは、私ですよー」
いきなり、後ろで声がしたので、2人がふりむくと、
お店の入口に、デザイナーの湯栗(ゆくり)さんが、立っていた。

「あぁ、ゆくりさん。いらっしゃい」
トニオさんは挨拶して、レンくんに説明した。
「この“イースト・トーキョー”っていう催しは、この人が企画したんですよ」
「楽しそうなイベントですね」
レンくんは笑って言った。

「うん、そうでしょうー?。雑貨やアートのイベントや、フリマは多いけど、音楽って少なかったでしょ?」
ゆくりさんは、2人に向かって言う。
「音楽もアートもトークも楽しめる、地域のイベントを作ってみたいと思ったの」

「へえ、じゃ、雑貨屋さんや、ギャラリーも、参加するんだ」
レンくんは、感心していった。
「そうですよー。この“ホール・マルクト”さんをメインにね。いろんなとこで同時にやるつもりですよー」
ゆくりさんは、笑った。


●もっと“品”のある出し物を...

「ね、ところで、あなたの妹さん、どんな音楽をしてるのかしらー?」
ゆくりさんが、レンくんに聞く。
「あれ、聞いてたんですか?」
レンくんは恥ずかしそうに言った。

「スタイルはガールズ・バンドなんだけど、とんだり、はねたり、」
彼は、身振りをまじえて説明した。
「パンクや、デス・メタルみたいなこともやります、あいつ」

「ううん」
それを聞いたトニオさんは、悲しそうな顔をした。
「うちの店のホールでは、もっとこう、“品”のある出し物を...」

「だめよ、だめだめー。トニオさん、そんな弱腰じゃあ」
ゆくりさんが、口を入れた。

「いろーんな品目を出してこそ、お客のためのエンタテインメントよー」
のんびりと言って、彼女は片目をつぶった。
「そうでなきゃ、一流の座長には、なれませんよ~」

トニオさんは、力なく言った。
「“座長”...。オレの店は“新喜劇”ですかぁ?」(ノω・、)


(次回に続く)

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

玩具屋カイくんの販売日誌 (121) ゆくりさんの、音楽アート・フェス (Part1)

今回の話のモデルは、「Speak East」という、デザインのイベントです。
垣根を越えてやる催しは、楽しいですよね! http://www.speakeast.jp

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投稿日:2011/09/24 12:31:12

文字数:1,569文字

カテゴリ:小説

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