UV-WARS
第二部「初音ミク」
第一章「ハジメテのオト」
その23「オペレーション」
その五分後に車が来た。来たのはドイツ生まれの高級外車だった。
しかも中から降りてきたのは、金髪ショートの外人だった。
「ヘイ、ボーイ。アイアム、ルナ。よろしくね」
チューブトップにショートパンツ姿にびっくりしたが、彼女が巨乳なのも、結構美人なのも霞んでしまうくらい、気になるものが頭に載っていた。
片方が半分折れ曲がったウサ耳が彼女の頭の上で自己主張していた。
〔突っ込んだら負け、かな?〕
「ユア、カー?」
彼女が指差したので、テッドはコクりと頷いた。
「リペア、ね?」
彼女は、チューブトップの内側からスマートフォンを取り出した。
「レッカーは?」
挨拶もなにも無しで要件に入って、またびっくりした。
「もう向かってる? テトさんが手配済み…」
顔を上げたルナという女性は、遠くに向かって手を振った。
確かに、レッカー車がこちらに向かって来ていた。
「オーケー、ボーイ。家まで送るよ」
ルナはスマートフォンをチューブトップの中に押し込んだ。
その仕草を見てテッドはやっとルナの胸の大きさに気づいた。
途端にテッドは自分がどんな顔をしているか気になった。
「ハリー。乗って」
「ハリー」と聞いて一瞬自分の名前が呼ばれたのかと思ったが、すぐに英語の「急いで」の意味だとテッドは悟った。
テッドは車のドアに手をかけたところで、ルナに声を掛けられた。
「ボーイ、運転したいの?」
言われて、車が左ハンドルであることを思い出したテッドは、慌てて反対側のドアに回った。
ドアを開け、重心の低いシートに腰を下ろしたところで、スマートフォンが鳴った。
テッドがイヤホンを耳に嵌めると、ミクの声が聞こえてきた。
「どうした、ミク?」
テッドは話しながらシートベルトを締めた。
「敵は、トラップ1、バードライム(とりもち)をシートで乗り越えました。捕獲者はゼロです」
「わかった」
そう返事をしたところで車が動き出した。
「ボーイ、舌を噛まないでね」
ルナの言葉より、ジェットコースター並みの加速に、テッドは歯を食いしばった。
街中を猛スピードで車を走らせることは容易に想像できたが、信号も一方通行も無視するとは思わなかった。
「ル、ルナさん?」
「はい?」
ドライバーの横顔はどこか楽しげだった。ただ、視線はまっすぐ前を見据えていて、テッドは少しだけ安心した。
「捕まらないで下さいね、警察に」
「イエス」
その後の単語をテッドは聞き逃した。
「サー、コマンダー」
そうルナが言ったような気がした。
〔窓の外は見ないようにしよう〕
スマートフォンを凝視して、電池の残りが少ないのを確認したテッドはミクに話しかけた。
「ミク、トラップ2、オープン」
「了解しました」
しばらくしてミクが報告してきた。
「一名、トラップホールに落ちましたが、すぐに救出されました」
少し間があってミクの報告が続いた。
「敵はアルミ製梯子を使用して、廊下を越えようとしています」
「わかった。リン、レン、トラップ3、発動」
「了解」
二つの声が重なって聞こえた。
「ルカ、トラップ4、用意」
「了解、マスター」
テッドは息を吸い込んで吐いた。
「ミク、連絡ができなくなった場合の指示を伝える」
「はい、マスター」
「もし、連れ去られそうになったら、抵抗していい。但し、相手を傷つけるな」
「あの、もう少し、具体的に」
「連れ去られそうになったら、柱、梁、家具、人以外の重さが五十キロを超えるものにしがみつけ」
「はい、マスター」
「それから、予防措置として、手と脚を振り回して、敵の接近を防いでもいい」
「了解しました、マスター」
ミクに続いて、リンの声が聞こえた。
「敵にトラップ3、ファントムを突破されました」
「ルカ、トラップ4、発動」
「了解、マスター」
「ミク」
「はい、マスター」
「今から言うとおり行動してくれ…」
車は市街地を抜け、国道に出た。
さらに加速する車の後ろに、白バイが一台張り付いた。
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