8.
「……」
ゆっくりとまぶたを開ける。
視界はまだ、漆黒の空と無数の星々のきらめきにおおわれていた。
おそらくは三十分か一時間くらいしか経過していないんだろう。……すごく長い時間がたったような気がするけれど、校舎の屋上でかすかにまどろんだだけだった、というわけらしい。
まだ夜は明けていないとはいえ、いまの時刻はたぶん朝の三時か四時くらいか。だらだらしていたらすぐに空は白み始めるだろう。
「……ん、しょっと」
上体を起こして、改めて屋上を眺める。
僕と美紅にとって、ほとんど唯一の逃げ場所だったと言える校舎の屋上。
なにもなくて殺風景で……だからこそ、ここだけが周囲の圧力から逃げられる場所だった。
そして、僕らはようやく見つけた。
二ヶ所目にして、理想とも言える逃げ場所を。
美紅はもう、あちら側へと旅立った。
そして僕はまだ、こちら側でモタモタしている。
……とはいえ、僕の心は晴れやかだった。
それまで決められずにいた気持ちが、はっきりしたから。
最期の最期に、自分の意思でやり遂げるべきことができたから。
「ああ、うん。もう……もう良いよ」
ここにいない彼女にぽつりとつぶやいて、僕は立ち上がる。
もう一回。
もう一回。
彼女がそう言っていたように、僕もまた、内心ではずっとやり直したいと思っていた。
義理の両親とやり直して、仲良く……楽しく。そうできたらいいのにと。
でも、そんなこと無理だったのだ。
散々つまずいた挙げ句、僕はもう一回をあきらめた。
だから僕も、彼女と同じようにやり遂げよう。
美紅が、彼女が転がる少女だというのなら、僕は不幸を繰り返す愚者ってところか。
散弾銃でもあれば簡単だっただろうけれど、そう都合よくあるわけがない。
僕は校舎の屋上の周囲をぐるりと囲うフェンスにしがみつき、よじ登り、乗りこえる。
体力もないのに家からここまで走り続けた僕には、ずいぶんな重労働だった。
フェンスを背にして、かろうじて残されたコンクリートの縁に立つ。
そこから恐る恐る下をのぞきこみ……僕は思わず笑みを浮かべる。
……ったく、そこにいやがったのかよ。美紅。
やることはもうあとほんの少しだけだ。
そして僕は。
息を止めるの、今。
fin.
ローリンガール 8 ※二次創作
最終話。
最後には少しだけアンハッピーリフレインの歌詞も入れ込んでみました。初めてアンハッピーリフレインを聴いたとき、ワンフレーズだけ出てくるローリンガールのメロディにとても驚いたのを覚えています。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます。
wowaka様、ローリンガールを始め、数々の素晴らしい楽曲をありがとうございます。
そして同時に、ご冥福をお祈りします。まだまだ新しい楽曲を聴かせてほしかった……と思ってしまうのは、自分のエゴなんだろうな、とは思いますけれど。
と同時に、作中の登場人物の行動について、私がこれを推奨しているわけではありません。
どうしても逃げ場所が見つからない時は、音楽の世界、物語の世界に逃げ込むのが一番だと思っている文吾です。
異世界転生モノと言っておきながら、※ただし、異世界転生するまで という意味不明な注釈をつけることになった本作ですが、楽しんでいただければ幸いです。
また、例によってオマケがあります。
どうしても異世界転生後の話が知りたい、という方は前のバージョンへとお進みください。
オリジナル小説も気になる方はこちらにどうぞ。
「フェルミオンの天蓋」
https://kakuyomu.jp/works/16816700426009125099
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