中庭に来たアリスと執事は、空を見上げました。もう午後だというのに、空は薄い水色でした。
「・・・きれいね・・・」
アリスは嬉しそうに呟きます。
と、その時。
「あっ!」
驚いて、指をさすアリス。見るとその方向には、雲の切れ間から青い糸が、だらりと垂れ下がっています。
「もしかして、この糸とつながっているかも・・・」
「そうですね。行ってみましょうか」
「そうね・・・。・・・あれ、・・・近づいてるわ」
「へ? ・・・あ、ほんとですね」
アリスに見とれていた執事は、空を見上げます。見ると青い糸をぶら下げたまま、雲の切れ間が2人の方へ少しずつ近づいているところでした。
「・・・不思議ねぇ、あの雲、自分の意思を持っているような気がするわ」
その光景を見ながら、アリスは首を傾げて呟きます。
「そうですね」
執事は、そんなアリスをどこか嬉しそうに見つめて、頷きました。

雲の切れ間は、やがて、2人の頭上まで来ると止まりました。
「風があるのに、雲は止まっているなんて・・・ほんとに、当たりみたいね」
「あ、誰か降りてきますよ」
「あら、ほんとね。・・・でも、なんだかファンタジックじゃないのが残念だわ」
「いやー!! 下に足場が無いとか、勘弁してよーぉ!!」
「ほんとだお・・・。ここから地上まで、何百メートルあるんだお・・・?」
髪の長さはちがうが、色は共にピンクという何とも変わった2人組が、雲の切れ間から降りようとじたばたしているのを見て、アリスはため息をつきたくなりました。
「・・・もう、腕が・・・きゃあああああああああああああああああああ!!!」
「あっ! ミキたん!!」
ついに力尽きてしまった女の子が落下していきます。それを見たもう1人の女の子が、落下していく女の子の名前を叫びながら追いかけるように、自分も落下します。
「・・・アリス様、帰ろうとしないで下さい」
執事は、そそくさと帰ろうとするアリスの肩を掴みました。
「なんか期待外れだったわ。それに、執事の方が上手いのに、私にやらせるなんて、執事も悪趣味よね」
「期待外れとか言っちゃだめですよ。それに、・・・ほら、あれって、1人でやってもおもしろくないですかr「だからって、私を巻き込むのはやめてちょうだい」・・・・・・」
「・・・アリス様」
「何?」
「いや、ですか? ・・・その、・・・僕と、あれをするのが」
「・・・執事の方が分かるのに、何で私にいちいち考えさせるのかしら? いっそのこと、執事が一気にやればいいのよ。その方が手間が省けるじゃないの」
「そんなの、おもしろくありません。アリス様とやるのが楽しいんです」
「分かんない私を、いつも笑ってるくせに?」
「それは・・・」
「あのぅ、もしもーし、2人の世界に浸るのはやめてだおよー、全く」
「いいじゃないですか、微笑ましいですよ♪」
アリスと執事は、会話をやめて、2人のピンクガールにへと目を向ける。
「ほらぁ、テトたんが水を思いっきり差すから」
「だって、こうしないと、話が前に進まないおー!」
「んー、別に後ろに進んでも、よくなぁい?」
「・・・なんか、ボケとツッコミのピンクガールってとこね」
「ピンクガールに、アリス様が加わったら・・・異色トリオですね」
「・・・まぁ、ふざけるのはここまでにして。あなたたちピンクガールは、一体何者なの?」
「ピンクガール1号「ボケはいいわ、呼んでないから」
「・・・ミキたーん・・・」
「はいはい。ここは私が言おうね。・・・私は銀河系1202134号船に乗って移動する、宇宙造設公共空事業用の情報蓄積内容物取扱秘密図書館で、この辺りに1つしかない図書館の司書代表取締役のミキたんと、テトたんです」
「へー、ずいぶん大層な肩書きの割には、ミキたんとテトたんっていう萌え愛称なのねぇ」
「ちょ、アリス様。萌えのことをご存じなんですか?」
執事はずり落ちる眼鏡とうさ耳を付け直して、アリスにたずねました。
「知ってるわ。確か、そこかの島国が発祥の文化の1つよね?」
「それは、そうですけど・・・」
「アリス様も、アリスたん様にしたらいいお!」
ショックから立ち直ったテトたんという髪をぐるぐるツインテールにしている女の子は提案すしました。
「そうねぇ・・・、でもいいわ」
「ミキたーん・・・ひどいお、アリスたん様」
またもやばっさりと切り捨てられ、ショックを受けるテトたん。
「それで、何でミキたんとテトたんがここに降りてきたの?」
「それは、その青い糸があったからです」
アリスの核心めいた言葉に、ミキたんは答えました。
「やっぱり、この糸が何か関係があるのね」
「へぇ、アリス様の推理はすごいですね。・・・あれにも、何とか活かせないですか?」
「私、そんなに幅広い知識は持ってないもの」
「・・・あれって、何だお?」
「テトたんには、一切関係がないわね」
「ミーキーたーん・・・・」
「はいはい。・・・あの、あんまりテトたんをいじめないでくれますか? テトたん、こう見えて打たれ弱いですから」
「・・・しょうがないわね」
「それで、この青い糸の意味って、なんだったんですか?」
不満げに頷くアリスを横目に、執事が質問する。
「・・・青い糸は、空とつながっている。それがほんとかどうかを調べるために、探し回ってたんです」
執事の質問に、ミキたんが返事する。
「その糸は、世界・・・いえ、宇宙にただ1つしかないといわれる、青い糸です」
「・・・この糸が・・・」
ミキたんの言葉に、改めて、自分の手を見るアリス。
「この糸、欲しいのなら、あげるわよ」
「えっ・・・、ほんとですか!?」
しばらくしてぽつんと言ったアリスの言葉に、ミキたんは目を丸くさせました。
「でも、この糸切っちゃったら、もう二度と、二人には会えないんでしょ?」
「あ・・・」
「・・・そうだおね、うん」
「でもいいわ、それでも。今会ったことは、絶対に忘れないもの」
「・・・・・・ちょっと待ってて下さいね」
しばらくして、ミキたんは少し離れた場所に行き、ポケットから携帯電話を取り出し誰かと話し始めました。・・・やがて、携帯電話をたたむとこっちに戻ってきました。
「・・・これ、あげます。あと、執事様にも」
いつの間にか手に持っていたカードを、アリスと執事に手渡すミキたん。
「何これ?」
「それは、特別許可証のカードです。このカードを青空にかざすと、秘密図書館の入口に行けるわけです」
「入口・・・」
「入口入ってすぐに、私とミキたんがいるから、心配しなくていいだおよー!」
「あら、入口入ってすぐにミキたんに会えるのね、嬉しいわー」
「・・・ミキたーん」
「・・・あとで遊ぼうね、テトたん」
「ほんとだお!?」
「ほんとほんと・・・」
「・・・ミキたんも大変ね。私も、執事がいるから、そういう大変さがよく分かるのよ」
「そうなんですか。・・・お互い、がんばりましょうね」
「そうね・・・」
「・・・あの、それで、アリス様の手の青い糸は、どうするんですか?」
「それなら大丈夫。もう、回収しました」
「えっ・・・」
「あらほんと。気付けば、跡形もなく無いわね」
「・・・僕の見てる前で、一体どうやって・・・」
「・・・それじゃあ、一旦さよならね」
「またすぐあとのことかもしれないし、明日、来年、その先の未来かもしれないですね。何しろ、ここと私たちが住む宇宙空間とは全く時間感覚がちがいますから」
「そうね・・・。それまで、元気でね。近いうち、必ず遊びに行くわ」
「分かりました。・・・ちなみにそのカードは何度でも使えますから、気軽に使って下さい。それでは」
最後に、アリスと執事に軽く礼をすると、ミキたんはテトたんを半ば引っ張る形で、雲の切れ間の下に行きました。
「あ・・・」
「どうしました?」
小さく声をあげるアリスに、隣にいた執事はたずねました。
「・・・ちゃんと、雲の上に帰れるかしら?」
「・・・あ」
見ると、思った通り、
「いやー! こんなにもお空が遠いなんて、いやー!!」
「・・・携帯電話使えば、帰れるだお」
「ああ、そうだった! ・・・何番だっけ?」
「3番だお」
「ああ、そうだった! ・・・・・・」
携帯電話を持ったミキたんとテトたんの姿が光に包まれて、消えました。その淡い光の余韻が幻想的で、
「・・・きれいね・・・。終わりよければ、全てよしってね・・・」
「・・・そうですね、アリス様」
アリスと執事は、しばらく眺めていたのでした。



そして、夜。
「あー・・・」
「・・・アリス様、僕を見て逃げようとしないで下さい」
回廊でばったり会ったアリスは気まずそうに目を逸らして、自室へと行こうとしました。そんなアリスを、呼び止める執事は言いました。
「今夜は優しいのにしますから・・・」
「執事には優しくても、私にとっては難しいのよ」
「いいじゃないですかw」
「執事、とりあえず私を巻き込んでまで、あれをしないでよね。じゃ、私寝るから」
「・・・そんなに、僕としたくないんですか。・・・・・・・・・クロスワードパズル」
「したくないわ。じゃあ執事、おやすみ」
「・・・笑う門には?」
「・・・ちょっと、それ、クロスワードパズルの問題?」
ぼそっと呟かれた執事の言葉に、アリスはたずねます。
「そうですよ、アリス様」
「・・・・・・・じゃあ、やる」
少しふてくされたような表情のアリスに、優しく笑いかけた執事。
「な、何よ。べ、別に、執事のためにやるんじゃないんだから・・・ほんとよ?」
「そんなの、分かってますよ。それじゃあ、僕の自室でよければ・・・行きましょうか?」
「え、執事の自室・・・」
少しだけアリスの頬が赤くなったのを、見逃さなかった執事は、
「・・・やっぱり、アリス様の自室にしましょうか。もしも僕の自室で寝ちゃったら、色々と大変ですからね」
「そうね・・・分かったわ」
執事の裏事情に気付かなかったアリスは、頷いたのでした。

それから2人はアリスの自室に行きました。
「・・・なんか、こういう構図ってなんだか昔、お母さんが昔話を読んでくれてた時と、あんまり変わらないわねぇ」
「・・・昔話じゃなくて、クロスワードパズルなんですけどねー」
「まぁ、それはいいわ。それで・・・さっそく始めましょう?」
「分かりました。では、たてのカギから・・・」

数分後。

「・・・」
「・・・アリス様?」
「・・・」
「・・・・・・寝ちゃったんですか」
「・・・」
「おやすみなさい、アリス様」
執事はしばらくアリスを見つめてから、部屋をあとにしたのでした。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

不思議の国のアリスとうさ耳&執事+眼鏡verカイト その25

こんにちは、もごもご犬ですこんばんは!
これ打ち込んでいる時に、あめ食べ過ぎてだめだなーと思いつつもあめを食べてました←

今回は、残念ながら秘密の図書館本体ではなくその司書2人組が登場してきただけです><
いつか、秘密の図書館の構造とか書いてみたいです・・・!

次回は、まだ未定ですが、お楽しみに!^^

閲覧数:130

投稿日:2010/12/04 16:12:36

文字数:4,370文字

カテゴリ:小説

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