・メイミク風味…てかこれからメイミクになれば良い
・メイコ姐さんは夜の蝶
黒に浮かぶキラキラした照明を見ていると、なんだか目がぼうっとしてしまう。
だったら、表現はキラキラなんて可愛いモンじゃないか
むしろギラギラ
人工の照明は、作った人に似ている気がした。
この街に居るどの人間とも同じ性質を持ってる。もちろん、あたしも
真っ赤なパーティドレスを着て自慢の大きな胸を男の人に押しつけていたあたしは、外の外気に鳥肌を立てながら男の人から身体を離した。
温かさは心残りだけれど、この人は体臭がキツいから苦手なのよね
今度クリスマスだから、香水でもプレゼントしようと心のメモにきっちり赤ペンで書く。
男は、酔って真っ赤な顔をヘラヘラさせて見下げてきた。
視線は胸、本当嫌ね。そんなに触りたいなら、クリスマスプレゼントはおっぱいマットにしてあげるわよ。
それでもあたしは、プロ
笑顔を張りつけたまま男の背中をポンと叩いた
「また来てね。待ってるんだから」
「また来るよー。メイコちゃーん」
まだ離れようとしない男をサッサと帰そうと事前に用意したタクシーにつめこむ
そうじゃないと、この男はヤレ何だかんだとホテルに連れ込もうとするのだ。
店の娘たちが何人か断り切れずに連れ込まれそうになったのを、何度止めに行っただろう。おかげさまで、あたしがこの男の担当になってしまった。
「ねえ、お店もう終わりでしょー?ね、おごるから他の店行かない?」
「んー…ごめんね、あたし今日新人の教育しなきゃいけないんだ。また来るの待ってるから」
サッサと行って
タクシーのおっちゃんに、駅までと言うと話を終わらせて一歩下がった。
すると無情にもドアがしめられる。おっちゃんありがとう、今度うちの店で飲んでいってよ
笑顔で手を振ると、やっとタクシーは男を乗せて駅へと旅立っていった。
体臭と女の子へのセクハラがなくなったら良い客なんだけれどね、とタクシーの尻を見ながらポツリと思う。
金払い良いし、金払い良いし、金払い良いし
ため息をひとつつくけれど、あの男が変わるわけもない
せいぜい奥さんにここに通ってるのがバレるまで、お金を振り込んでいけばいいと思う
さて、ではもうあたしも店に戻るか
そう思って、踵を返そうとしたあたしは視界の先にチラリとはいったものに扉の前で立ち止まることとなった。
ネオンが目に入った。それは良い
煌びやかな、ドレスを着た女性。これも良い
変なスーツの男たち、まあこれもありがち
でも制服をきた女なんて
イメクラにしても寒そうな格好だし、一体どんな店が女の子にそんな仕打ちをしているのだろうと振り返る。
顔が可愛かったらうちの店にでも引き抜こうかしら、なんて、ちょっと悪い心も働いた。
顔は、良い。可愛い部類。
煌びやかな、フェロモンが出ているこの街の女の子たちとは違って純粋な感じが親父たちにはウケそうな
身体も細身で、背も小さめ。おまけに胸もあまりない。
これじゃあ、イメクラをしていてもロリコンの男たちしか寄ってこないだろう
困ったようにうつむいた顔がまた、守ってあげたいというような気持ちをかりたたされて…
ではなく
「え、え、ちょ、ちょっと!」
思わず声をかけた。
それは、その子をうちの店に引き抜こうとかそういう魂胆じゃなかった
「ちょっと、そう、アンタよアンタ」
その子の腕をつかむと、女の子はちょっと泣きそうな顔をしてあたしを見上げた。
この街のこの時間には不釣り合いな顔立ちの少女、そう、少女だ。
どう見たって少女、未成年。化粧っ気なんてものない。オンナでない少女だ
「アンタ、何してんのこんなところで。未成年よね」
「…や、その……すみません、帰ります」
女の子は、親や先生にでも怒られたように震えてあたしの顔を見ずに逃げようとする
そんな様子の彼女を見て、酔っ払った顔の親父が彼女に近づこうとしているのが見えた。
離したら、この子食われる
どう見たってウリでもなさそうな少女の腕をつかむ手に力がこもる
「すみませんじゃないでしょ。ちょっとアンタ気なさい」
「ごめんなさいっ、大丈夫です。帰ります…!」
「帰りますじゃないのよ!良いからきなさい!」
怖さからだろうか、女の子はとうとう泣きだしてしまった。
そうなるともう力なんてないもの
ズルズルと腰が引けてる彼女を店の玄関まで連れていって、そのまま扉を閉める。
まったく、あたしがそんな悪者に見えるっていうの
女の子は店に入ったとたん、両手で涙をぬぐって肩を震わせた。
「ったく、こんな時間に何してんのよ。ここがどこだかわかってんの?」
「はい…すみません……」
「アンタいくつ?」
「16…」
「じゅうろくぅ!?」
高校一年じゃない…。
時間を見るととっくに補導される時間になっている。当たり前だ、あたしが店あがりなんだから
警察は何をしてんのよ、ったく!と何だか怒りさえ覚えてしまう
取りあえず落ちつかせようと少しかがむと、可哀想に顔が真っ赤になっていた。
「もう、そんなに泣かないの。何も取って食おうってんじゃないんだから。アンタ変な人に狙われてたのわからなかった?」
「変な、人…です、か…?」
わかってなかったらしい
ため息をついて頭を抱える。何でこんな子がこんな時間にこんなとこに…
あたしが見つけてなかったら本当に大事なことになっていたみたいだ。
「うちはどこ?親は?」
「……」
頭を横に振られた。
え、何よ。それは親はいない一人身ってことなの
と聞こうにも、もしそうだったらどうしようもないし。
何より泣くのを止めてくれないため、質問しようにもしずらい。困ったことになった。
「……名前は?」
「………………ミク」
「そう、ミク。あたしはメイコよ」
「はい…」
「取りあえず、店、奥に入って。落ちついたら、家まで送ってくから」
もーう、泣かないの!
と乱暴にミクの顔をあたしの手でぬぐうと、可愛い顔がせいいっぱい涙をためてうなずいた。
なんだか捨て犬でも拾った気分だ。
あたしは、ミクの震える肩を抱くとそのまま彼女を店の奥に連れていった。
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